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探るべき「引きこもり」の「部屋の中にいたままでいい」就労支援

コロナ禍によりテレワークが定着することで、通勤せずに就労できる可能性が広がってきました。一方、いわゆる「引きこもり」の状態にある人でも、オンライン上では活発に外の人たちと交流しているケースがあります。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』著者の引地達也さんは、そうした一例を紹介し、従来のように、引きこもりを解消させて、企業や組織に就労させる支援ではなく、「部屋の中にいたままで」できる支援の必要性と可能性について考えます。

みんなの大学校が考えたい「引きこもり」とのつながり方

ウエブでどこからでもつながる要支援者のための学びの場「みんなの大学校」は開校に向けて着々と準備を進めているが、「ウエブ」との形態は、これまでの通学という常識からの解放を促し、進める身としてもとても清々しい気分となっている。

これは、これまでの「通学」が、いかに要支援者にとって障壁となっていたかを浮き彫りにし、障害者手帳を持たないまま引きこもってしまった人とのつながりに対しては有効な手段にも思えて、新たな可能性も広がってくる。

特に要支援者のウエブでのつながりの事例を研究していくと、これまで数年間「家で引きこもっていた」という人も、実はオンライン上では多くの人とつながっていて、それは「楽しい時間」だったとの報告もある。

行政機関の調査で、家から出ていないこと、社会と関わらないことで、調査記録に「引きこもり」との文言が強調されてしまった人でも、「引きこもりの内容」を聞くと、ウエブ上での交流は一般の人より活発だったりする。ここにみんなの大学校による「つながり方」の工夫が試されるのだと思う。

福祉サービス利用に向けての調査では、「長期の引きこもり」が枕詞となった二十代の男性について、その引きこもり生活の実態は、ウエブ上で他者と同時に行うオンラインゲームの日々だったという。複数の参加者が同時に力を合わせて行うオンラインゲームにその男性は自室で熱中した。顔は見られなくてもコメントのやりとりで、ネット上では仲間が出来た。

ゲームは深夜まで続いたが、その仲間の誰もが朝には勤め先に通勤し、学校に通学するから、昼間にパソコンの前にいるのは自分1人。しかし、それは取り残される、わけではなく、夜に再度仲間にウエブ上で会うために、前の晩にできなかった攻略をマスターしようと躍起になった。

攻略法をネット上で見つけ出し、そして、クリア。晩に仲間がネットに入ってきて、またゲームを開始し、クリアしたことを明かすと、みんなからは「すげー」のコメント。その自分が「役立っている」感覚を幸せに思うのだという。これもまた社会が言う「引きこもり」の風景である。

オンライン上でのコミュニケーションが確立できても、それは「引きこもり」なのだろうか。障害者の就労支援をしていて、障害者の起業を支援したことは、福祉サービスの「支援」とはならず、あくまで企業や組織に就労させることが就労であるとの見解をもらった時、サービスの制度全体が「枠組み」の中に落とし込んだうえで運用することが求められているようだ。

この基準から考えれば、「引きこもり」という人たちは、社会で生産活動をする人との狭い範囲に入らなければ、すぐに社会的な引きこもりと言われそうで、それは少々恐ろしい風景である。福祉制度を使わなければ、引きこもりの方々と行政の接点はないから、必要な支援にまで届かないケースも多いと思われる。

引きこもりを支援する場合でも、行政サービスはサービス受給の条件や文言の定義が必要であり、それを忠実に守ろうとする行政の生真面目さも重なり、なんとも窮屈な「支援」になってしまう傾向がある。このような日本の支援環境の中で、引きこもりは、精神的に閉じ込められていた方々という特性を踏まえて、「外に出ること」を支援の前提にせず、「部屋の中にいたままでいいから」できる支援を考えたほうが現実的である。

自由につながり、そのつながりを強め、さらに広げるというプロセスで臨むのが合理的だ。この「今のままでつながる」スタイルをみんなの大学校でも確立できないかを思案中である。

引きこもりの方の中には、ウエブ上でもほかの人としゃべるのも嫌だという人もいる。社会なんか「くそだ」と毒づくケースもある。社会を嘆きたくなる気持ちも共感できるし、それを共有できないかを常に考え、一人でも入れるコミュニティをウエブ上で作るべく、こちらもみんなの大学校で準備中である。コンセプトは「誰も責めない場所」。責められる社会から離れ、安全な場所を確立したい。

image by: Shutterstock.com 

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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【著者】 引地達也 【月額】 ¥110/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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