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「紹介状なし」受診は負担増に。菅政権の社会保障は「自助頼み」か

厚生労働省は、紹介状なしで大病院を受診した患者から初診料とは別に5000円以上を徴収する「定額負担」の制度について、対象となる医療機関を拡大し、徴収額も増額する方向で検討すると18日の毎日新聞が伝えています。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは「定額負担」に関する報道を検証。この制度の前提となる「かかりつけ医」が機能しているとは言えず、削られる命が増えていくと危惧しています。

紹介状なしで大病院を受診した患者から取る「定額負担」を新聞はどう報じたか?

きょうは《毎日》から。4面に、紹介状なしで大病院を受診した患者から取る「定額負担」についての記事がありました。「独自ネタ」というほどでもありませんが、重要な問題なのでこれを対象に。

例によって《毎日》の検索機能は使えないので、《東京》に代わってもらいます。この5年以内の記事で「定額負担」を検索すると、11件ヒットしました。因みに今朝の《東京》紙面には、対応する記事がありませんでした。まずは《毎日》の記事。見出しから。

紹介状なし 拡大検討
受診定額負担 専門病院も

これまで、この制度の対象となるのは、「高度医療を提供する「特定機能病院」(86病院)と、地域の中小病院や診療所を支える「地域医療支援病院」のうち200床以上の病院(580病院)」で、紹介状なしに受診した患者から、診察料とは別に初診で5000円以上の定額負担を徴収する義務を課していた。

厚労省は、この義務を課す範囲を「専門的な外来を実施する200床以上の病院」に拡大するとともに、定額負担も1000円以上増額し、その増額分については、公的医療保険から病院への給付を減らして保険財政の負担軽減を図ることを検討しているという。

「200床以上の一般病院に定額負担の徴収義務を拡大する」方針については、既に政府の「全世代型社会保障検討会議」で決まっており、今回の検討で厚労省は、「200床以上」で、かつ、「高額医療機器を使うなどの専門的な外来を提供する病院」に徴収義務を拡大したい意向。

●uttiiの眼

分かりにくいが、要は、全世代型社会保障検討会議の中間報告で徴収義務の範囲を巡っては「対象病院を病床数200床以上の一般病院に拡大する」という方針が出され、時期は定めていないものの、いずれ、688カ所ある200床以上の病院の全てに範囲を拡大することになるという点がまず重要。今回は、そのなかで、200床以上で専門的な外来を提供しているのに、現在はこの徴収義務が掛かっていない部分について、義務を課すようにしたいということ。

こうした方針については、賛成する健保連と、反対する医師会という構図が当てはまる。かかりつけ医が機能していれば別だが、結果として受診抑制が強まれば、悲惨な実例が増えることだろう。

菅政権は「自助・共助・公助」の掛け声と共に、社会保障を国民から遠ざけようとしている。諸制度の個々の効率化や機能強化は当然に必要だとしても、最大の問題は社会保障の枠を狭めようとしている政策の方向性そのものにある。

【サーチ&リサーチ】

《東京》の検索機能を使って、この5年分の記事から「定額負担」で検索を掛けると、11件にヒット。最も古いのは、2016年の記事。

2016年2月10日付
中央社会保険医療協議会(中医協)が厚労相に答申。「身近にある診療所などの紹介状を持たずに大病院を初めて受診する場合、初診料とは別に5000円以上の定額負担を求める制度と、病院前にずらりとならぶ「門前薬局」を見直し、薬局にかかりつけ機能を持たせる新たな制度導入が柱」。紹介状なしの患者に「定額負担」をさせると同時に、かかりつけ医の役割を拡げる内容。基本的に「入院から在宅医療に重心を移す姿勢」

*2017年4月からの導入が決まったことになる。他方、財政審は、2017年度の予算編成に関する建議の中で、「一定の要件を満たす「かかりつけ医以外を受診した場合の受診時定額負担を導入すべきである。その際、診療所と病院の機能分化を進めていく観点から、定額負担を施設類型に応じて設定していくことを含め、速やかに検討を進めるべきである」と述べている。

2016年10月27日付
社会保障審議会の部会では反対が相次いだ。「委員からは「現段階ではかかりつけ医の定義がはっきりしない」などと、かかりつけ医と他の医療機関を区別する基準や方法など、制度面の不備を指摘する意見が続出。「(患者側に)一律に負担を求める有効性が不明確だ」などとして患者の負担増に難色を示す意見が多数を占めた」という。

2019年12月17日付
全世代型社会保障検討会議の中間報告。「紹介状なしで大病院を受診した患者が支払う定額負担も引き上げる。現在はベッド数が400床以上の病院を対象に初診時5千円、再診時2500円以上の追加負担を求めているが、22年度初頭までに対象病院を200床以上まで拡大し、負担額も現在より上乗せすることを検討する。増額分は保険財政に繰り入れる」というもの。

*そして、安倍首相(当時)による今年1月の施政方針演説のなかでも、「かかりつけ医機能の強化を図るため、大病院の受診に定額負担を求めることで、現役世代の負担上昇を抑えます」と。

●uttiiの眼

財政審あるいは財務省と、社会保障審議会あるいは厚労省との対立には何の不思議もないが、国家機構内の「対立」は所詮厳しくはない。大枠としての「新自由主義」では基本的に一致しているので、時間が立てば結局はジリジリと医療提供側が後退を余儀なくされていく。こんなことを続けていたら、大勢の人が自宅で痛む体を抱えながら命を削られていくような社会が普通になってしまうのではないか、そんな危惧を覚える。

この先、この分野でさらにコストを下げようとすれば、かかりつけ医が紹介状を書くにあたって厳しい条件を付けるというようなことになるのかもしれない。

image by: Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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