記録的な豪雨が続き多数の河川の氾濫に見舞われている中国ですが、世界最大の水力発電ダムである「三峡ダム」の決壊という、さらなる危機の到来が人民たちの間で囁かれています。中国が国家の威信をかけて作り上げたダムが破れるようなことは、果たしてあり得るのでしょうか。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、中国人専門家が指摘した欠陥等を紹介しつつ、三峡ダム決壊の可能性を考察しています。
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年7月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【中国】三峡ダム「決壊」が招く中国分裂
中国の水害が深刻です。日本のメディアではあまり報道されていませんが、一部報道によれば、中国当局が80年に一度の大洪水との警告を出すほどの被害です。以下、報道を一部引用します。
中国メディアの報道によると、6月16日以降、中国南部、中部と西南部で豪雨が24時間にわたって継続的に降り続いた。17日、四川省の丹巴県内の13カ所以上で土砂崩れや地すべりが確認された。県内の発電量2,000キロワットの梅龍発電所と発電量3,200キロワットの阿娘溝発電所が、土石流によって崩壊し、一部の村が飲み込まれた。梅龍発電所の地元である梅龍溝では、大規模な堰止湖が発生した。中国メディア『天気網』によると、堰止湖の容量は1,234万立法メートルだ。
中国国内ネット上で、四川省などの水害で各地の小型ダムが決壊すれば、湖北省宜昌市にある三峡ダムは崩壊する可能性があるとの心配の声が上がった。17日、中国人ネットユーザーは海外ツイッターで、「宜昌市より(長江の)下流にいる市民、早く逃げなさい」との国内専門家の警告を相次いで転載した。この専門家は、中国建築科学研究院の研究員である黄小坤氏だ。同氏は、SNS微信のグループチャットで警告を書き込んだ。
中国での水害のカギを握るのは、長江中流域にある三峡ダムなのは中国人ならだれもが知っていることです。しかも、この三峡ダムは、建設当初から設計上の問題が指摘されていただけでなく、数年前から決壊の可能性が高いとの噂が絶えません。
長江は、中国4,000年の歴史上、何度も氾濫を繰り返してきたことから、「中国の暴れ竜」との異名もあります。その長江の水を制する者は中国を制するとさえ言われてきました。中国の自然災害は、漢の時代からはじまりました。原因は、人々が密集しているからです。
山河の崩壊から漢の天下崩壊となり、さらに時代が下るにつれて水害と疫病、旱魃、蝗害など、自然環境も社会環境も連鎖的に悪化してきました。私の調査では、満州事変から日中戦争までの7年間だけで、西北大飢饉などにより人口の約4分の3が減少しました。
その様子を見ていた西欧列強は、競って中国から逃げていきました。一方で、思いやりの心が強い日本だけが、列強としての責任感から逃げるよりも人道的救援を行ったのです。
長江文化の流れをくむ呉、越、楚は「南人」と呼ばれ、漢人とは対立する人たちでした。長江文明と黄河文明は、数千年にもわたって敵対的な存在だったのです。黄河文明は、長江文明と同じではなく、むしろ古代インダス文明に近いと見るべきです。南人vs北人の構図は21世紀まで続きます。ことに上海vs広州の呉越の争いは、21世紀に至るまで続いていました。
そんな長江を制するべく、三峡ダム建設が着工されたのが1993年。完成は2009年で、発電、南水北調、水運、地域発展、洪水防止という5つの機能を持たせて造られました。三峡ダム水力発電所は、2,250万kWの発電が可能な世界最大の水力発電ダムです。この5つの機能の中で国内で最も期待されていたのは発電よりも洪水予防機能でした。
しかし、数年前から三峡ダムの堤防がゆがんで見えるという航空写真がネットで出回り、三峡ダムは早晩決壊するのではないかとの憶測も呼んでいるのです。
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もちろん、この噂について中国当局は「このゆがみは計算上予測されたもので、堤防の強度に影響はない」と、あっさり否定しています。
