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不可避の惨劇。コロナ後に鮮明化する米中対立と新興国の破綻連鎖

生活様式のみならず、全世界の人々の考え方を根本から変えることとなった新型コロナウイルスですが、国際政治や経済分野にも計り知れない影響を与えているようです。元国連紛争調停官で国際交渉人の島田久仁彦さんは今回、自身のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で、コロナをきっかけとしより一層鮮明化した米中の対立構図と、新興国経済の破綻連鎖の恐れについて詳細に解説。さらにこれまで私たちが恩恵を享受してきたグローバリズムが、もはや終わりを迎えようとしているという事実を記しています。

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新型コロナウイルスがもたらす国際化の終焉と米中対立の激化がもたらす悲劇

「コロナウイルスに感染して死亡した人を個人的には知らないが、身近にコロナを理由に職を失った人を多く知っている」

これは欧州各国やアメリカ・ニューヨーク市、そして東南アジアにいる元同僚たちと最近onlineで話した際に聞いた言葉です。

以前、お話ししたように、ILO(国際労働機関)の試算では“コロナの影響で職を失い、生計を立てる手段を失う人口”を少なくとも16億人と予想しました。確実に社会不安は増大していると言えます。そしてこの“失職”が「コロナ理由による解雇・雇止めによるケースであることが多い」との分析結果も出てきました。まさに先ほどの友人たちが言及した状況を表しているのだと思います。

今、国際政治の最前線でも「コロナ理由」による対立の激化が進んでいます。

それは米中対立の激化に始まり、ロシアと欧米との確執の激化や、中国による香港国家安全法や台湾統一への野望、高まる中国のプレゼンスに対抗する東南アジア諸国との戦い、そしてお隣の国韓国が再開した徴用工を巡る賠償問題(日本資産の現金化)など例を挙げるとキリがありません。

私たちの関心が新型コロナウイルスとの戦いと、アフターコロナの生活様式に向く中、いったい何が起こっているのでしょうか。

一言でいえば「国際化・グローバル化の終焉」です。新型コロナウイルスのパンデミックは人とモノの移動を遮断し、生産・製造・流通・消費という一連の経済活動を遮断しました。経済合理性に則ったグローバルな成長モデルの終わりです。

新型コロナウイルス感染再拡大への懸念が消せないまま各国で経済活動が次々と再開されていますが、“不安”に苛まれた消費者感情が元に戻るには予想以上の時間がかかることになるでしょう。それはすでに述べた大規模な失業問題を引き起こし、新興経済国では信用不安が追い打ちをかけてデフォルトが続発し、もしかしたらそれは金融危機を世界レベルで引き起こすかもしれません。

結果、それは国内回帰・自国ファースト、そしてポピュリズムの拡大へとつながる恐れがあります。医療物資や食料、エネルギー源、レアメタル…数え上げればきりがありませんが、戦略物資の内製化が進み、物流網や人の移動が停止するか鈍化し、それにつれて政治やリーダーシップの内向き志向が強化されるという流れがやってきます。そしてそれは、各国内での格差の拡大へと繋がり、そして社会不安がさらに膨れ上がるという悪循環へと導かれます。

これは私が皆さんの不安を煽って皆さんに対して行う情報工作でしょうか?

もしそうお感じになるのであれば私は一向に構いませんが、これまでに得てきた情報や生の声を総合した際に導き出される“避けたい”最悪のシナリオであると言っておきます。

その裏で着々とそして淡々と進むのが【米中対立の鮮明化】と【新興国経済の破綻連鎖の恐れ】です。

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まず【米中対立の鮮明化】については、いろいろな側面での対立が挙げられると思います。

例えばWHOを舞台にした米中対立は、アフターコロナ時代の医療・製薬・公衆衛生の覇権争いです。先週お話ししたアメリカ主導のCORD-19と、WHOが主導し実際には中国が引っ張るCOVID-19に対する国際枠組みの対立です。WHOが舞台として、仮に票数のみで勝敗を決めるなら、中国の圧勝と言えますが(台湾参加問題については圧倒的多数票を獲得したことからも分かるように)、実際の影響力でいえば、アメリカ優位かもしれません。それは、アメリカ側には、G7がいい例ですが、数は少なくとも経済力や技術力を兼ね備えた先進国が並んでおり、国際マーケティングという側面では、まだ中国の追随を許していません。恐らく、新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬の開発・販売という点では、アメリカ側の“勝利”に終わるでしょう。もちろん、中国サイドも黙って負けを受け入れることはないでしょうが。

次に3年余り続く貿易戦争の存在です。

これはコロナパンデミックまでの1月に米中合意の第1弾が成立し、アメリカが対中関税措置発動を猶予する代わりに、米国産農産物を中国が購入するという内容で落ち着きました。

