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「1on1のない会社は成長しない」上司が部下と現場を理解する実践テクニック

 いま日本企業でも当たり前となった「1on1」ミーティング。この、上司や役員との一対一面談ですが、貴重な時間を割いてまで本当にやらなければならないことなのでしょうか? 今回のメルマガ『金田博之の「出世したサラリーマンが絶対やらなかったこと」』では外資系IT企業の日本法人代表をつとめる金田博之さんが、かつては多忙さにかまけて「1on1」をやめた過去を明かすとともに、改めて気づいた「1on1」の大切さとその理由について力説しています。

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現場の声を早期に掴むための1on1のやり方とは?

課題背景

1on1ミーティング(以下1on1)とは、上司と部下による1対1の対話です。1on1の定期的な開催を推奨する会社も増えました。しかし、「忙しい中で1on1をやる意味がよくわからない」「効果をいまひとつ感じない」「部下と話がかみ合わない」という、1on1に対する否定的な意見を耳にすることもあります。 そこで今回は、私が体験から培った「1on1を戦略的に行うためのHow To」をご紹介します。

出世したサラリーマンはここが違う!
【出世するサラリーマンが絶対やらないこと】1on1をそもそも行わない、もしくは「しょうがなく行って」しまい、時間を無駄にするだけで何も得られない

【出世するサラリーマンは】1on1によって現場の声や変化をいち早く掴み、経営判断に生かす

1on1を行わないと、部下の変化に気付かなくなる

私が初めて「1on1」という概念に触れたのは、SAPジャパン(以下SAP)に勤めていた30代のときでした。部長に昇進したときでした。当時、SAPでは会社が1on1を推奨していました。私も最初のうちは1on1を行っておりましたが、次第にやらなくなっていきました。

当時の私はとにかく忙しく、全体会議や部署間の調整に追われていました。当時は40名ほどの部下がおり、ひとり1回30分と考えても回しきれないという実情もありました。

また何より、当時の私は1on1の重要性をよく理解していませんでした。部下と1対1で対話するといっても、会話のネタがありません。逆に、会話が弾みすぎる部下もいます。

全員に1on1が同じようにできないなら、それは不平等ではないか?と考えたのです。

私は、1on1を行わなくなりました。

そうすると、私の元には、現場の声が集まりにくくなっていきました。

部下が不満を持っていたり、部下同士の人間関係がうまくいっていなかったりしても、私のもとには直属の部下からしか、つまり間接的にしかその声が届きません。

直属の部下の下にいる人たちと顔を合わせても仕事の話しかしなくなるので、プライベートがまったく見えなくなりますし、気持ちの変化に気付きにくくなります。彼らのモチベーションの低下にも気が回らなくなりました。

また、会社で飲み会があっても、普段会話をしない人たちとは話しにくくなっていきました。コミュニケーションの機会がないので、会話のネタがないのです。そのうち飲み会でも、いつも決まった部下とばかり話すようになっていきました。

そして、直属の部下から「~くんが辞めたいって言っています」と聞き、慌てて本人に話を聞くと手遅れの状態になっている。モチベーションは下がりきっていて、退社を翻意させることはできなくなっている。そんなことが続いてしまったのです。

会社にとって、人は宝です。その宝が会社から去ろうとしている。

これはなぜだろう?と考えた結果、部下の気持ちの変化を定期的に知る機会を設けていないことに気付いたのです。

そこで、私は1on1を再開することにしました。しかし、再開するにはある程度の戦略も必要です。私は、1on1の意味を真剣に考えました。

「現場の変化」を知るのが1on1

1on1の意味、それは現場の「風」の変化、部下の気持ちの変化を定期的に知る機会を設けるところにあります。仕事でしか会話をしないという偏りをなくす、と言い換えることもできます。

部下を「部下たち」という塊ではなく、個人として理解する。

この人はどういう家族構成で、どんな趣味をもっていて、どんなことにやりがいを感じるのか、喜びや悲しみを覚えるのかという部下の価値観に触れ、個人で繋がる機会が1on1なのです。

では、1on1をやらないと、どんな問題が発生するのでしょう?

