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深刻な中小企業への打撃。新型肺炎は日本経済を破綻に導くのか?

新型肺炎の感染拡大とそれに伴う対応の影響は、我が国の経済にさらなる深刻な打撃をもたらすことは確実なようです。ジャーナリストの内田誠さんは今回、自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、新聞各紙の経済記事に注目し現在の日本経済の状況を把握するとともに、今後の展望を占っています。

新型肺炎の拡大とその対策が経済に及ぼす影響を、新聞各紙はどう伝えたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…保護者休業 最大8,330円助成
《読売》…若い世代 拡散リスク
《毎日》…軽症者から感染拡大
《東京》…外務省「原爆展 変更を」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「若者、気づかず感染拡大」
《読売》…株安連鎖 焦る日銀
《毎日》…肺炎検査 答弁ズレ
《東京》…コロナ不況 突入の恐れ

プロフィール

新型コロナウィルスの感染拡大とスポーツやコンサートなどの大規模イベントの中止、さらに小中高校などの一斉休校が、経済にどのような影響を及ぼすかについて、各紙の取り上げ方を見て見たいと思います。

■時差出勤やテレワークは非現実的■《朝日》
■小売業界への影響■《読売》
■減・減・減■《毎日》
■近づくコロナ不況■《東京》

時差出勤やテレワークは非現実的

【朝日】は9面に、休校などに伴う対応についての大きな記事。その最後段に、中小企業への深刻な影響に関する記述。見出しから。

感染の拡大と共に中小企業の景況感が急速に悪化し、なかには経営破綻する事業者も出始めているという。これまでにクルーズ船運航会社ルミナスクルーズ、学習塾の志学アカデミーの破綻が明らかになっている。日本商工会議所は「多くの業種で悲鳴に近い声が出ている」と。2月の早期景気観測調査での業況DI(前年同月比で「好転」と答えた企業数から「悪化」と答えた企業数を引いたもの)は全産業でマイナス32.6。1月に比べて5.8ポイントの落ち込みだったという。「非常に大きな落ち込み」(三村日商会頭)だと。

uttiiの眼

中小企業への影響と対応については、大企業とは同列に論じられないということが重要なのだと思う。記事中、中小メーカーなどの労組で作る産別組織JAMの会長が「時差出勤やテレワークは中小の製造業では現実的ではない。4月に入ると在庫もなくなり、より厳しい状況になるのでは」と指摘しているのが紹介されている。

日商は、休職に伴う新たな助成金を、個人事業主ら経営者にも拡大するなど、具体的な措置を求めていくという。ただ、こうした枠組みが作られたとしても、助成金から排除されている「フリーランス」あるいは個人事業主(一人親方を含む)の窮状を救うことにはならない。「学校」というインフラを奪われることの悪影響は、弱い立場の人々にこそ大きくのし掛かっている。

小売業界への影響

【読売】は7面に大きな記事。見出しから。

《読売》の関心は「小売業」。売上のおよそ2割減少は各社共通のようだ。さらに「今後は客足の減少だけでなく、小学校などの臨時休校により従業員の確保にも苦労しそうだ」という。

百貨店の場合は、そもそもユニクロなどの台頭やネット通販に押されて若者を中心に百貨店離れが進む中、頼っていた訪日客が来なくなったという形。「訪日客頼みのもろさが露呈した形」だという。

小学生の子どもがいる従業員がいつもどおりに出勤できなくなった影響は、デパートの営業時間短縮や牛丼チェーンでのメニュー限定などの形で現れている。

uttiiの眼

小売業への関心を突き詰めれば、「消費の落ち込み」という冷厳な結果を直視することになり、やがてはGDPへの影響という形で顕在化するのを見届けなければならない。エコノミストは「訪日客だけでなく、日本人も外出を自粛するようになってきた。全国で影響が出ており、消費の落ち込みが日本経済に与える打撃が心配だ」と話しているという。意味としては同じようなものだが、《読売》はGDPへの影響を活字にすることに、躊躇があるのかも知れない。「不況」という言葉も出てこない。

減・減・減

【毎日】も7面。売上の減少についてのまとめ的な記事を掲載。見出しから。

見出し中、「百貨店」「旅館宿泊」「新車」だけ黒バック白抜きで際立たせているので、“3連発”という印象。見出しの最後は、どれも「減」になっている。

百貨店については大手4社のそれぞれについて書いている。「訪日外国人客の減少の他、「国内客も2月後半に国内で感染拡大が報じられた頃から一段と落ち、その後の政府による外出やイベント自粛要請でもう一段落ちた」と話すのは三越伊勢丹の担当者。この先さらに、時短や臨時休業で売上は落ちる見込みのようだ。

日本旅館協会の調べでは、37道府県の約400の宿泊施設で、3~5月の予約人数が前年同期比45.2%減となっている。政府の「自粛要請」で直近の数字はもっと悪いだろうとも。なかには予約ゼロになったところも。

2月の国内新車販売台数は前年同月比10.3%減。昨年10月から5カ月連続の減少。

uttiiの眼

消費動向が、新型コロナウィルスを巡る日本社会の状況に対して、非常に鋭敏に反応したことが分かる。この先、検査数が増えれば、感染の実態はもっと深刻なものであることが分かるかも知れない。そうでないことを祈るが、仮にそうなったときには、さらに大きな影響が生じ、強い産業政策が必要になってくるのかもしれない。

近づくコロナ不況

【東京】は1面中央の記事と2面の解説記事「核心」。見出しから。

1面

2面

1面は、他紙も引用している大手百貨店4社の売上高に関する発表を比較的細かく紹介。百貨店の売上高に占める訪日外国人客の比率は1割前後だが、中国人に人気の化粧品や高級ブランド品を中心に売り上げは6~7割減だったらしい。

また、大和総研によれば、今年2~5月の個人消費の抑制額は3.8兆円に達していて、東日本大震災後の3.6兆円を上回ると試算。東日本中心だった震災の時と違い、今回は政府の自粛要請のために悪影響が全国に及ぶという。1-3月期のGDPがマイナス成長に陥る可能性を指摘するエコノミストもいるようだ(明治安田生命保険のチーフエコノミスト)。

2面。やはり百貨店の売り上げの落ち込みと、中国からの部品供給がなくなったために止まらざるを得ない国内製造業への打撃について書いている。また、財務省発表の法人企業統計で明らかになった設備投資の落ち込み(3年ぶり)で、9日発表のGDP改定値は年率換算-6.3%からさらに下方修正される可能性があるという。こうしたことから、《東京》は「不況に突入する恐れが強まってきた」
(リード)とする。名付けて「コロナ不況」。

uttiiの眼

他の各紙がなかなか書けない「不況」という言葉を出しているのが、《東京》の最大の特徴。GDPの改定値が下方修正されるのは確実で、仮にしなかった場合、統計への不信感がまたもや再燃するかもしれず、財務省はどうしたらいいか、悩んでいるに違いない。

image by: Rodrigo Reyes Marin / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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