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国際交渉人が予測した新型コロナによる世界の分断と新時代の到来

新型コロナウイルスの感染の中心地は欧州全域とアメリカに移り、各国が自国内の施策に加え、他国との往来を制限する事態となっています。この状況は、トランプ大統領の登場以降に蔓延していた自国主義をさらに推し進めることになると、メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者で、国際交渉人の島田久仁彦さんは警戒します。しかし同時に、リモートワークなど社会のあり方の変化が加速すること、ウイルス封じ込めに必要なワクチン開発などの分野での国際協調は失われていないことに希望も見出しています。

新型コロナウイルスの蔓延が引き起こした分断とパニック

中国・武漢市と湖北省に端を発した新型コロナウイルスの蔓延。その震源地はついにアジアから欧州全域に移りました。イタリアでの死者の数は中国の死者数を超え、フランスやスペイン、オーストリアなどでは相次いで国家非常宣言と共に外出禁止令や国境閉鎖という状況になり、比較的、国境閉鎖に否定的だったはずのドイツでさえ、国境を実質的に閉じるということになりました。

また、アメリカでも感染者が増え、ついには非常事態宣言が出されたことで、NYCやサンフランシスコという大都市で外出の制限がかかる事態になりましたし、トランプ大統領は苦渋の決断として、欧州全域からの入国拒否の措置を取りました。現時点で、その名の通り、パンデミックは収まる気配がありません。

ここまで読まれて「また島田は煽るつもりか?」とお感じならば、今回はここでお読みなるのをストップしてください。これまでに何度か書いてきた内容そして起こっていることが、本当に私の妄想だったかどうかは皆さんの判断に委ねます。

さて、今回の新型コロナウイルスの蔓延(COVID-19/SARS-COV-2)は、これまでのところ世界に何をもたらしてきたでしょうか?1つ目は、言うまでもなく、未曽有のパニックです。中国発の感染病は、そのウイルスの形態を変え、自らevolveしながら世界に広がり、すでに2か月以上にわたり混乱と感染を広げています。そして、パンデミック宣言がなされた後も、未だに根本的な封じ込め策は見つからず、世界にパニックと不安をまき散らしています。

一応、G7首脳会議や財務大臣・中央銀行総裁会議などをビデオ会議の形式で行い、封じ込めのために協調して当たる旨、公言し、各国ともに金融政策での対策を講じていますが、残念ながら効果は期待したほどではなく、世界的な株安に歯止めがかかりません。

よく2008年のリーマンショックの際のパニックと比較される報道を見かけますが、根本的な違いは、今回のコロナウイルスの蔓延によって引き起こされた経済的なパニックは、金融政策のみでは対応できないということでしょう。

経済・消費活動が、移動の制限と感染の恐怖で停滞し、実質的な企業活動の停止と負のインパクトの連鎖が世界中で起こっています。顕著な例が、航空業界の存続の危機ともいえる状況と旅行業界の実質的な麻痺、エンタメ業界の灯が消え、レストランなどの外食産業も、デリバリー部門を除けば、大スランプ、そして製造業も移動の制限による流通の遮断により、活動が非常に困難になることで、ほぼ全セクターにわたる経済的なスランプとなっています。

結果、市場に対する信頼は失われ、それが全世界的な株安と、ジェットコースターのような乱高下を繰り返す市場の状況を生んでいるように思います。今、いかなる協調的な介入も不発に終わりがちな元凶は何かといえば、2008年のリーマンショックの後に誕生したG20による協調体制が、2017年のトランプ政権の誕生以来、国際協調の終焉が始まり、アメリカを起点とした自国第一主義が世界に蔓延したことで、協調に基づいたunified actionsが主要国で取れなくなったことにあると考えます。

その例が、“協調した”金融政策とは名ばかりで、各国政府と中央銀行が独自に経済政策と金融措置を発行し、その他の政策手段も、国境封鎖や入国拒否といったように協調ではなく、自国を守ることに専念した内向きのベクトルに変わっています。このような内向きの対策の連発により、世界は分断を明確にすることになったと思われます。そこに止めを刺したのが、恐らく今回のCOVID-19です。

原油安と米中の非難の応酬

その分断は、うまくロシアのプーチン大統領に“利用”され、OPEC Plusでの協調減産の崩壊へと誘導された結果、新型コロナウイルスの蔓延によって掻き立てられた市場への不安からの株安に、原油価格の著しい下落という要素を加味することで、世界を混乱とパニックの渦に巻き込むことになっていると言えます。

ロシアとOPECの雄であるサウジアラビアによって行われる増産というチキンレースに他の産油国(中東)も乗せられて、原油先物価格の下落が止まりません。消費者的には原油価格の低下は実生活にはプラスですが、イントロのロシアのたくらみのところでも触れたように、1バレル20ドル台の原油価格は、産出コストの高いアメリカのシェール企業の収支を著しく悪化させることで、アメリカの経済を停滞させ、増産による原油価格の下落は、中東の産油国の資金力を削ぐことになり、主にアメリカのスタートアップやテック産業に投資されていた潤沢なオイルマネーの引き揚げにつながることで、アメリカ企業はもちろん、米ドルとNYSEに連動する世界経済に非常にシビアな冷や水を浴びせる結果になりました。

「マーケットの底はどこだろう?」と投資家たちのパニックを引き起こし、より相互への不信が世界で増大するという、まさに分断の世界地図が生まれています。そう、第1次世界大戦直前や第2次世界大戦直前のように。

