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徳田医師が明かす「PCR検査」の真実。感度・特異度・偽陰性を正しく理解する

現在日本国内で起きている新型コロナウイルスの感染拡大を収束させるにはどうしたらいいのでしょうか。前回、「新型コロナ第1波のPCR検査基準を検証する」で、第2波を乗り切るための検査と隔離のあり方について提言を行なった沖縄在住医師の徳田先生が、今回のメルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』では、「感度」「特異度」といった新型コロナのPCR検査の精度について解説。そのうえで、仮に東京にいる40万人の医療従事者にPCR検査を実施した場合の効果を検証しています。

新型コロナに対するPCR検査精度の真実

新型コロナに対するPCR検査は新型コロナウイルスの中心部分にあるRNAと呼ばれる核酸を検出する検査である。RNAをDNAに転写して、DNAを何度も増幅して微量のRNAでも検出することが可能になる。増幅するのにポリメラーゼ酵素反応を連鎖的に何度も使うので、ポリメラーゼ・チェーン・リアクションの頭文字をとり、PCR検査と呼ぶ。また、RNAをDNAに転写することを逆転写と呼ぶ。逆転写を英語ではリバース・トランスクリプションなので、RT-PCR検査とも呼ばれる。

検査精度を評価するには、真の感染を正しく陽性と判定できる割合を示す「感度」と、非感染を正しく陰性と判定できる割合を示す「特異度」を使う。鼻咽頭や唾液を使った新型コロナのPCR検査の感度は60~70%程度である。真の感染とは、からだのどこかの細胞のなかで増殖していることであり、肺の細胞のこともあり、腸や腎臓、血管の細胞のこともある。鼻咽頭や唾液にウイルスが存在していなくても、からだの奥のどこかの細胞の中にいて悪さをすればCOVID-19感染を意味しているので鼻咽頭や唾液を使った検査ではわからないことがあるのだ。

検査陽性者数を感染者数で割ると感度が算出される。このように、感度を計算するには最終的にコロナ感染症であることが判明した感染者数で、この検査の結果が陽性だった数を振り返ってカウントし、割り算をすればよい。COVID-19感染に対する感度は60~70%なので、残りの30~40%の人感染しているのに陰性と判定されるので、これを「偽陰性」と呼ぶ。

COVID-19感染に対するPCR検査の特異度

新型コロナ感染に対するPCR検査の感度は60~70%であるが、検査で大切なのは特異度だ。特異度が低いと偽陽性が出てしまう。では実際のデータで特異度を推定してみる。7月5日の段階で岩手県ではPCR検査の件数は1009件で陽性者0人。この岩手県のデータから特異度は100%だ。最近のニュージーランドでは72,000件連続検査で陽性者0人で、この間のデータでは特異度100%となる。

一旦封じ込めに成功した武漢でも大規模PCR検査が行われた。そのときのデータでは、657万人に189人が陽性者であった。仮に、陽性者が全て偽陽性であったとすると、偽陽性率は0.00287%となり、100%からこの数値を引くと特異度99.997%となる。99と99.997には大きな違いがある。

ここで「仮に」と述べたが、パンデミックの中で189人全て偽陽性とはありえないことだ。しかし、あえてここでは100歩譲って、特異度99.997%であると仮定するとどうなるかみてみる。流行地での医療従事者へのスクリーニング検査を行う例で次に示したい。

東京の医療従事者に検査するとどうなる

特異度99.997%と、前述の感度の値70%と合わせて、東京の医療従事者約40万人に検査を行うものとする。この40万人のうち400人(0.1%)が新型コロナウイルスにその時点で感染しているとする。今の東京ならこの数値の状況はありえる。検査対象者が属する集団が感染している平均的な確率を「検査前確率(事前確率)」と呼び、ここでは0.1%となる。

東京の医療従事者全員にPCR検査を実施したときの計算をしてみた。すると、間違って陽性と判定してしまう非感染者が、12人(39万9600人×0.00287)となる。陽性の検査結果が出た人たちのうち、実際に感染している人の割合を「陽性的中率」という。これを計算すると280人÷(280人+12人)×100なので、95.890%となる。

