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コロナ禍のマスク不足で見えた可能性。アパレルの国内生産回帰

新型コロナウイルスの影響でマスクが品薄になってしばらくすると、日本ではマスクを手作りする人たちが現れました。ペットボトルや紙オムツやブラジャーと、代用品探しの狂騒を繰り広げた中国の人たちは「手作りの発想」に驚いたそうです。ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、メルマガ『j-fashion journal』で、日本人と中国人のマスクへの意識が真逆であると解説。手作り布マスクの価値が認識されたことで、アパレル業界が中国依存から脱却し、国内生産に回帰する可能性が見えてきたと期待しています。

マスクから国内生産が立ち上がる

1.コロナ禍のマスク問題

コロナ禍により、世界各国がマスク不足に陥った。マスク供給は中国に依存していたが、中国政府はそれを知りながらマスクを輸出禁止にした。中国国内からもマスクが消えた。マスク着用を義務づけられた中国人は、マスクの代用品を探した。ペットボトル、生理ナプキン、紙オムツ、オレンジの皮、白菜、瓢箪、ブラジャーのカップ等々をマスクの代用品として身につけ、その写真がネット上に拡散した。

中国人は日本人がマスクを手作りするのを見て、「マスクを作るという発想はなかった」と言ったそうだ。世界最大の繊維製品の輸出国には、家庭科の授業もなく、ミシンの使い方も教えていなかった。

日本でもマスクがなくなったが、マスクを手作りする人が増え、ガーゼ生地やゴム紐が店頭から消えた。本業を自粛している企業もマスク生産を始めた。機屋、縫製工場だけでなく、航空会社の客室乗務員、ナイトクラブのホステスもミシンを踏んでマスク生産を行った。

同時に、中国でもマスク生産ブームが起きていた。こちらは、不織布マスクの機械を導入し、フル生産を始めた。新規参入が相次ぎ、あっという間にマスク生産は飽和状態となり、次々と倒産しているという。中国政府が輸出を禁止していたので、個人ベースで日本に輸出した。それを中国人が経営するタピオカ屋や雑貨屋で販売したり、路上販売を始めた。

それらのマスクは、どこで作られたのか分からず、性能や品質が規格を満たしているかも分からない闇マスクである。当初の販売価格は一枚100円から始まり、すぐに60円程度となり、国産マスクが出回るようになると更に価格は下落した。

2.「防護マスク」と「エチケット・マスク」

日本と中国では、マスクに対する考え方も異なる。中国人のマスクは、ウイルスを防ぐ防護マスクだ。他人から自分が感染しないように防ぐことが目的である。

日本人のマスクは、小学校の給食マスクが基本であり、配膳する人の唾液が飛ばないようにするのが目的のエチケット・マスクだ。自分が無症状でも感染している可能性があるので、他人に感染させないようにマスクを付ける。それが日本人の発想である。

同じマスクでも日本と中国の発想は正反対だ。防護マスクと考えるから、布ではなく、ペットボトル等を加工したのだろう。「アベノマスク」と揶揄された政府支給のマスクは主にガーゼマスクだった。政府がガーゼマスクを支給したことにより、布マスクは市民権を得た。安心して生産、販売ができるようになったのだ。そして、各企業のマスク生産が加速した。

アベノマスクは品質管理や検品において、素人同然の仕事だったが、布マスクを認定したという点においては評価しても良いのかもしれない。

3.生産コストより安心安全重視

国内企業が生産した布マスクは1枚1000円から3000円程度であり、不織布マスクに比べれば、かなり高価な製品である。おそらく、マスク生産を始める前に、各企業は悩んだに違いない。布マスクがいくらぐらいで売れるのか、分からないからだ。最初は、社内向けに支給したり、関係先に口コミで販売し、次第に手応えをつかみ、本格的に販売を始めた企業が多い。

安倍総理は自ら提案した「小さめのガーゼマスク」を、小池都知事は「大きめの手作りマスク」を付けて、テレビに登場した。マスクだけを比較すれば、圧倒的に小池都知事のイメージが良かったと思う。大量生産の不織布マスクの販売が回復しても、個性的な布マスクは売れ続けている。ブームとしては終焉を迎えているが、布マスクは新しい生活習慣の中でファッションアイテムとして定着するだろう。

4.マスクから国内生産回帰を考える

マスクを通じ、中国生産について考えた一般消費者も多かっただろう。なぜ、日本は自国のマスク需要に対応できないほど、中国生産に依存したのか、と。また、米中経済戦争が進む中、「日本企業は中国と手を切るべし」という主張も目立つようになってきた。

国内生産から中国生産に移行した目的は、大量生産の維持とコストダウンだった。国内生産から中国生産に切り換えるだけで、商品原価は半額以下になった。日本企業は、安く生産した商品を安く販売することで、顧客は喜び、売上は上がると考えた。初期の段階は、確かに顧客は喜んだ。

しかし、中国生産が当たり前になると、誰も喜ばなくなった。商品単価の下落が売上の下落を招き、日本市場はデフレスパイラルに陥った。中国生産で日本は貧しくなり、中国は豊かになった。儲けたのは商社と大手流通業者だけ。国内の製造業者も問屋も小売店も淘汰が進んだ。気がついた時には、後戻りできなくなっていた。国内生産の商品では、中国生産の商品との価格競争に勝てないからだ。

しかし、今回の布マスクは、国内生産回帰の可能性を与えてくれた。消費者は大量生産の安価な商品だけを求めなかった。国内生産の布マスクは多くがネットで販売されている。問屋や小売店を通したのでは、価格が合わないからだ。生産者から消費者に安心、安全な商品をダイレクトに提供する。そこから新しい時代のビジネスモデルが始まるのかもしれない。

image by: Shutterstock.com

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