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事実上の香港併合で崩壊した一国二制度。台湾は生き残れるのか?

日本や欧米諸国の懸念や批判を「内政干渉」と突っぱね、「香港国家安全維持法」の施行に踏み切った中国。これほど“こと”を急いだのはなぜなのでしょう。メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の著者で台湾出身の評論家・黄文雄さんは、もともと中国は「法治」という概念がない「独裁」の国であると解説。経済で成果を出せず、建前の法改正で香港の自治を奪った習近平の次なる狙い、台湾の行末を案じます。蔡英文政権も警戒を強め、香港の民主活動家らを支援するなど手を打っていますが、行末は不透明です。

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年7月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【香港】次は台湾を狙う中国と、滅びゆく香港の力を結集する台湾

蔡総統「一国二制度が実行不可能だと証明」=中国が香港国家安全法可決/台湾

6月30日、中国の全国人民代表大会常務委員会は、香港での反政府的な動きを取り締まるための「香港国家安全維持法案」を全会一致で可決しました。「BBC」(2020年6月30日付)によれば、これにより、中国政府は香港に対して、次のようなことができるようになるといわれています。

【解説】 中国の「香港国家安全維持法」 香港市民が恐れるのは

同法案が可決されたことを受け、台湾の蔡英文総統は、「一国二制度が実行不可能であることが証明された」と語りました。

中国は1997年の香港返還を前に、イギリスとのあいだで、「返還から50年間は、香港には社会主義を実施せず、資本主義・自由主義を維持する」という、「一国二制度」を約束しました。それが1984年の英中共同声明です。そこでは、香港は香港人による高度な自治が約束されたのですが、返還からわずか23年で、一国二制度は崩壊し、香港人による自治は失われたことになります。

この国家安全維持法ですが、中国が返還後の香港を特別行政区とし、香港に施行するための法律「香港基本法」を1990年に制定した際、その23条で香港政府に対して、「反逆、国家分裂、反乱煽動、中央人民政府転覆、国家機密窃取等の行為を禁止する法律の制定」を求めました。これが「国家安全維持法」です。

そのため、香港ではこれまで何度か国家安全維持法を制定する動きがありましたが、香港人から言論の自由や集会の自由が奪われる恐れがあるということで反対活動が起こり、そのたびに法案が撤回されるなど、制定に至りませんでした。

しかし、習近平政権になってから、香港の自治権を脅かすような決定が次々となされるようになりました。2014年には、香港行政長官選挙での立候補に際して中国政府が介入できるような選挙制度を決定したことに対して、香港で大規模な反対デモが発生しました。民主派の学生たちが中心街の道路を封鎖、占拠したこのデモは、「雨傘革命」とも呼ばれました。

2019年には、香港で逮捕された容疑者を中国本土へ引き渡すことができるようにする「逃亡犯条例」改正案を香港政府が議会に提出したことに対し、200万人を超える抗議デモが発生したことは記憶に新しいところでしょう。結局、香港政府は改正案を撤回せざるをえませんでした。

こうした香港での反対デモによって香港支配が阻止されたことに業を煮やした習近平政権は、香港から自治権を奪い、中国共産党が香港の法制度を決定することとし、国家安全維持法の制定を強行したというわけです。国家安全維持法の成立を受けて、香港の民主活動家が民主派団体から脱退する動きが加速しています。中国当局による逮捕や中国本土への連行を恐れてのことでしょう。

また、アメリカは一国二制度を前提に香港に対して行っていた貿易や渡航に関する優遇措置を停止する方針を発表しました。2019年の数字では、アメリカと香港のあいだの貿易は、アメリカからの輸出が3兆円、香港からの輸出が4兆3000億円にものぼります。それらは香港を介して中国へ流れ込みます。

香港から中国への輸出は31兆5000億円、中国から香港への輸出は28兆6000億円です。また、香港を介しての中国への投資もさかんに行われています。香港から中国本土への直接投資は10兆4000億円、株式投資は5兆3000億円となっています。
香港国家安全法が施行 何が狙い、なぜ問題?

欧米の反発と制裁により、こうしたアジアの金融センターとしての機能が香港から失われていくことは確実です。習近平もそのことはわかったうえで、香港への統制力を強めているわけです。

習近平政権になってから、中国の経済成長率は下落の一途です。しかも2020年は新型コロナ問題で世界的に経済活動が停滞し、それは中国経済を直撃しています。いずれにせよ経済的停滞は避けられない。米中対立も激化しています。そうであれば、欧米の制裁があったところで、もともと経済の下落は避けられないということで、強硬策に打って出た可能性があります。どうせ経済的には成果をあげられないのだから、別の部分でポイントを稼いでおこうということでしょう。

西洋と中国の文化・文明の最大の違いは、法と徳(人治という言葉は日本語にはない)です。中国では天命を受けた有徳者の「一家一族」(一党一派)が天下に君臨、統率するというのが建前であり、法治とはまったく関係ありません。そのため、国家安全維持法を制定したのは、一応は法治主義だというポーズのためであって、実際は独裁者の考えひとつでどうとでもなるわけです。「一国二制度」にしても、中国が主張するのは、建前であって、本当にそれを守るつもりはないのです。

だいたい、漢、晋、明の3王朝とも、中央集権&功臣分封制を実行しましたが、全て有名無実となりました。だから歴史的に、中国では一国二制度は最初から無理なのです。

そして、香港の次に台湾を狙ってくることは容易に予想できます。とくに2022年には共産党大会があるため、習近平はそれまでになんとかして実績を積みたいと思っているはずです。蔡英文政権は自由や人権、民主主義を守るために努力する香港市民を引き続き支援していくと強調、台湾での就学や就業、投資、移住などを支援する窓口「台港服務交流弁公室」を7月1日から運用開始しています。

香港から逃げてくる金融マンなどを受け入れようという意図もあるのだと思います。香港が金融センターの地位から滑り落ちることを見越して、台湾が新たな金融センターとなるべく手を打っているともいえます。それと同時に、香港の民主活動と連帯し、国際社会を味方につけ、中国の覇権主義に対抗しようとしているわけです。

このように、アジアの政治、経済秩序は急速に大きく変わろうとしています。私は以前から米中貿易戦争は単なる経済戦争ではなく、民主主義と独裁の戦いだと主張してきました。まさに、その戦いが香港を起点に表面化してきたといえるでしょう。

image by:Jimmy Siu / Shutterstock.com

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