戦争と言えば、ずっと続いていた米中の多方面での“戦争”に『バイオテロを巡る責任転嫁と非難の応酬』が加わりました。バイオテロなのか否か、バイオテロ・人為的なウイルスの拡散だとしたら真犯人は誰か。その答えは、実際の実行犯にしか分かりませんが、米中の争いは、経済や貿易という側面に留まらず、世界中の住民の生命の危機を招くというPoint of No Returnの様相を見せ、非常に危険なレベルに達していると言えます。

これが『誰かの謀略』なのか。それとも『完全な計算間違いで自らをも危機に晒すことになった』のか、それとも本当に『感染病の蔓延で、それは各国のプライドゆえの対策の遅れが招いた人為的なミス』なのかは言い切れませんが、確実に言えることは、世界中で相互に対するtrust levelが著しく損なわれたということでしょう。アジア人に対する差別と暴行から始まり、それが今では感染者への差別へと発展し、コミュニティーが成り立たない危機に瀕しているということでしょう。

拡大するオンラインビジネス

今回のCOVID-19の蔓延は、間違いなく後世に語り継がれる歴史上の危機となるでしょうし、私たちが今、戦っている見えない敵は、思いの外、手ごわいと言えます。しかし、あえて批判を覚悟でいうと、今回の新型コロナウイルスの蔓延は負の要素が目立ちますが、必ずしもAll Negativeとへ言えないのではないかと考えています。

こじつけかもしれませんが、新型コロナウイルスの蔓延により移動が制限され、オフィスに出向く形での仕事の仕方や、学校の教室で集団で学習するという旧来からのパターンが不可能になる中、新たな時代の働き方や学び方への完全な離陸を後押ししたと言えるのではないかと思うのです。

ICT(Information and Communication Technology)を駆使したリモートワークやビデオ会議システムの活用拡大、e-learningの提供による自らのペースで学び学習することが出来る環境の社会レベルでの実践、そして店舗における需給のマッチングは、オンラインベースでのビジネスの拡大によってカバーされ始め、生活物資のオンラインでの調達と宅配の拡大を招きました。

移動の制限と従来の生産や余暇の活動を巡る経済は大打撃を受けて、航空業界をはじめ大規模なレイオフ(雇用の著しいカット)や、日本の場合、新規採用の内定取り消しという笑えない状況を生んでいますが、その一方、アマゾンをはじめとするオンラインビジネスは、宅配のための人員確保のために10万人強の新規雇用を募集し、他のオンライン系のビジネスもその流れに続いているという、別の経済活動の拡大と発展を後押しするという、皮肉な状況になっています。

オンライン会議システムを提供するZoomは、その需要の拡大に追いつけず、新規に採用しようとするビジネスからの要望に応えきれていないという状況を生んでいますが、確実に拡大と成長に加速がかかりましたし、Skype BusinessやSlack、V-CubeやMicrosoft Teamsといったシステムは爆発的な利用拡大による成長を記録しています。

私も交渉や調停という仕事柄、本来は対面方式の仕事が主でしたが、現状下で移動を制限し、代わりにほとんどネットワークの遅延が起こらず、また追加のセキュリティーをかけたオンラインシステムで、紛争調停やビジネス上のディールの交渉などが行えるようになり、今後、仕事の仕方が変わりそうな予感です。

これまでの従来型の働き方や学び方のスタイルから、もしかしたらリモートでも十分仕事も学びも成り立ち、「十分これでやっていける」という気づきによって、予想よりも早くAIなどの恩恵を受けたNew Styleの経済に移行できるきっかけになるかもしれません。そうすれば、私たちの幸福度も改善されるかもしれません。もちろん、その前に新型コロナウイルスの蔓延が封じ込められることが条件ですが。

国際協調主義への回帰は実現するのか

また、今回の危機により、唯一成り立っている協調は、新型コロナウイルス感染に対するワクチン開発とウイルス情報の世界的なシェアでしょう。SARSのパンデミックが起きた2003年よりも、科学の知見とレベルは大幅に発展しており、その発展は、SARSやエボラの時よりも、ワクチン開発と対応をより容易に、現実的にしていると言えるでしょう。

すでにエボラ対策やHIV,インフル対策のために開発された既存のワクチンや薬剤が、新型コロナウイルスの蔓延の抑止に役立つというケースが発表されていますし、日本発の膵臓疾患のための薬も有効であることが発表されるなど、希望の光も見えるようになってきました。

トランプ大統領とドイツが、ドイツで開発中のワクチンを巡る小競り合いをするという、若干呆れてしまうような事態もありますが、もしかしたら、そう遠くないうちにワクチンによる大規模かつ急速な封じ込めが可能になるかもしれません。

希望は持っていたいですし、国際協調の有効性にかけたいと私は思いますが、今大事なことは、自国の利益のみをまず追及する最近の傾向を、今回の脅威を機にストップし、再度、世界が協力して脅威に立ち向かい、ともに栄えるという国際協調主義への回帰を目指すことかと考えます。

このままでは7月24日からスタート予定の東京オリンピックとパラリンピックの予定通りの開催が危ぶまれますが、もし開催できるのであれば、その機会をぜひ名ばかりの平和の祭典ではなく、本当に世界中がスポーツを通じてまとまり、また世界の平和のために心を一つにするチャンスにしたいと願っています。

私が今回書いたことは、めでたい妄想かもしれませんが、決して私は不可能だとは思っていません。とはいえ、まず大事なのは、新型コロナウイルスの蔓延がもたらす恐怖と相互不信を取り除くこと。そのためにも皆さん、しっかりと手を洗って予防すると同時に、自分から他人にうつさないための最大の努力と他者を思いやる配慮を忘れないようにしましょう。

一日も早く事態が収束し、今回の経験から学び、分かった新しい生き方を実現し、その利益を享受できる日が来るように祈っています。

image by: Evan El-Amin / shutterstock

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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