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【書評】野村克也の閃き。なぜ捕手だけファウルグラウンドにいる?

日本プロ野球史上No.1の知将と言えば、多くの方が野村克也氏の名を挙げることでしょう。そんな野村氏が辿ってきた軌跡や、考え実践してきたことが体系的にまとめられた書籍を紹介しているのは、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』編集長の柴田忠男さん。ID野球誕生秘話や野村氏独特の「捕手観」等々、評者の柴田さんも「野球好きにはたまらない」とするファン必読の一冊です。

偏屈BOOK案内:野村克也『野球と人生 最後に笑う「努力」の極意』

野球と人生 最後に笑う「努力」の極意
野村克也 著/青春出版社

野球は奥が深い。弱者が強者に勝てるスポーツでもある。才能がなくても努力次第では天才に勝てる。二流でも一流を超えられる。それを実証してみせたと自負するのが野村克也である。その土台にあるのは「正しい努力」だという。この本はそういう野村が辿ってきた軌跡、考えて実践してきたことの数々を、自著の中から(編集者が)抜き出し、体系的にまとめ直したものだという。

プロの世界で生き残っていくためにはどうしたらいいか。ライバルに勝つには何をしなければいけないのか。答えは「人の何倍も努力すること」である。昼間の練習はみんな同じメニューをこなすので、差は縮まらない。野村は合宿に帰ってから、絶対に2、3時間は個人練習をやった。バットも一日に400、500と振ったという。

野村はバッターのタイプを四つに分類している。

A型:ストレートを狙い、変化球にも対応するタイプ
B型:内角か外角か、打つコースを決めるタイプ
C型:レフト方向かライト方向か、打つ方向を決めるタイプ
D型:球種にヤマを張るタイプ

すべてのバッターがこのどれか、あるいはその組み合わせのタイプに当てはまる。

A型には長嶋、王、田淵、松井らの錚々たる強打者が並ぶ。いわゆる天才型。B型は落合、C型は元木大介、辻発彦、宮本慎也ら。野村はD型の代表だ。典型的なヤマ張りタイプで、A型のような器用なことはできなかった。ストレートを待っているときにカーブを投げられると、もう手も足も出なかった。「カーブの打てないノ・ム・ラ」とよく野次られた。

そこで不器用なりのバッティングを突き詰めることにした。カーブを打つ練習と、ピッチャーの癖やバッテリーの狙いを読むことに没頭した。配球をどう読むか。南海ホークスの名物スコアラー・尾張久次に、「相手ピッチャーが私に投げてくる球種とコースを毎回記録してほしい」と頼み快諾を得る。また、ピッチャーの仕草とデータから、一人ひとりの相手ピッチャーの配球のクセが見えてきた。

狙い撃ちタイプの野村の読みは的中した。気がつけば打率3割を超え、ホームラン王、打点王も取り続けることができた。それだけではなく、データを見つめ直すと、キャッチャーとしてもバッターの心理が読めるようになった。ID野球はこうして生まれた。「考える野球(シンキング・ベースボール)」のベースとなったものだ。

野村は「なぜキャッチャーだけがファウルグラウンドにいるのか」を考えた。守備についたとき他の選手はみなフェアグラウンド内に立つが、キャッチャーだけはフェアグラウンドの外に座っている。ひとりだけフェアグラウンドに入ってはいけないということは、何かを暗示しているのではないか。そして、「外から協力する」という意味だと理解した。

「ひとりだけ他の野手とは反対を向き、一歩引いたところからマスク越しに試合を俯瞰してシナリオを練る。それがキャッチャーなのだと。つまり、表に出てはいけないのがキャッチャーで、あくまでも黒子、縁の下の力持ちであるべきなのだ」。さらに「キャッチャーは監督の分身である」とも。

いや、面白いことをいうなあ。野球好きにはたまらないいい話が出てくる。この本も出典書籍・雑誌一覧が巻末にある。野村が一から書いたのではなく、OKを出す程度の関与しかないだろう。まあ、面白いからいいけど、本作りを舐めているぞ。それにしても、往年の名選手の名前が出てくるが、今の若い野球ファンはぜったい知らないぞ。野村克也の名前で狙う読者ターゲットは老人だろう。まあ、いいけど。

編集長 柴田忠男

image by: Sean Pavone / Shutterstock.com

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