陽性と判定した人の中で本当に感染している人は、100人のうち95~96人となる。あえて100歩譲って、特異度99.997%であると仮定しても「偽陽性」の人が最大でも12人しか出ないことになる。隔離対象となる292人のうち真の感染者の280人は、病院に出勤せずに保護待機となり、この人々からの患者への感染伝播は完全に阻止できる。

もちろんそれでも偽陰性は120人でるので、検査を毎週行うなどのように回数を増やすとよい。2回行うと感度は91%に上昇することがわかっているからである。さて、今回の例では「仮に」特異度99.997%としたが、一旦感染押さえ込みに成功し地域での新規感染者が減ると、この検査の特異度がさらに上昇することがわかっている。

プライマーの長さと特異性

特異度は、感染していない人で検査が陰性となる割合である。特異度が高いと偽陽性の割合が低くなるので、非感染者を感染者とみなす割合が減り防疫には特に有用である。前回はデータからみた特異度の最低値99.997%に基づいて防疫検査を行った場合について述べた。今回は、新型コロナウイルスのリアルタイムRT-PCR検査の特異度が、実は検査の操作からみてほぼ100%であることを論じる。

PCR検査の増幅連鎖反応をスタートする際、プライマーと呼ばれる鋳型核酸物質のペアを用いる。これが結合しなければ連鎖反応はスタートしない。十分な長さを持つプライマーは配列する塩基が長いので特異性が極めて高くなり、新型コロナウイルスRNA以外の核酸物質に結合することはない。

一般的にPCR検査の至適プライマーの長さは18-22塩基。実際、今回議論している新型コロナウイルスPCR検査の場合はキットによって異なるが101-393塩基配列となっている。一般的なPCR検査の塩基配列の長さの約10倍である。一般的なPCR検査はもともと特異性の高い検査であるが、新型コロナに対する検査キットのプライマーの特異性は極めて高くなるように開発されているのだ。

極まれな偽陽性の3パターン

PCR検査の特異度は極めて高いことが検査の原理からみるとわかったと思う。では、極まれではあるが、新型コロナウイルスに感染していなくても検査が陽性になることがある。それは下記の3パターンである。

  1. 感染でなくとも、エアロゾールとして空中を浮遊しているコロナウイルスがたまたま検査対象者に吸われて鼻腔に張り付いていたものを採取すること。
  2. 感染でなくとも、検査対象者の周囲環境にコロナウイルス(あるいはその残骸)が存在していて、それに対象者がたまたま手で触れて、それで鼻を触ったのが検出されてしまうこと。
  3. 検体を扱う検査者が、誤って他の陽性者の検体で汚染させてしまうこと。

これらが起きる場面を想像してみてほしい。可能性は極めて低いのだ。岩手県のように、このウイルス感染者がゼロ、または感染者がほとんど出ていないニュージーランドのようなセッティングで行うと、上記の3つともに起こることはなくなる。環境中の新型コロナウイルスの迷入は無いし、他人のウイルスによる汚染も無い。すなわち、特異度は100%となるのだ。

特異度99%はもはやデマゴーグ

しかし、メディアでは別のパターンで偽陽性と間違って報道されることがある。感染回復期に死骸した無活性の死骸ウイルスの遺伝子を検出することだ。これは偽陽性とはいわないのであって、「感染」回復期をみているので、やはり感染があったことを示すものだ。これは偽陽性ではなく、新型コロナ感染の自然経過なのだ。

パンデミックの状況で大規模検査を行うときの推計では、特異度100%を常に用いるべき事前確率がどんな値であっても陽性的中率(事後確率)は100%となる。特異度がほぼ100%であれば陽性的中率はほぼ100%なのだ。

しかし、厚労省の高級官僚や政府の分科会専門家は、いまだにこの検査の特異度は99%と紹介している。それは明らかに誤りであり、故意にやっているとしたらもうデマゴーグである。円周率を3.14の近似値とするならわかるが、いまだに3であると主張するようなものだ。子供でもおかしいと思うだろう。

イスラエル人の歴史学者ハラリは、新型コロナのパンデミックにおいて人類に最も脅威を与えているのはデマ情報だと述べた。デマを発している人の見抜き方として、ハラリはウイルスとは何か、そしてどのような構造をしているのかを聞いてみればすぐ分かると言った。日本のPCR論争においては、いまだに特異度99%などと言っている人はデマを流してるとみなし、誤りを訂正させた方がよいだろう。

image by: Shutterstock.com

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