前回、「専門家が「有事型」と認める小池百合子都知事は首相になれるのか」で、政治家・小池百合子の長所とともに克服すべき欠点があると語った軍事アナリストの小川和久さん。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、政治家にありがちな小池氏の欠点を指摘。同様の欠点を指摘されるや、即座に理解し正した野中広務さんの例を紹介し、小池氏が大成するための鍵を示します。
こんなに違う野中広務と小池百合子
前号の編集後記に「小池百合子は首相になれるか」という記事を書いたところ、賛否両面にわたって、思った以上の反響がありました。そこで今回は、小池さんが「オレがオレが」という「内なる敵」を封じ込めて政治家として大成するために、実例を明かしておきたいと思います。
まずは小池さんの「内なる敵」。私が親しくさせていただいている経済人を小池さんに紹介したときのことですが、バイタリティに溢れ、しかも温厚なそのオーナー経営者が、滅多にない表情で吐き捨てるように言ったのです。
「なんですか。あのオンナは」
よほど腹にすえかねたことがあったのだとわかりました。
親しいこともあって、最初、私は経済人をからかってみました。
「いくら女好きでも、あれはダメですか(笑)」
答えはにべもないものでした。
「男、女以前の問題です。人間としてアウトです」
聞いてみると、私も、古くから知っている小池氏を庇う気になりませんでした。小池氏が決めてきた面会時間は30分。それは十分です。問題はその中身です。なんと、最初から25分間、小池氏は自分が関心を持っているテーマについて、一方的にまくし立て、残りが5分になったころ、「で、ご用件は」ときたというのです。
このオーナー経営者は、小池氏が私の知人ということもあって、場合によっては支援者になってもよいと思っていたのですが、小池氏は大切な味方になる人を、無意識のうちに敵に回してしまったのです。
小池氏に限らず、政治家の皆さんの多くは、相手構わず自分のことを喋る癖があります。相手が質問したのなら構わないのですが、訊かれてもいないのに一方的に、機関銃のようにまくし立てる傾向があります。それも聞きかじりの知識を自分が専門家であるかのように自慢します。それによって点数をつけられていることなど、まったくわかっていないようです。
それで終わってしまうのが、平均的な政治家の場合です。むろん、そうでない政治家もいます。もともと聞き上手な場合です。しかし、そんな政治家はきわめて限られています。ここでは小渕政権の官房長官や森政権時代の自民党幹事長を務めた野中広務氏のことを紹介しておきましょう。
野中氏とは小渕政権発足2週間後に知り合い、波長が合ったこともあり、その半月後には情報収集衛星、1カ月半後にはドクターヘリを実現するよう任され、いずれも短期間で道筋をつけることができました。このいきさつは拙著『フテンマ戦記基地返還が迷走した本当の理由』(文藝春秋)に詳しく書いておきましたが、野中氏が初対面の私のことを過分に高く買ってくれた結果です。
その野中氏でも、「オレがオレが」の面は否めませんでした。大物政治家ですから、喋ること、喋りたいことはいっぱいある。黙って聞いていると、こちらの身体が蜂の巣になるのではないかと思うほど、言葉が飛んできます。その野中氏に、たまりかねた私は言いました。私が野中氏と会うのは、テーマを決めた「勉強会」がほとんどだったこともありますが、ついに言ってしまったのです。
「野中さん、私を呼んだのは野中さんの話を聞かせるためですか。それとも、私の話を聞いて、勉強しようというのですか」
野中さんは即座に私の言葉を理解し、「すまん」と言って、いつも2~3台持っている携帯電話も緊急連絡用の1台だけにして、電源をオフにしたのです。
それからの勉強会は、いつも2時間にわたって質問や確認以外、野中さんは私の話に口を挟まないようになりました。そして2時間が経過するころになると、「そろそろ喋っていいかな」と笑顔で言ってくれるようになったのです。
野中さんとは、情報収集衛星、ドクターヘリ、航空自衛隊の空中給油機の導入などの仕事をしましたが、非常に短い期間に実現できたのは、「勉強会」に無駄話がなく、濃密な情報共有ができたからだと思っています。
いまでも、一方的にまくし立てる政治家を見ると、野中さんのことを思い浮かべずにはいられませんが、小池さんも「内なる敵」を克服できるかどうか、正念場です。(小川和久)
image by: English: Cabinet Public Relations Office, Cabinet Secretariat日本語: 内閣官房内閣広報室 / CC BY、小池百合子オフィシャルサイト