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夏を失ったのは高校球児だけじゃない。政府の無策が日本人から奪ったモノ

新型コロナウイルス拡大の影響で、今年の夏は「特別な夏」だと、どこかの首長が強調していたように、お盆の帰省もダメ、高校野球も中止という今まで日本人が経験したことのない夏になってしまいました。今回のコロナ禍で政治の無策によって失ったものは大きいと語るのは、エコノミストとして40年の経験をもつ斎藤満さん。斎藤さんは、自身のメルマガ『マンさんの経済あらかると』の中で、今夏に失った経済的損失を振り返りつつ、日本国民の不安を軽減する2通りの方法についても記しています。

失った時間は永久に取り戻せない

19世紀のスコットランドの作家、サミュエル・スマイルは次のように述べました。

「失った富は勤勉によって、失った知識は勉学によって、失った健康は節制や医薬によって取り戻せるかもしれない。しかし、失った時間は永久に取り戻せない」

新型コロナウイルスの感染拡大に対する政府の無策によって、日本も多くのものを失いました。

中でも、政府の無策によってコロナ禍が長期化し、甲子園での高校野球大会の場を奪われた高校球児、オリンピックの延期、場合によって中止となれば、メダルを期待された選手ばかりか、五輪を最後の花道としようとしていた選手の人生から大きな夢を奪います。その責任は重大です。人類の危機ともいうべき重大な時期に、日本政府の姿が全く見えません。

米国では1兆ドル規模の追加経済対策案

さすがに11月の大統領選挙を前に、トランプ政権は動きました。3月以降に打ち出した大規模なコロナ支援策も、多くが7月末で終了し、その反落の影響が懸念されていました。その危機感から、共和党は追加策として1兆ドル規模の追加財政支援策を提案しました。この中には、改めて1人最大1200ドルの給付金提供や、失業保険上乗せが切れるのを見て、規模を縮小して延長することも含みます。

しかし、一方でコロナの感染拡大が止まらず、州によっては再び経済の規制が検討される中では、こうした追加支援策も「息継ぎ」効果しかありません。失業者支援として打ち出した週当たり600ドルの上乗せは7月31日で終了するので、今後は週当たり200ドルの上乗せとして継続したいとしていますが、受給者にとっては大幅な所得の減少となります。

米国ではかつて自動車の販売促進のために「キャッシュパック」を打ち出しましたが、これをやめると需要が落ち込むため、結果的にもう何十年もこれを続ける羽目になり、「麻薬」のように、止めるにやめられなくなりました。感染が収まらないと、政府は果てしなく経済支援を求められます。

何もしないで経済が大きく反落する事態は回避できたとしても、経済を底上げする力はありません。それでも米国はこうした財政の追加策が打ち出そうとしているだけ救いがありますが、日本では感染がまた全国的に拡大する状況を放置したまま、「Go To トラベル」や今後は「Go To イーツ」キャンペーンの誘い水で、人々を動かそうとしています。

夏を失った経済損失は重大

日本航空やANAの4-6月期の収益は1000億円を超える赤字となり、航空会社や観光関連業界の業績は大打撃を受けました。この業界に近い自民党幹部が「Go To トラベル」を急いだ気持ちはわかりますが、感染拡大を放置する中では人も動けません。結局、最大市場の東京を外して実施しましたが、やはり観光需要面での効果は限定的となりました。最大の稼ぎ時の夏休み需要を失うと、取り返しがつきません。

来年の夏までどう生きながらえるのか、観光関連業界には大きな試練が待ち受けています。JALやANAも、4-6月だけでなく、夏休み需要を生かせないと、7-9月も厳しい結果となり、経営悪化が懸念されます。飲食業についても、「経済再開」後もコロナ前の50%までしか客が戻らない状況で、このままでは経営が維持できないといいます。夏休み需要の喪失は甚大で、V字回復どころか、企業倒産の増加が懸念されます。

対策がないわけではない

感染拡大が長期化した1つの要因として、政府に「集団抗体(免疫)」を獲得するために、あえて静かに感染を拡大させる、という考えがあったといわれます。米国や英国にこの考えがあり、日本もその影響を受けた可能性があります。しかし、米国ではこの抗体保有者が10%を超えたようですが、日本では少ないサンプルながら、抗体保有者は0.1%から0.2%にとどまっているとの結果が出ました。

集団抗体ができて感染拡大が止まるには50%以上が保有する必要があるといいますが、米国でもまだ何年かかかりそうで、日本では話になりません。しかも、その抗体自体が短命との説があり、またウイルスが変異すれば、効かなくなります。それだけ集団抗体獲得を目指すやり方にはリスクが大きくなります。

そして今のような形で、つまり国民が不安を抱えながらコロナと共生する形では、飲食業にしても観光関連にしても、人が動けなければビジネスが成り立ちません。その間、働けない人に所得を補填する政策を続ければ、国民の税金や将来世代からの借金でも回らなくなります。結局は、国民の不安を解消して経済活動を再開できる形にするしかありません。その手がないでもありません。

日本国民の不安を軽減する、2つの方法

国民の不安を軽減するには2通りの方法があります。コロナ対策として経済支援に使うお金を、まず医療分野に集中することです。米国政府は米国富士フイルムにワクチンの素材開発資金を支援する意向を示しましたが、日本でも独自のワクチン開発、抗ウイルス薬の開発に国を挙げて取り組むこと。そして重症患者を受け入れられる医療体制を整えることです。

もう1つがニューヨーク市のが行ったことを、日本でも進めることです。つまり、ニューヨーク市では、街のほとんどのクリニックでPCR検査を無料で行えるようにしていて、誰でも何回でも受けられます。その結果、陽性となった人は、隔離して治療にあたる一方で、陰性が確認された人は大手を振って歩けます。ほとんどのニューヨーカーがPCR検査を受けていれば、少なくとも自分の状況がわかり、不安はなくなります。

それでも、他の州や街からやってくる観光客やビジネスマンがいるので、すべての人を識別できませんが、検査で陰性が確認された人には、認定カードをつくり、首からぶら下げて歩けば、第三者からも「コロナフリー」の人間と分かります。つまり、ニューヨーク市のように、国民全員にPCR検査を行い、白黒をはっきりさせることです。唾液での検査も可能というので、より簡単に検査が受けられるようになります。

手間暇かけていつ支給されるかわからない助成金の申請をするより、検査で自分や周りの人が感染していないことがわかり、しかも感染しても治療薬が作られ、病床が確保されるほうが、よほどコロナ対策としては効果が期待されます。しかも財政コストも小さくて済むはずです。政治家は夏休みをとって次の選挙に備える前に、コロナ危機で不安を抱える国民に対してやることがあるはずです。

image by: shutterstock.com

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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

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