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都知事選「小池圧勝」が都民から全幅の信頼の結果ではないワケ

5日に行われた東京都知事選挙。結果は現職の小池百合子知事が歴代2位となる約366万票を獲得し、事前の予想通りに再選を決めました。しかし、これは本当に「都民からの全幅の信頼の結果」なのでしょうか? そんな小池氏の圧勝に終わった今回の都知事選について、新聞各紙がどう伝えたかをジャーナリストの内田誠さんが検証。自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で都知事選を総括します。

新聞各紙が報じた、圧勝・小池百合子都知事への注文

【ラインナップ】

◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…熊本豪雨 死者22人
《読売》…熊本豪雨 死者22人に
《毎日》…熊本豪雨 死者22人に
《東京》…小池都知事 再選

◆解説面の見出しから……。
《朝日》…急速に浸水 最大9メートル
《読売》…未明の豪雨 大被害
《毎日》…防災の村 想定及ばず
《東京》…コロナ禍 追い風に

【プロフィール】

■一極集中を加速させるつもり?■《朝日》
■首都の活力維持?■《読売》
■「7つのゼロ」は何処へ?■《毎日》
■知事の「情報発信力」■《東京》

一極集中を加速させるつもり?

【朝日】は6面のオピニオン欄に社説。タイトルを以下に。
小池氏再選
求められる説明と実践

●uttiiの眼

冒頭、小池氏は、「自民が候補者の擁立を断念。野党系も一本化を果たせず、これにコロナ禍による各陣営の街頭活動の抑制が加わり、盛り上がりを欠いた選挙戦を制した」と書かれている。政治的な関心の薄い都民はほぼ忘れてしまっているような経緯を含め、手際よくまとめられた一文は、選挙戦の全体をうまく表現している。

小池氏は圧勝したが、その小池氏の「実績」とは何か。《朝日》の社説中、小池氏に対する積極的な評価と見えるのは、「休業要請に応じた事業者に協力金を出すといち早く表明し、政府を動かした」とする部分のみ。反対に、「豊洲市場問題を始めとして何度か耳にしてきた、聞こえのいい言葉だけで実行を伴わない政治」を批判。新型コロナに関しては、「都内で再び感染が広がるが、確たる戦略を打ち出せない状況」が続き、「ネーミングで関心を集めた「東京アラート」はうやむやのうちに終わり、もっぱら都民に「自衛」を促すにとどまる」と厳しい。選挙戦中に掲げていた「東京版CDC」の創設も、詳細は不明のままだとする。

東京五輪を巡っても大問題が山積していて、「1年延期を前提に大会の簡素化と経費縮減を約束したが、中身は一向に見えない」という。戦略がない、具体性がない、中身が見えない、と散々。

決定的なのは、「稼ぐ東京」を目指すという小池氏の考え方についての批判。コロナ禍によって東京一極集中の危うさが顕在化したことを考えれば、「膨張を続けることが東京にとって、そしてこの国にとって望ましいのか、根底から問い直す時ではないか」とする。

この社説をキチンと読んだ都民は、さぞや、これからの4年間が不安なものに感じられるだろう。ただ、皮肉な話だが、選挙においては、《朝日》が散々厳しく批判するような小池候補で十分だったのであり、《朝日》も認めざるを得なかった小池氏の「実績」が、いや、それのみが、投票先を選択する都民の脳裏には強く焼き付いていて、その一事をもって、「都知事を代える必要はない」との判断を都民有権者が下した。それが、今回の選挙だったと言えるのではないか。

首都の活力維持?

【読売】は3面の社説。タイトルを以下に。
小池知事再選
首都の活力維持に課題は多い

●uttiiの眼

小池氏以上に言葉が上滑りして、しかも書き手の「熱意」を感じさせない文章。そもそも課題は「首都の活力維持」であり、「経済を萎縮させずに、感染を防ぐという難題」と規定するところから始まっている。

社説の中ほどでは、「小池氏が最優先で取り組むべきなのは、感染症対策の強化だ」として、「検査能力の向上や医療提供体制の充実を着実に進めること」が大切だとする。「保健所との意思疎通」を図れとか、「政府や区市町村と協力して、適切に業務を遂行せよ」などと書かれていることに、反対の人など誰一人いないだろう。しかし、これらの浮ついた言葉の下で、実際に何が行われるのか、そこが問題なのに、《読売》社説子はその点を指摘する気もないようだ。

「7つのゼロ」は何処へ?

【毎日】は5面の社説。タイトルを以下に。
都知事選で小池氏再選
地に足着けて問題解決を

●uttiiの眼

見出しには現れていないのだが、社説全体を通して感じられるのは、小池氏の「キャッチフレーズ的な政治」に対する強い批判だ。

例えば、件の「東京版CDC」については、「創設することを公約に掲げたが、その具体像は示していない。提起した以上は、速やかに説明してもらいたい」と苛立ちが文面に表れている。また、東京アラートを廃止して新たなモニタリング指標を示したことについては「アラートの発令基準を上回る新規感染者数などが報告されていた中での変更だ。コロナ対策と選挙を絡めたのではないかとの指摘も出ている」とする。この「変更」についても、なぜ数値基準がない指標に代えたのかなど、やはり、説明がないことを批判している。

さらに、4年前の知事選公約で掲げた「7つのゼロ」のうち、達成したのは「ペット殺処分ゼロ」だけ。「築地市場の豊洲への移転延期を含め、パフォーマンスに成果が伴っていない」と厳しく批判している。

「アラート」を「モニタリング」に代えたのは、アラートの基準について追及されることを避けようとしたのではないか。他候補からの批判というよりも、有権者に「数値が基準を超えているのになぜアラートを発動しないのか」という疑念の目で見られることを恐れたのかもしれない。最初から耳目を引くことだけを目的としたアラートだったと言われても仕方がないだろう。

知事の「情報発信力」

【東京】は1面の定番コラム「筆洗」。

●uttiの眼

冒頭、映画「シコふんじゃった」の1シーン、「相手は強い。お前が平幕なら、向こうは横綱だ。しかし、だからこそ勝機がある。向こうは勝って当たり前だからな」と監督が選手に声を掛ける。小池さんは横綱で、ライバル候補たちはまとめて土俵の外にうっちゃられてしまった、と。

筆洗子は、それでも小池氏に「都民からの全幅の信頼の結果と勘違いされては困る」とクギを刺している。小池氏のコロナ対策に不満はあるが、「都民はこれまでのコロナ対策を大幅に変えることにも慎重でこの段階で小池さんを交代させたくなかったのだろう」という。

今度は横綱である「コロナ」に平幕の小池氏が挑むことになるとする筆洗子は、「情報発信力に定評がある人だが、最近の発言はどうもはっきりしない。正直、状況に手をこまねいている印象もある」という。「情報発信力」と「キャッチフレーズ」は表裏の関係だろう。実のある情報を発信してもらわなければ困るのは都民だ。

image by: Ned Snowman / shutterstock

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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