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米企業開発の新型コロナワクチンがスピード治験に成功した理由

5月18日、新型コロナウイルスワクチンの開発を進めるアメリカのバイオテック企業モデルナ社が、少人数に対する初期段階の治験で有望な結果を得たと発表しました。1~2年は要すると言われるワクチン開発で、初期段階とはいえこれほど早くに成果を上げられたのはなぜなのでしょうか?メルマガ『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』の著者で米国在住の医学博士・しんコロさんが、モデルナ社によるRNAワクチンと従来のワクチンの違いと、開発の次の段階に待ち受ける課題を解説しています。

ハチに追われてプールに飛び込む感じ

日本では部分的に緊急事態宣言が解除されたそうですが、皆さんの生活にはどのような変化が生まれましたか? 感染者の増加率が減少したとしても、感染者の絶対数はまだまだ多いです。感染拡大の第二波には本当に気をつけなければなりません。マサチューセッツも感染と確認された数が9万人近くになりましたが、徐々に経済を再開させる動きになっています。

アメリカは失業者の増加が止まらず、3600万人を超えました。感染拡大を防ぐことも重要である一方で、このままだと経済の破綻で命を落とす人も出てくるほど状況が悪化しています。ハチに追われてプールに飛び込んだけれど、息が苦しくなって水面に顔を出すような感じです。顔を出せば当然また刺されますが、かといって水の中にいても息ができません。今の状況は本当にそんな感じです。

ワクチンのグッドニュース

一方、明るいニュースもあります。ケンブリッジにあるバイオテック企業「moderna」は、RNAという「DNAの写し」を使ったテクノロジーで様々な創薬をしています。コロナウイルスのワクチンも、世界で最も最初にクリニカルトライアル(治験)にまでこぎつけた会社です。今朝のニュースで、ワクチンを接種された被験者の血液に、コロナウイルスを無毒化する抗体が検出されたという報告がありました。まだ被験者の数が少ないので初期データですが、ウイルスを中和する抗体ができたことはポジティブなニュースです。

それにしても、modernaは何故こんなに早くワクチン開発ができたのでしょうか? それはRNAを使ったテクノロジーにあります。過去これまでに行われるワクチンは、無毒化・弱毒化したウイルスに免疫反応を強化するアジュバントという添加物を組み合わせたものが主流でした。無毒化・弱毒化したウイルスを用いたワクチンは、開発に時間がかかります。無毒化・弱毒化したウイルスを接種することで、生きたウイルスを撃退するに足る抗体ができるのか、免疫記憶ができるのか、それを検証するのには時間がかかります。

時間がかかる理由の一つは、無毒化・弱毒化したウイルスがどれだけ毒性があるかを確認しなければならない点が最も時間を要しますが、ワクチン効果がない時にその理由をつきとめるのが簡単ではないという点もあります。かなりのトライ&エラーを要します。

もう一つの理由としては、体の免疫システムがワクチンに対してちゃんと反応をして、抗体ができるまでに時間がかかるということもあります。通常、体に異物や病原体が侵入した時に、すぐに抗体ができるわけではありません。マクロファージや樹状細胞という「免疫の第一線」の細胞が病原体を食べて分解し、その情報をTリンパ球に伝えます。Tリンパ球はさらにBリンパ球に司令を送ると同時にサポートをして、Bリンパ球の分化を促進します。Bリンパ球が分化してプラズマ細胞ができ、抗体が産生されます。簡単に書いてもいくつものプロセスがありますが、実際には非常に複雑な細胞ネットワークの末に抗体が出来上がるのです。

RNAワクチンって何?

一方で、RNAを使ったワクチンは弱毒化したウイルスではなく、ウイルスに対する抗体の設計図が記されたものです。その設計図を体内の細胞に入れるわけです。そして体の細胞はその設計図に従って抗体を作るわけです。また、RNAを使ったワクチンは比較的短時間で作ることができます。そして、RNAワクチンによって細胞が抗体を作るようになるのも、比較的短時間です。そういった理由から、modernaのRNAワクチンは早くもポジティブな結果を出したということです。

一方で、コロナウイルスを無毒化する抗体が、実際にコロナウイルスに結合した時に副作用を引き起こさないかどうか調べることが非常に重要です。というのも、最近香港の研究チームが発表した報告によると、コロナウイルスの「突起」に結合する抗体が、免疫を過剰に刺激して肺の炎症を引き起こしてしまう可能性があることを示唆したからです。

ウイルスを無毒化することも大事ですが、免疫が暴走しないようにすることも非常に重要です。コロナウイルスの肺炎で肺の組織がダメージを受けるのは、ウイルスだけでなく自分自身の免疫が暴れてしまうのも大きな理由です。その免疫の暴走に関わっている分子にIL-6というものがありますが、IL-6を抑制する薬も研究開発されています。

ということで、まだまだ課題は残りますが、今日は新型コロナウイルスに対するワクチン開発の大きな一歩が達成されたのでした。副作用が少ないことが確認されたらさらに製造ラインの確立など、まだまだ乗り越えなければならない問題はありますが、コロナウイルス感染との闘いは確実に前進しています。

image by: Ascannio / Shutterstock.com

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ねこブロガー/ダンスインストラクター/起業家/医学博士。免疫学の博士号(Ph.D.)をワシントン大学にて取得。言葉をしゃべる超有名ねこ「しおちゃん」の飼い主の『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』ではブログには書かないしおちゃんのエピソードやペットの健康を守るための最新情報を配信。

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