まず、1. 部下の変化をリアルタイムに察知できません。また、2. 自分が接しやすいか、好きか嫌いか、一緒に仕事をする頻度が多いかなどの「主観」によって接点が多い部下と少ない部下が仕分けされてしまい、扱いが不公平になりがちです。さらに、3. 部下をタスク上でしか把握できなくなり、どんなことにモチベーションを感じるのか、どうやったら部下の力を引き出せるのかなどに思いが至らなくなります。

1on1を定期的に行うことで、1. 部下との関係をしっかりつくることができます。部下のモチベーションが向上しますし、部下の心身の健康を定期的にチェックできます。部下を知るとともに自分の考え方を相手に伝えることができ、相互理解を深められます。

また、1on1を生かすことで、2. 部下を成長させることができます。全体会議で伝えた戦略や方針をフォローして理解を深めさせることができますし、業務改善や成長促進、目標達成、能力開発の機会をつくることができます。

また、モチベーションの向上に繋がる要素は、人によって違います。昇進や昇給がモチベーションとなる人もいれば、承認欲求の充足がモチベーションとなる人もいます。そういった、3. 部下ごとの個性の違いを的確に把握できます。

1on1を行わないと、「戦略や方針を全体会議で発表するだけ」で部下の変化を掴めない上司となってしまうのです。

1on1の基本は「9割傾聴」にあり

では、1on1を具体的に、どのように行えばよいのでしょう。

読者の皆様の中には、会社で1on1のフォーマットが決まっているという方もいらっしゃるでしょう。そこで、1on1をスムーズに進めるための工夫をお伝えしたいと思います。まず、1on1の概要を5段階に分けてご説明しましょう。その後、1on1をスムーズに行うための準備についてお話しします。

1on1のSTEP1:雑談で部下を知る

1on1の意義は、「部下を知ること」にあります。1on1の時間はすべて、部下のために費やすべきです。

まず、「時間の9割は部下の話に傾聴する」を心がけましょう。

初めて1on1を行う場合、部下は「叱られるのでは?」などと緊張しています。

そこで、掴みは必ず「雑談」から入るようにしましょう。場が一気に和み、自分の印象も良くなります。

例えば、週末はどう過ごしているの?と聞くと、「映画にハマってます」などの答えが返ってきます。それなら「映画」というテーマで自分が話せる共通の話題を探す。そうすると自然に場は盛り上がります。また、家族のこと、休暇の過ごし方などについて聞くとよいでしょう。例えば、夏休みはいつ頃取るの?何をするの?などと聞きます。

ここで大切なのは、部下が「上司が自分に興味を持ってくれている」と思わせることです。

また、趣味を探ることも大切です。深い共通の話題があったほうが、コミュニケーションに「笑い」が増えます。

笑いは、仕事の話ではなく、プライベートの会話を共有することで生まれます。私の部下には、スラムダンクについてひたすら話す人、ラグビーが大好きな人、ギターが趣味な人などがいます。

ワンテーマでいいので、その人が興味を持っていることにコミットしていくことが大切です。

例えば、ラグビーが好きでラグビーのことを話してくる部下に対して、私はラグビーをやったことがなく、ルールも知りませんでした。

しかしここで、「僕、ラグビーは全然わからないんだよね」と会話を終わらせては無意味です。努力してラグビーを知る、ラグビーを通じて部下の考え方を知ることが大事です。

また、知ったかぶりはせず、「部下から教えてもらう」という姿勢を示しましょう。そうすることで1on1ではある意味部下が優位になる、あるいは対等により近く。部下と会話する機会が増え、自分の知識も深められます。

