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封じられた「ふれあい」。支援の現場で感じる新型ウイルスの影響

新型コロナウイルスの感染拡大により、人との接触をなるべく避けようとする雰囲気が社会を覆っています。致し方ない面はありますが、支援を必要とする人たちとのコミュニケーションにおいて「ふれあい」が封じられることには大きな影響があるようです。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』著者の引地達也さんは、現場で感じる閉塞感を伝えるとともに、学校という「ふれあい」の場も閉じられてしまった現状を危惧しています。

「ふれあい」が封じ込められる社会の閉塞

先日、通信制高校の教員に対し丸一日の研修を行ったが、新型コロナウイルスの影響を考慮し、私が準備していたプログラムを自主的に変更することにした。

研修の目的は困難さや生きづらさを抱えている生徒に対して教員が「リーディング」(導き)する役割であるという新しい認識を促し、学問を教えるだけではなく就労支援も含めた動きを習得すること、だった。

これは新しい発見を要する。これまでの価値観の延長線上で考えるのではなく、新しい気づきの必要性から、講義型ではなく、体や声を使った、参加者が互いに交じり合う体感ワークを多用するプログラムを準備していた。

しかし、交じり合いという接触を回避するのが望ましい現状で、プログラムは講義や参加者同士の対話を中心に行うことになり、人と人との接触が控えめになる雰囲気に居心地の悪さと閉塞感を覚えている。

人とのふれあいというコミュニケーションは聴覚や視覚だけではなく、触覚も織り交ぜながら、時にはその触覚が安心や団結という強いメッセージとなって勇気を与えてくれるから、ふれあいは社会の高濃度の潤滑油のようだ。

他人同士が距離を置くあいさつの文化が発展した日本でも、親しくなればスキンシップも頻繁になる。楽しさを体で共有できる瞬間は幸福の絶頂だ。スキンシップには国や文化によって厳格なルールがあるから、五輪を迎えるこの年に日本はダイバーシティの名の下で、多種多様なものを理解し受け入れるためのプロセスとして、ふれあい、の文化への理解が進むはずだった。今回はそのではなをくじかれた格好ともなった。

あいさつに握手をする韓国や、時には抱き合うイタリアに比べ、人同士の肉体的な接触が少なく一定の距離を保つのが日本のあいさつ文化ではあるが、この事態で気づいてみると、結構握手をしたり肩をたたいたり、他者と接触をしていた自分がいたのに気づく。中学高校と男子校で育った私は、男同士がじゃれあうのに抵抗感がない部類なのかもしれない。

私たちは言葉によるコミュニケーションを対話の中心に置いているが、体と体のふれあいは関係性を強調するために、明確な意図を持って行われる場合も多い。選挙活動の握手が典型例だ。

支援活動をしている私の場合、事業所に通う方が「就労決まりました」と報告に来ると、「よかった!」と思わず抱きしめてしまうのは、意図的ではなく、「自然」の発露だと思っている。やはり、嬉しいものは嬉しいのである。

もちろん、これは対男性にだけの行為であり、女性には距離を保ちつつ紳士的な態度での「ふれあい」(ふれあわなくても)を心がけている。そして、新型コロナウイルスの出現でこれら「ふれあい」が封じられるのは、感情表現の一部を封印されたようなものとなる。

政府が発表した小中学校で突然の休み宣言には、戸惑いも多いだろう。学校は究極のふれあいの場所であり、その意味のなさそうなふれあい行動は多くの動物にも見られる遊びの中にある生活訓練の一部だ。

学校は学問だけではなく、体を通じたコミュニケーションにより社会性を身に着ける極めて重要な場所だから、その場を奪ってしまうのは重大な決断である。障害者の学び、を推進する立場としては、学校だから命を守れるのではないか、とも思う。

戦後に青空学校から戦災復興が始まったと教科書で教えられた。学校は、東日本大震災では地域の避難所となり、そこから人びとの生活再建が始まった。

地域の学校は子供たちだけではなく地域の命をも育む場所であり、そこは国家がコントロールできる領域である。そのコントロールを休校で済ますのではなく、学校が育む命を守るためには、まだまだやることがたくさんあるはずである、と思う。

image by: shutterstock

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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