しかし、【誰が新型コロナウイルスをばら撒いたか】という責任転嫁と情報工作の応酬によって、今、その第1次合意が反故にされる見込みです。中国が米国からの農産物の輸入の約束を破棄するという内容です。これはCOVID-19のパンデミックで需要がガタ落ちし、人の移動制限によって労働力不足が起き、長期的には供給力の低下にもつながりかねないという大きな恐怖をアメリカの農業界に突き付けることになります。11月に大統領選挙を控えるトランプ大統領にとっては失うことのできない大事な票田ですから、トランプ政権に残された手は中国叩きの激化のみです。それはさらなるバックラッシュを生むことになるでしょう。

例えば、アメリカビジネス界にとっても、また米市場に進出している中国企業にとっても、大きなジレンマに直面する事態を意味します。

貿易交渉の現場でよく口にされるジョークとして「中国でWin-Winの取引というのは中国側が2度勝つことだ」というものがありますが、米中対立の激化は米中双方にとってLose-Loseの様相を示すようになってきました。

アメリカやカナダから徹底的に行われるファーウェイ叩きは、アメリカのIT業界のパフォーマンス低下につながりますし、中国企業にとっては非常にスケール上魅力的な米国市場を失うことにもつながります。

アメリカ企業にとっては、政権の意向もあり、中国回避を行わざるを得なくなっていますが、中国を見捨てることも短期的には現実的ではなく、対中国マーケットについては中国で現地生産を続け、他に対しては中国抜きの供給網の確立を余儀なくされるという多方面での対応を同時に迫られるため、コロナで痛めつけられている経済をさらに鞭打つ恐れが増します。

アメリカで上場を果たしている有名中国企業にとっても大きなジレンマです。先述のように米市場は非常に大きな市場で魅力的ですが、習近平国家主席と政権の意向には逆らえず、結果、米中ダブル上場という自国回帰を余儀なくされています。これは一方では中国企業の競争力維持のための措置と考えられ、中国政府も側方支援するようですが、同時にダブル上場は一株当たりの価値を減少させる可能性が高く、それは投資家にとっては大きなリスクとなるため、下手すると世界を引っ張るレベルにまで成長した中国企業の成長の息の根を止めてしまうかもしれません(金融・株式の専門家の方、いかがでしょうか?)。

それでもアメリカとの対立構造を強めざるを得ないのは、習近平国家主席の国内での権力基盤がコロナ対策の失敗により揺るぎ始めているため、権威復活のためには、とにかくアメリカとの対立構造を鮮明化させる他ないとの判断だと読み解けます。言い換えると、中国の成長を鈍化もしくは停止させる恐れがあっても、この機会を活かして、米欧との決別を画策するのかもしれないとさえ思われます。

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それが鮮明化するのが5月28日に全人代で採択された【香港国家安全法】の制定です。最新の分析では、早ければ6月末までの制定を目指すとのことで、つい先日も香港行政長官のキャリー・ラム女史を北京に呼びつけ、方針に対する全面的な支持を取り付けたことからも分かります。

9月に香港立法府の選挙が行われますが、そこで香港の独立を目論むような民主派(背後にはアメリカ)が勝利するような事態を避けるため、アメリカでコロナ感染と国内に広がる人種差別に対するデモが激化している隙に中国共産党による香港支配を固定化してしまおうという狙いが見えます。

【香港国家安全法】の制定に対しては、アメリカも欧州各国も非難を強めていますが、アメリカの対抗策が激化する中、欧州各国は懸念を示しつつも、欧州の経済発展モデルに食い込んでしまっている中国を今失うことが出来ないというジレンマゆえに、中国の香港対策についてアメリカの報復措置に追随することはせず、あえて距離を置いています。

真偽のほどは分かりませんが、フランスの大統領外交顧問曰く「フランス政府としては、香港問題には口を出さない」方針が報じられました。もし本当だとしたら、確実に米・欧の同盟内での分離が鮮明化してきています。

中国はこの“分離”に付け込み、アフターコロナの国際情勢における影響力の拡大を今、狙っているものと思われます。それがWHOを巡る米中対立において、中国による支配を問題視しつつ、積極的な行動を取らない欧州各国の中途半端な態度にも見て取れます。

中国は一帯一路政策を通じた途上国の取り込みでアフリカ・東南アジアなどの票固めに入っていますし、その影響力はEUの弱点ともいえる中東欧諸国と南欧諸国にも及んでいます。

これはG7を巡る各国の対応のズレにも表れています。トランプ大統領は韓国やロシア、インド、オーストラリアを加えた拡大G7を提案するのに対し、欧州各国は、ロシアの招待はOKだが、G7への復帰は許さず、ましてや韓国とインドのG7の仲間入りは到底受け入れがたいとの姿勢で、「開催時期が変更されたとしても、アメリカの方針が変わらなければ、参加を拒否する」可能性にも言及しだしました。今のところ【アメリカの忠実な同盟国】としてアイデアを評価しているのは、日本とオーストラリア、そしてカナダで、すでに“同盟”関係にもスプリット(分離)が見えます。

