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作詞家も驚き。生きづらさを抱える人たちの「詩」はなぜ心に響くのか?

精神疾患などと闘い苦しみ、社会に生きづらさを感じている当事者や周囲で関わる人たちから募集した「第二回ココロの詩」の優秀賞3作品が選定され、歌曲化が決まったようです。主催者の引地達也さんが、自身のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』で各作品を紹介。それぞれが映し出すリアルな情景を詩と歌で味わってほしいと綴っています。

ココロの詩が映す「定型社会」とそれぞれの「生きる」情景

2019年12月から2020年5月まで募集した第二回ココロの詩大募集(主催・ケアステージHUG実行委員会、共催・一般財団法人福祉教育支援協会・ケアメディア推進プロジェクト・エイフォースエンタテイメント・歌の手帖社)は、応募作品のすべてを作詞家や作曲家らで構成する審査委員会で検討し、その結果3作品を優秀賞として歌曲作品化することを決定した。

さらに前回の第一回ココロの詩の中からも優秀作品として2作品を再選定し「復活当選」させ、全5作品を1枚のCDに盛り込むオムニバズ作品とすることを発表した。それぞれの「生きづらさ」から出発した作品だが、そのつらさの中にある心持やそこから見える風景、幸せと孤独が当事者目線から繰り広げられるリアリティ色の濃い作品集になるのではないかと思う。

詩の募集資格は「国籍・年齢不問。障がいや疾患の当事者をはじめ障がいや疾患にかかわる方、何らかの原因で社会に生きづらさを感じている方」。当事者が圧倒的に多いが支援者や家族の思いが綴られた作品も見られた。

主催者の私は、応募されたココロの詩はどれも切実でリアリティに溢れて、文字だけを見れば、すべてが優秀賞であり、どこかで詩作品として発表したいものばかりで、この詩の世界にどっぷり浸るとき、インクルーシブもダイバーシティもすべて情的な世界観の中で包摂されてしまうような錯覚に陥ってしまうから、詩の持つインパクトは強い。

今回の入賞作はそれを歌とメロディで彩られていくわけで、5作品の今後の「成長」が楽しみである。その5作品は「もういちど もういっかい」米山莉永さん(静岡県)、「うつむく人」広田ろいさん(長野県)、「シアワセ」新木紀江さん(東京都)が今回の入賞分で、「生きる」新木紀江さん(東京都)、「Everlasting Journey」TechpanCreateさん(千葉県)が昨年度応募の中からの復活である。

米山さんの「もういちど もういっかい」には「今度は間違えないから 今度は正しくなるから こんどこそ こんどこそ もういちど ただ抱きしめてほしい」とのフレーズがある。当初、私は「正しくなる」に、正しいという型にはめこもうとするその「見えない力」を奨励するかのイメージを与えてしまうのではないかとの危惧があった。

しかし、それこそが定型社会とそれに生きづらさを抱える人を二分する「定型的な見方」であることに気づいた。作者はその正しさというものに悩まされつつも、何とか「間違えないこと 正しくなること」で自分を鼓舞し続け、愛する人に抱きしめてほしいと願う切実な「ココロ」の様相を表現したのである。

これほどリアリティを持った言葉を教条的に判断することはココロの表現の可能性を狭めるだけ。私に根付いた「定型の見方」を外した時、この詩には強く誇らしげなメッセージとして響いてくる。

また「うつむく人」は「輝いている人から 目を背ける 日向との境目 どこかの誰かに見つけてほしいのに」に、ココロの姿ではなく具体的な情景が浮かび上がってくるから、より心に迫ってくる。それは、「生きづらさ」を抱えている人だけではなく、誰でもある日常的な心の風景かもしれない。

「シアワセ」は「ずいぶん回り道した 時がゆったり流れている」とシンプルな幸福感がゆったりと流れている詩ではあるが、やはり言葉にすることで安心感が共有できる気がする。この幸福感の広がりは歌に託したいと思う。

歌唱はこの企画のアンバサダーも務めるピアノコーラスグループ、Psalm(サーム)、昨年の第一回ココロの詩最優秀作品「なりたい」を歌う歌手の逢川まさきさん、歌手の瀬戸山智之助さんが担当する。この中の2曲は3アーティストが総勢で歌う予定という。是非、歌で「ココロの詩」の世界を味わってほしいと思う。

image by: Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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