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基本方針にない休校要請に現場混乱。各紙はどう受け止めたのか?

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、全国すべての小、中、高校などに春休みまでの臨時休校を要請した安倍首相。事前の「基本方針」に含まれない「休校要請」を新聞各紙はどう受け止め伝えたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんは、メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、各紙の記事を詳しく解説。その中で「基本方針」は、国民の評判を異様に気にする政権が上げた「観測気球」で、緩いとの批判に反応してのイベント自粛要請、休校要請であると自説も披露しています。

全小中高の「休校要請」を各紙はどう受け止めたか?

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…全国小中高の休校 要請
《読売》…全小中高の休校要請
《毎日》…全小中高に休校要請
《東京》…全国小中高休校へ

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…日本リスク 世界が警戒
《読売》…休校 授業時間足らず
《毎日》…米軍優遇 浮き彫り
《東京》…小児科医に聞く 子どもの感染予防

【プロフィール】

■なぜ全国一律?■《朝日》
■「断固たる措置」■《読売》
■首相による説明を■《毎日》
■文科省は「実施困難」と…■《東京》

なぜ全国一律?

【朝日】は1面トップ記事の最後段を「視点」と銘打ち、医療担当の阿部彰芳記者がコメントしている。

首相の要請は「子どもや教師だけでなく社会・経済へのインパクトは甚大」として、例えば子育て中の医療者が休みを取らざるを得ないことになれば、ギリギリ踏ん張っていた医療体制が崩れてしまうことはないかと、具体的な懸念を表明している。前日に行われたスポーツ・文化イベントへの自粛要請も唐突で、繰り返される「説明のなさ」は社会的な混乱と無用な不安の増幅をもたらすと。

25日の基本方針には「全国一律」に踏み切る記載はなかったとして、「この2日間で事態が変わったのか?なぜ全国一律?社会に及ぼす負担の大きさを上回る効果が期待できるのか?」と疑問を呈している。

uttiiの眼

どちらかというと安倍氏の「大英断」という受け止めが多い中、かなり深刻な疑問を呈していて、疑問そのものは全くその通りだと思う。この種の記事にしては激しい筆致で「クエスチョンマーク」が3つも立て続けに使われているのも珍しい。だが、なぜこの「全国一律」の要請が行われたかはむしろ分かりやすい話ではないかと思う。25日の基本方針が緩すぎて評判が悪かったため、まずはイベント自粛の要請、次いで休校要請を行ったのではないか。

「基本方針」は観測気球であり、その後の2日続きの「要請」で評価を得ればいいという計算。安倍内閣はとにかく、異様なほどに「評判」を気にする内閣。それは支持率に直結することだけに、彼らの最大の関心事になっていると思われる。余計なことだが、そのようなものであるが故の「底の浅さ」として、批判の論点を述べた方が、より強いインパクトがあったのではないだろうか。

「断固たる措置」

【読売】はやはり1面トップ記事の最後段に記者の解説的な部分があり、見出しは「拡大阻止へ 異例の決断」、書いているのは政治部の今井隆という記者だ。

記者は首相の要請について、「子供は重症化しにくいとされるものの、学校が感染者の相次ぐクラスターと化し、また次のクラスターを生み出す悪循環を阻止するため、断固たる措置をとった」と書いている。それでも、この要請が基本方針に書かれていたものではなかったことについては「ドタバタ感は否めない」とやや批判的なニュアンス。「政府の対策は後手に回っているとの批判が強まっており、挽回したいとの思惑も見え隠れする」とも。

uttiiの眼

《読売》政治部の記者にしては…という限定付きだが、バランスの取れた内容になっていて、「臨時休校をいきなり突きつけられた生徒や保護者に動揺が拡がっている」との気配りを見せるとともに、「影響を受けるひとり親や共働きの保護者らへの支援策などを早急に検討しなければならない」と政策パッケージの必要性を指摘。「一連の措置には、7月に東京五輪開幕を控え、日本が感染国とのイメージが定着する事態を避けようとする政府の強い意志も背景にあるようだ」との分析も。まあ、当たり前だけれど…。

首相による説明を

【毎日】は取材記者によるコメントの形ではなく、5面の社説で対応している。タイトルは「首相の全国休校要請」「混乱招かぬ対策が必要だ」。

「非常事態の対応とはいえ、国民生活への影響は免れない」というのが基本的な認識。首相の要請を是認しながら、悪影響を最小限にするよう求めている。

それでも、この要請の出され方については、大規模イベントの自粛要請と同様、政府の「基本方針」に含まれていない内容であって、「唐突すぎる」と批判。混乱を最小限にするためには首相が早期に詳しい説明をする必要があると言っている。

他紙と同様、共働きやひとり親家庭で、子供が小さい場合は1人で自宅に待機させることになり、その場合、子供の状態に合わせて仕事を休むか、自宅で働くなどの対応をするうえで、企業の協力が欠かせないとする。社説子が特に心配しているのは、非正規労働者のケース。「家にいることで給与を得られなくなれば、生活に困る面も出てくる」と。さらに「学習の遅れへの対応」や「学校を円滑に再開するための配慮」を求めている。

uttiiの眼

ひとり親、共働きの場合の非正規率は、労働者全体における比率4割を大きく上回っているはずだ。休業=収入減となるのは必定で、該当する家庭では困惑が拡がっている可能性が高い。まさに社説子が言うように、緊急に様々な手当を実施する必要があると思う。香港は18歳以上の市民700万人に1人14万円を支給することで、様々なシーンで困難を抱えることになる市民への手当をしているそうだが、参考になるはずだ。

文科省は「実施困難」と…

【東京】は少なくとも今朝の紙面で、記者のコメントや社説などによる「首相要請」への評価は行っていない。飽くまで、取材対象に語らせるやり方になっているので、社会面の記事を紹介することにしよう。27面。見出しを以下に。

保護者「仕事休めず」
年度末 教諭ら対応苦慮
新型肺炎 突然の休校要請
障害ある子は 低学年は
「留守番できない子も」
文科省「現場を考えていない」

東京・板橋区の40歳のパート女性は小学1年の長男の居場所がなくなるとして、仕事は休めず、仮に休めても給料は保証されないと困惑。遊び場もなく、長男は「どこで何をして過ごせばいいのか」と途方に暮れているという。品川区の共働きの36歳男性会社員も小学2年生の長男を日中ずっと1人で過ごさせるのは難しく、「仕事を休むか両親に頼るしかない」と話している。北海道石狩市の会社員は、重度の知的障害がある小学5年の娘について、「特別支援学校の他にも、利用している放課後デイサービスが一部閉鎖され」たといい、困っているという。

記事には、首相要請を知った文科省省内の驚きの様子が描かれている。ニュースが流れると担当職員らは総立ちになり、テレビの前に駆け寄ったという。官邸サイドからは一斉休校の打診を受けていたというが、文科省としては「実施困難」と伝えていたのだという。

uttiiの眼

社会部の取材の範囲では、「要請」に対する否定的な反応がほとんどになるのは当然だろう。問題の当事者であるひとり親や共働きのケースでは「仕方がない」という反応はあり得ないからだ。

想像するに、少なくとも今日の段階では、《東京》としては「首相の大英断」は勿論、非常時なので仕方がないというような「物分かりのいい」態度は取りたくないと考えたのかも知れない。実際、各自治体の反応が出てみないことには、要請通りにワークするものかどうかさえ分からず、逆に、要請に従う自治体が少なければ、首相の政治的責任を問う声さえ高まる可能性があるだろう。この政策、まだどっちに転ぶか分からない。

image by: shutterstock

内田誠この著者の記事一覧

ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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