ネットで調べればすぐに出てきますが、今まさに中国各地で起こっている水害の規模は大きく、様々な動画がアップされています。信号機がかろうじて見えるほどに市中で増水した様子などが見られます。三峡ダムは、7月のさらなる増水に備えて放流を行いました。
そんななか、三峡ダムが決壊したらどうなるのでしょうか。以下、一部報道を引用します。
三峡ダムの下流は中国の最も都市と人口が密集している地域。万が一にも、三峡ダムが決壊すれば被災者は少なくとも4億人以上に達し、およそ30億立方メートルの土砂が三峡ダム下流域を襲い、上海までが水浸しになる、と言われている。大規模停電が起き、しばらくは復旧できまい。また、長江流域は中国経済実力の40%が集中する。つまり中国経済も潰滅し、その回復には数年かかるだろう。農業だって潰滅だ。
また三峡ダム下流域には解放軍のロジスティクス部隊の駐屯地が集中すると指摘されている。たとえば空挺部隊の9割も三峡ダム下流域に集中する。解放軍は大災害のとき最前線で救援作業を行うが、三峡ダム決壊の災害の場合、解放軍のロジスティクスも大打撃を受けて、救援作業に支障が出るのではないか、と言われている。
三峡ダムは、不適切な建設工程によって決壊の危険性が生じたというだけではありません。そもそも、三峡ダムには洪水防止機能はなかったという専門家もいるのです。中国人専門家の王維洛氏の意見を報じた記事を一部引用します。
実際、三峡ダムに洪水防止機能などないのだ。すでに専門家の検証によって、そのことははっきりしていた。そもそも三峡プロジェクトは、設計から工程、仕上げの監査まで同じ人間がやっていて、審判とプレイヤーが同一人物みたいなものなのだ。
ダム下流の湖北、湖南、江西ではすでに洪水が発生している。ダム上流の重慶も洪水警報がでている。ダム上流域の人々はダムを決壊させないために、放水させろといい、下流域はこれ以上放水させるな(すでに洪水がひどいのに)という。そういう矛盾があることは、ダム建設前から分かっていた。
三峡ダムの設計エンジニアである銭正英、張光斗らは、当時の三峡ダム建設プロジェクト副主任の郭樹言に対して、三峡ダム工事のクオリティ、強度に問題があることを手紙で訴えていた。工事期間があまりにも短期であり、完成を急ぎすぎているから、欠陥があるのだ。
(昨年、三峡ダムが変形していることが判明し、ネットでも話題になったが)ダムの変形よりも問題なのが、ダムの船閘(ロックゲート)周辺から水漏れがあることだ。
王維洛氏は2016年11月に、「三峡ダムを取り壊すなら早い方が良い。遅くなれば取り壊せなくなる」と題する文章を発表しています。以下、報道を引用します。
その主旨は、今、取り壊しの決断を下せないなら、将来の影響はますます深刻なものとなり、必要となる資金も増大して取り壊しは不可能となる。
現在のところ、三峡ダムの貯水湖に堆積している土砂は19億トンで、長江の水流はこれらを海まで運ぶ力を持っているが、時間が経てば経つほど土砂の堆積量は増大し、30年後には40億トンを超えて身動き取れなくなる。無理やり土砂を海へ流そうとしても、土砂が下流に堆積して流れを遮断することになるから、三峡ダムは取り壊せなくなるというものだった。
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コロナや香港など、対外的な事案が山積している習近平体制が、三峡ダムを取り壊すような大挙に出るとは思えません。三峡ダム建設を決めたのは、李鵬元首相でした。三峡ダム建設は、中国共産党の汚職の受け皿の側面もあり、まともな工事がなされているとはとても考えられません。
中国政府は、どれほど専門家が危険を警告しても、聞く耳はもたないでしょう。このままダムが決壊し多くの人々が命を失うのを座して待つのが関の山でしょう。三峡ダムの決壊は、中国分裂という衝撃をももたらす可能性があります。
それならそれで私はいいと思いますが、長江流域に住む人々は、くれぐれも自身の身は自身で守らなければならないことを胸に刻んでおかなければなりません。
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