1on1のSTEP2:仕事上の悩みと解決策について部下から話をさせる

10分ほど雑談をして、場がほぐれたら少しずつ仕事の話にスイッチします。

「仕事で気になることはある?」
「やりにくいことはある?」
「周りとうまく仕事ができてる?」
などと振ります。

ここでも大前提は「傾聴」です。とにかく部下に話をさせて、部下の気持ちの変化や考え方、悩み、人間関係を聴く機会とするのです。

自分の話は1割もしません。質問をされたら答えますが、それが「説き伏せ」ではなく、「共感」に繋がるものでなければいけません。

こちらからの質問する場合のコツは、
「方針の発表があったけど、どの辺に共感ができて、どのあたりに違和感があったかな?」
など、まず共感を引き出すところです。

部下から共感が多かったところは、共通のフィードバックとして全体会議などで提示するとよいでしょう。

部下から聞く違和感に対しても、こちらの理解や考えを押しつけるのではなく、部下の理解度を把握したうえでフォローすることが大切です。

1on1をしていくと、会議だとあまり意見を言わないけれど、1on1だといいことを言う部下の存在にも気付くでしょう。そういった部下は能力を発揮しきれていない可能性があるので、その原因を探ることもできます。

このSTEP1とSTEP2で、部下のモチベーションや、気持ちの変化などをリアルタイムに把握できます。

1on1のSTEP3:部下の話は必ずメモをする

部下の気持ちの変化を掴むために最も重要なのは、「メモを取りながら話を聴く」ことです。

部下は、自分が言ったことを上司がメモすると、「ちゃんと聴いてくれている、忘れないようにメモしてくれている、自分と向き合ってくれている」と嬉しく思うものです。また、部下が多いほど、メモを取らないと忘れたり、ごっちゃになったりしてしまいます。

最悪なのは、パソコンで他の仕事をしながら1on1を行うことです。これではまるで意味がないうえに、やらされ感が漂いますし、忙しいのにわざわざ機会を設けているという嫌々感が出てしまいます。

1on1は部下に真正面から向き合う時間と心得ましょう。

1on1のSTEP4:最後に軽くサマリーする

予定時間の30分の終わりが近づいたら、1on1を軽くサマリー(まとめ)してあげることが大切です。部下の話をしっかり認識していることを相手に示すのです。

お互いの共通認識をサマリーで復唱すれば、部下、自分の記憶にきちんと残ります。

そして、サマリーで提示された問題点がどのように推移したかの確認を次回のテーマとします。

1on1のSTEP5:部下を趣味などで仕分ける

1on1が終了したら、そこで仕入れた部下の情報を仕分けます。

その目的は、「次の飲み会やランチのときに、部下同士の共通の話題を引き出して部下同士をつなげることで場を回す」ところにあります。

人間関係がうまくいっていない部署の飲み会やランチ会は、話題が仕事オンリーとなりがちです。これは、上司が部下同士の共通の話題を引き出せていないからです。また、隣同士の人としか話さない飲み会やランチも、「ダメな会合」です。人は、会合で「話しやすい人の隣」に座りたがるものです。共通の話題を上司が振ることができなければ、「ただ集まっただけ」になってしまいます。

1on1で部下から趣味の話を引き出した後に仕分けしておけば、みんなが深く盛り上がれて笑いが生み出せる共通の話題を必ず見つけられます。その共通の話題を振ることで、飲み会やランチで話が盛り上げて、いい雰囲気を作ることができます。

1on1をスムーズに進めるために用意すべきは「上司からの質問」

1on1を行うにあたり、部下には一切準備をさせません。部下に「1on1は面倒」だと思われないようにするためです。

もっとも、上司はある程度質問を用意する必要があります。

即興で質問すると気分で質問を変えてしまい、大事な情報を得られなくなる可能性が高いからです。

最初は全員に、極力同じ質問を用意しましょう。同じ質問に部下がどう返答するかで、部下によって考え方や捉え方が異なることを知ることができます。

感覚的には6割共通、4割は前回の1on1を踏まえた部下個人への質問と考えるとよいでしょう。

質問は2つにグループ分けできます。

グループ1:人間関係など、部下の悩みを解決するための質問(例・仕事をしていて壁を感じることある? 困っていることある? ~さんとはうまくやれてる?など)

グループ2:部下の目標をリマインドする質問(例・今期のあなたの目標はなんだっけ?どれくらい進んでいる?など)。ただし、返答に対する評価はせず、困り事を聴くのみにします。順調にいっているのか、いっていないのかを知るのが目的です。

