大阪市を廃止し4つの特別区に再編するいわゆる「大阪都構想」の賛否を問う住民投票は、1万7000票ほどの僅差で否決され、大阪市の存続が決まりました。2度目となった否決の理由をコロナ禍に見舞われた住民の気持ちを計算できなかったためと見るのは、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、米国在住の作家・冷泉彰彦さんです。冷泉さんは、都構想なきあとの大阪の再出発には、万博を契機とした「国際的な商都大阪」を作っていく必要があると持論を展開。英語でビジネスができる都市作りを提唱しています。
都構想否決、大阪は再出発のときだ
今回の住民投票ですが、とにかくタイミングが悪かったと思います。「市民プールがなくなる」とか「予算がおかしい」という批判だけを捉えれば、古典的な左派のバラマキ歓迎理論が、都市型の小さな政府論に勝ったように見えます。
ですが、現在は平時ではありません。コロナ禍の中で、有権者の心理の深層には「セーフティネット」の重要性ということは強く意識されているはずです。維新は、府も市もコロナ対策には慎重に対処して、ポピュリズムの持っている恐怖心を利用したり、それなりに成功してきたと思っているでしょうが、それでも残る経済的恐怖心について計算ができなかったのだと思います。
これで都構想というのは、とにかく一段落で、松井一郎氏などはこれからは情報番組のMCか何かで活躍するようになるのかもしれません。
ただ、都構想という一つのストーリーが終わってしまった大阪には、何か次の大きなテーマが必要に思うのです。その点で言えば、2025年の大阪万博があるわけですが、現時点ではどうもSDGSなどスローガン的なものばかりで、内容が見えて来ていません。というのも、万博を契機としてどんな大阪を作っていくのかが、見えないからです。
コロナ前の大阪がそうであったように、インバウンド消費が大阪の経済を牽引する、万博は恐らくその効果によってしか成功できないと思われます。私は、この点を掲げて、万博を契機として「国際的な商都大阪」を作っていくべきと考えてきました。
具体的には会社設立も、登記も、資金調達も、見本市や国際会議も、そして訴訟も、商売に関わる全てが「英語で、しかもグローバルスタンダードに則してできる」というインフラを構築することで、具体的にはシンガポールと香港から、多国籍企業の「アジア本店」の立地を奪い返すということです。
このことはこのメルマガでも何度もお話して来ました。ですが、よく考えるとそれだけでは足りないわけです。それはシンガポールや香港からだけでなく、東京からもエコノミーを奪い返す必要があるということです。
往時を知る者からすれば、住友銀行が消滅し、住友商事も本店が東京に去ったという事実に直面して、どうして大阪人は我慢しているのか、非常に不思議です。別に東京というのは英語で商売するのが簡単なわけではないし、むしろ欧米への劣等感にまみれた斜陽都市に過ぎません。そんな東京にどんどん大きな会社を持っていかれて平気というのは、とにかく妙な話です。
例えば、日本版GAFAについては関西圏で立ち上げる、そこまで行かなくても渋谷系を凌駕するソフト村を立ち上げる、あるいは沈みゆく東京キー局のマトモな部分を引っこ抜いて、大阪の準キー局が業界再編を主導する、EV(電気自動車)とかAV(自動運転車)の特区を、富士山麓だけでなく大阪でやる、コロナ対策の製薬や医療機器ビジネスなどを、改めて大阪に集中できるよう誘致する、などなど具体的なプロジェクトをどんどん走らせるのです。
勿論、いわゆる関西財界といったものは、東京の大企業よりも輪をかけて劣化しているのは事実です。ですから、多国籍で、老若男女のミックスした全く違う、活力に満ちた全く新しい関西ビジネス界というのを立ち上げて行かねばなりません。
とにかく、大阪が地盤沈下して悔しいし不安だ、一方で税金でうまい汁を吸っている既得権層がいるのは許せない、だから小さな政府論でリストラしてスカッとしたい、という維新の姿勢は、衰退を加速するだけの超貧乏性だったのです。
今回の住民投票敗北で、そのことがハッキリすれば大阪にとっては前進ではないでしょうか。いずれにしても、自民+共産の既得権益連合体が信任されたなどという勘違いだけは、勘弁していただきたいと思います。
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