ロシアは歓迎するどころか、態度を保留し、「G7はもう時代遅れで、世界的な議論はG20にするべき」とアメリカに牽制球を投げつけることで“拒否”し、アメリカとの対立軸を鮮明化させています。とはいえ中国べったりでもなく、プーチン大統領のロシアは独自の軸を地政学上確保しようと躍起になっているようです。支援やアメリカとの関係改善は、コロナで痛めつけられた経済状況からすると欲するはずですが、下がり続ける支持率を上げるためには、アメリカとの対立の演出が不可欠との判断をプーチン大統領とその側近たちは行っているようです。

今のところ、新型コロナウイルス感染拡大への恐れが残る中、9月開催の可否も不透明ですが、新型コロナウイルス感染のパンデミックは、戦後続いてきたG7の枠組みさえも崩すきっかけになってきたように思われます。

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そのG7の結束の弱化と分裂は、新型コロナウイルスの感染拡大に苦しむ新興経済国に止めを刺すことになるでしょう。

今週初め、レバノン、エクアドルに続き、アルゼンチンがデフォルト(債務不履行)に陥りました。アルゼンチン政府当局は、外国の債権保有者との交渉を続けると発表していますが、貸し付けている(アルゼンチン国債を保有する)諸外国もコロナで経済が傷つく中、返済猶予に簡単に応じるわけにもいかないという状況が存在しています。アルゼンチンの状況が改善しないとの見込みは、ブラジルやチリ、ペルーなどの近隣諸国経済にも大きなblowを打ち付けることになり、ラテンアメリカ諸国経済全体に悪影響が波及しかねない状況であるとの危機感が、IMFや世界銀行内で共有され始めましたが、すでに100か国以上から緊急支援要請が寄せられている状況では、ブレトンウッズ体制機関も打つ手がないとのことです。

その波はトルコや南アを襲い始めています。トルコリラや南アランドの対ドルレートの低下に歯止めがかからず、IMF内では“次にデフォルトになり得る国”として両国がレッドリストに入れられています。トルコは中東諸国とアジア、アフリカをつなぐ経済的なハブの役割を果たし、新興国経済の発展モデルとしての位置を確立してきましたが、アメリカとの確執などを乗り越えてきたトルコ経済も、COVID-19の前にはひれ伏す一歩手前とのことです。南アもアフリカの開発のエンジンとしての役割を担ってきましたが、同じくその威光も風前の灯火になってきています。“デフォルトやむなし”となってきている2つの地域大国に対し、ここでも米中の陣取り合戦が鮮明化しているようです。

器量設備や企業支援のために世界で13兆円規模のコロナ債が起債されるという、一見明るい話題にも見えるニュースが報じられていますが、民間ファンドからの出資を除くと、そのほとんどが国(途上国を含む)による国債発行による出資であり、すでに2020年と2021年で途上国の対外公的債務返済額が3兆ドル(321兆円ほど)に到達している状況下では、公的な支出でのコロナ債は、逆に新興国の首を絞める結果になりかねないとの懸念が膨らみ、そして米中によって分断される国際情勢の中、両国の陣地取り合戦と覇権争いが、さらに新興国の悲劇を増大させる可能性が大きくなってきているように思われます。

今のところ、このような国際情勢の中、日本は自国の立ち位置をハッキリさせていません。国や政府を相手に何でも批判する・承認するという姿勢ではなく、「ダメなものはだめ、いいことは良い」というようにイシューベースの対応に徹して、地政学上の大波に飲み込まれないようにギリギリの線で踏みとどまっているように思われます。

日和見外交だとか、イニシアティブ・リーダーシップの欠如と批判する声も聞かれますが、私個人としては苦労の末、何とか独自の立ち位置を探る賢明な外交策ではないかと感じています。しかし、このイシューベースで対応する姿勢が通用するのもあとわずかの間かもしれません。

COVID-19の世界的なパンデミックは国際協調の下、深化してきたグローバリズムを停止させ、各国で進む自国第一主義や自国回帰の傾向を受けて、逆流しているように思われます。

そして米中というTwo Topsの国際体制が顕在化し、その他の国々は“どちらのブロックに属すか”を決めて行動しなくてはならないという対立構造に巻き込まれることになります。結果として“もの・こと”を実施するためのコストが上がり、経済的・社会的な格差も拡大し顕在化するものと思われます。

新型コロナウイルス感染拡大を受けて世界で進められた自粛生活は、リモートワークの可能性と質の向上、人とのつながりの重要性への気づきと再発見、新しい生活様式(特に精神的により豊かで余裕のある様式)への移行志向というポジティブな産物を世界にもたらしました。またイノベーションを加速させたという利点もあります。

しかし、それらの利点を大きく上回る懸念と分裂が私たちを襲ってきているのではないかと感じます。

そのような中、いかに大波にさらわれ、溺れてしまうことなく、助け合いながら自分の立ち位置をちゃんと見つけていけるか否かの分岐点に私たちは立っているのだと思います。

私たちをいろいろな意味で豊かにしてきたグローバリズムは、今、終わりを迎えようとしています。

そのような中、皆さんはどう生きていきますか?

その答えを出す時間はもうあまり残されていないのかもしれません。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』より一部抜粋。)


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image by: Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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