1on1は直属の部下と1週間または2週間に1回、30分の頻度で行う

現在の私の1on1の対象人数は15人です。1人30分、2週間に1回1on1の時間を取っています。

例えば部署に40人の部下がいた場合、全員に1on1を行うのは不可能に近いです。

まず、直属の部下とのコミュニケーションを大事にしましょう。また、次世代のリーダー候補とも定期的に1on1を行うことが大切です。

だいたい、10人を目標にするとよいでしょう。

今、私が1on1を行っているのは15人ですが、正直少し多いと思っています。もっとも、今はコロナ禍で先行き不透明な中、部下がストレスを感じていないか把握したいというのもあり、15名としています。なお、1on1はオンラインでもできます。

部下が女性の場合はとにかく傾聴、男性の場合は解決策を提示する

では、部下が女性か、男性かで対応を変える必要はあるでしょうか。

基本的には、質問を変える必要はありません。男性でも女性でも、同じ質問をします。

もっとも私の経験上、部下が女性の場合は解決策の提示よりも、ひたすら話を聴くほうがよい結果をもたらすことが多かったです。

また、部下が女性の場合、こちらからの1つの質問に対して、3つくらい答えが返ってくることもあります。また、今後どういう風にしていきたい?などと漠然とした質問をすると、返答が非常に長くなることもあります。

部下が女性の場合は、「どこから手をつけようか?」「何を優先事項にしようか?」などと、目的をはっきりさせた質問をしたほうがよいでしょう。

部下が男性の場合は、質問で問題点を深掘りし、解決策を示していったほうがよい結果をもたらすことが多いです。

その場合も、解決策をいきなり示すのではなく、部下から解決策を引き出すようにもっていくといいでしょう。

例えば、
「コロナ禍で大変だけれども、何かやりにくいことはある?」

という質問に対し、部下から
「社内会議はうまく回っていますが、お客様のところへ商談に行く前の打ち合わせがあまり頻繁にできなくなってきています」
という返答があったとします。

その場合は
「商談に行く前の打ち合わせには、どんな人が参加しているのかな?」
と聞いてみましょう。

「先方に伺う私と、Aさん、Bさんです。本当は経理のCさんとも打ち合わせをして予算感を把握しておきたいのですが、なかなか僕からは言いにくくて……」
という返答があったら、

「じゃあ、解決策を一緒に考えていこう」
というキーフレーズを出します。

ここでの鍵は、

「どうやったらCさんに言いやすくなるかな?」
と、あくまで部下に考えさせ、部下から解決策を引き出すことです。

「それなら、金田さんからCさんに、商談前には打ち合わせして予算感を提示するように言ってみていただけませんか? 僕からも、なるべくCさんに予算感を打ち合わせたい旨メールするようにします」

などと具体策が出てきたら、
「じゃあそうしよう。ぼくからもCさんに言っておくから、次回の1on1のときに状況の変化があるかを確認しよう」

と、次回までの「宿題」を提示します。

1on1をうまく行えば、部署の雰囲気が良くなることはもちろん、現場の問題点や変化を早期に把握したり、戦略や目標の達成を効率的に行ったりすることができます。30分という限られた時間を有効に使いましょう。

今回の実践ポイント

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金田博之この著者の記事一覧

世界MBAランキング首位のINSEADエグゼクティブMBA卒業。1998年、外資系大手ソフトウェア企業のSAPに新卒入社。30歳からマネジメントを歴任、7年連続グローバル・トップタレント選出。 2014年、日本の大手製造・流通企業ミスミグループでGMとしてグローバルDX新規事業を推進後、最先端AI/チャットの外資系IT企業、ライブパーソン(LivePerson、NASDAQ上場)の代表取締役に就任。3年間で毎年300%超成長(アジア全体売上の76%)。 2020年12月、クラウド型ネットワークセキュリティのトップ企業ゼットスケーラー(Zscaler、NASDAQ上場)にて、日本を含むアジア全体を統括する代表取締役に就任。 セミナー、企業、大学等で講師経験10年以上、受講者のべ5,000名以上。日経BP、東洋経済ほかメディア掲載多数。

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