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GHQの秘密資産「M資金」信じ31億を失った、嘘のような本当の話

「GHQが接収した日本軍の隠し資産がある」という俗説から、たびたび詐欺に利用されている秘密資金、「M資金」。GHQ経済科学局の第2代局長だったウィリアム・マーカット少将の頭文字からその名がついたと言われる「陰謀論」めいたものが、昭和から平成、そして令和になっても詐欺に利用され、逮捕者を出しています。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、毎日新聞に掲載された、ここ数年で起きている「M資金」詐欺事件の記事に注目。さらに、他の新聞各紙の「M資金」記事と比較し、その出来・不出来の批評を試みています。

巨額詐欺事件「M資金」報道、新聞各紙の出来・不出来を判定する

毎日新聞9月23日朝刊の23面に、「M資金」に関する記事が掲載されています。一連の有名な詐欺事件で、最新では6月に逮捕者が出ています。各紙、事件については既に報じていますが、きょうの《毎日》は、被害者となった会社役員へのインタビューに成功したということで、一種のスクープと言えないこともありません。

もともと各紙はどんな内容で報じたのか、「M資金」記事の出来・不出来を見ていきます。

【フォーカス・イン】

【毎日】

23面記事。まずは見出しから。

「連合国軍総司令部(GHQ)が旧日本軍から接収した秘密資金を提供できる」というような誘い文句で会社経営者を騙す「M資金詐欺」。2017~18年にかけて31億円を騙し取られた会社役員へのインタビューで、これまで知られていなかった事件の詳細が語られている。

横浜市内の大手飲食会社の役員の話。古い知人の大学教授から引き合わされた男は、GHQが旧日本軍から接収し、現在は英国の団体が管理する資金から、2800億円が提供できると持ち掛けた。男は「マック青井」と呼ばれ、「英国でスナイパー(狙撃手)をしていて、今はFRBで働いている」という。役員が一度は断ったため、この話は流れたのだが、2017年、今度は別の大学教授の知り合いから誘いがあり、役員は都内の皇居前のビルに出向くことになる。ここで2人の男性と会う。そのうちの1人(79歳)は「自分は最高裁判事も首相も30分あれば罷免できる」と語っていたという。

北海道での投資計画を進めていたところ、マック青井は自分の部下であり、英国の資金は自分が動かせるのだということになり、役員はこの話に「恋愛に熱をあげるように前のめりになってしまった」という。そして、役員は、相手団体との交渉費用として5回にわたり合計31億2千万円を振込んだ。連絡が途絶えたことで役員は警察に訴え、今年6月、男3人が逮捕された。

(uttiiの眼)

不謹慎な言い方で申し訳ないが、こういうディテールは実に興味深い。詐欺師には、あり得ないような幸運が実際に起こるかのように感じさせる力がある。スナイパーにFRB勤務者には笑わされたが、こんな安っぽい仕掛けでも、物語あるいはストーリーの虜になると、なかなか抜け出すことができなくなってしまう人が多い。世界の動きは一握りの人間がすべて裏で糸を引いているというような「陰謀論」とは裏腹の関係にあり、陰謀論を信じやすい人は、多分、詐欺にも掛かりやすいのではないだろうか。

《毎日》記事の後半は、「M資金詐欺」の歴史を簡単に振り返り、かつて全日空の社長が引っかかって3千億円融資を申し込む書類まで作成していた一件が紹介されている。正確な統計はないということだが、警視庁は82年から2001年に7事件を摘発。被害総額は46億円だったという。M資金話にそっくりな「基幹産業育成資金」というものや、最近では東日本大震災や新型コロナウイルス関連で「特別な融資」を持ち掛ける手口も確認されているという。

毎日以外の各紙が報じた「M資金」関連記事

【東京】
今年6月12日付朝刊で、3人逮捕をきっかけに、500字程度の短い記事を掲載。《毎日》が今回の事件とは別のものとして取り上げている「基幹産業育成資金」が今回の詐欺の材料だったように書かれている。これは多分、《毎日》の方が正しいのだろう。記事の最後にはこう書かれている。

「『M資金』は戦後復興をめぐる裏金などといわれるが、存在が確認されたことはない」と。

短い記事なので仕方がないかもしれないが、これは最低限の説明で、本当なら、これ以上の被害者をださないためにも、「M資金」についてもう少し具体的な説明が欲しいところだ。

【読売】
やはり今年6月12日付で記事を掲載。そして、《東京》同様、最後にM資金についてこのように書いている。

「M資金は、『連合国軍総司令部(GHQ)に接収され、海外に流出した旧日本軍の秘密資金』といわれるが、存在は確認されていない。昭和の頃から度々、融資詐欺に悪用された。」

少し詳しくなっており、最後に「度々、融資詐欺に悪用された」と書いている内容は特に重要。ただ、これは《東京》にも共通することだが、どこかで、「『M資金』は実在するかもしれない」と考える余地を残しているようであることが気に掛かる。確かに、「ない」ことを証明するのは困難だが、その点にこそ詐欺師らが目を付けていることを勘案すれば、もっと踏み込んだ表現をすべきではないのか。一番良い方法は、多面的な取材ということだろう。それは、次の《朝日》が果たしてくれている。

【朝日】
6月12日付では、「M資金とは…」という文章が記事の中に含まれていない。およそ2週間後の27日付では、2千字超の大きな記事を掲載。M資金については、「こうした詐欺は過去にもたびたび起きていて、GHQ経済科学局長だったマーカット少将の名前から、『M資金詐欺』と呼ばれる。」との説明。

《朝日》は、「M資金」が実在するか否かについて多面的に取材している。今回の犯人たちは、「財政法を持ち出し、『国は、法律を以(もっ)て定める場合に限り、特別の資金を保有することができる』との規定が根拠だと説明した」とされている。しかし、これを財務省文書課の担当者に確認すると、「別に法律を定めない限り、国が資金を提供することはない」のだそうで、記者がM資金は存在するのかと問うと、「そのような資金は一切ない」と答えたとする。

《朝日》は「地下経済に詳しい情報紙の元編集長」にも取材していて、同様の手口を繰り返す詐欺グループは複数あり、「かつては詐欺グループが総会屋や暴力団と一体になり、被害発覚を恐れる経営者から追加で現金を脅し取ったり、融資を要求したりしていた」という答えを引き出している。

image by:Center of Military History, United States Army / Public domain

内田誠この著者の記事一覧

ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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