史上稀に見る大接戦となったものの、バイデン氏が勝利を収めた米大統領選。各国の反応はそれぞれですが、台湾では多くの人がトランプ再選を望んでいたようです。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では、台湾出身の評論家・黄文雄さんがその理由を解説するとともに、にわかに語られ始めた「トランプ大統領の在任中の台湾電撃訪問と国家承認宣言」の現実度を検討。さらにバイデン政権成立後の中国の動きや日本がなすべきことを考察しています。
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年11月25日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【台湾】台湾人が望むトランプ大統領の訪台と国家承認の現実性
アメリカ環境保護局(EPA)のウィーラー長官が、12月に台湾を訪問する予定でしたが、国内での「喫緊」の優先課題を理由に、これを延期すると発表しました。
今年8月にはアザー厚生長官、9月にはクラック国務次官が台湾を訪問しており、ウィーラー長官は3人目のアメリカ政府高官の訪台となるはずでした。台湾外交部の報道官も、ウィーラー長官の訪台延期を残念だとしたうえで、「今後もアメリカ政府高官による台湾訪問を歓迎する。今後の訪問を円滑にするため、バイデン次期米政権と協力していく」といった内容のコメントを出しました。
これまでのアメリカ政府高官の台湾訪問については、中国は相当神経を尖らせており、8月や9月のアザー長官、クラック国務次官の訪台の際には、台湾周辺に戦闘機を飛ばして威嚇しました。それだけに、ウィーラー長官の訪台延期について、中国は安堵しているに違いありません。
呉釗燮外交部長(外相)によれば、訪台は昨年末から打診していたものの、新型コロナウイルスの影響で実現が先送りされてきたそうです。そして11月20日、呉外交部長は、12月5日より3日間、ウィーラー長官が訪台する計画をアメリカ政府から打診されたことを発表しましたが、それからわずか5日ほどで、予定変更になったことになります。
訪台延期の理由はわかりませんが、アメリカの新型コロナ流行がさらに厳しい状態になっていることに加え、中国と何らかの取引があったのかもしれません。大統領選挙で追い込まれているトランプ氏ですから、もしも中国が高圧的な態度に出れば、逆に最後っ屁のように、大きなサプライズを起こすような行動に出るかもしれません。
中国もそれを警戒しているはずです。その一方で、バイデンの息子ハンター・バイデンと中国企業の癒着の情報など、中国側はトランプに有利になるような情報をいろいろ持っていると思いますので、そうした点で、「ディール」したという憶測も成り立ちます。
いま、台湾の一部で期待されているのが、「トランプ大統領の訪台と国家承認」です。これは、今年の10月12日に日本の夕刊フジのサイト「zakzak」で、「トランプ大統領の台湾への電撃訪問と国家承認宣言が検討されている」という記事が出たことが発端です。
これに対して、蕭美琴駐米代表(大使に相当)は、10月13日、メディアの取材に対し、「アメリカ政権関係者と話す中で報道にあるような話は聞いたことがない」と否定しました。
● 「トランプ氏訪台と国家承認検討」日本メディア報道、駐米代表は否定/台湾
しかし、その後のアメリカ大統領選挙でバイデン氏の勝利が確実視されていくなかで、トランプ大統領が台湾を訪問し、国家承認するのではないかという話が、日本の保守層や台湾の一部で、再び盛り上がりを見せているのです。
蔡英文総統は、11月5日、バイデン候補が優勢になっていることを受けて、自身のフェイスブックで台湾国民に対し「トランプ敗北でも冷静に」と呼びかけました。そして、「どちらが勝っても米台関係は揺るがない」と強調しました。逆に言えば、それだけトランプ勝利を期待していた台湾人が多かったということであり、バイデン勝利への動揺が大きいということでもあります。
● 台湾総統が米大統領選で異例の声明「トランプ敗北でも冷静に」
オバマ政権の8年間では、台湾への武器売却はわずか4回でしたが、トランプ政権は4年間で10回も売却しています。そして、政府高官の往来を促進する「台湾旅行法」や台湾の外交的孤立を防ぐための「台北法」などを相次いで成立させてきました。
トランプ大統領は、今回、バイデン氏に敗北して大統領の座を明け渡しても、4年後に再び大統領選挙へ出馬する意欲を示しているとも言われています。そうであれば、バイデン時代に後戻りできないほど、来年の1月20日の大統領就任式までに自身の政策を一気に進めたいと思っているはずです。
台湾としては、トランプ大統領が台湾を国家承認してくれることをもっとも期待しています。バイデン氏は息子が中国企業とカネでつながっている関係があるため、そこまでの期待はできません。むしろ米台関係はかなり後退せざるをえないでしょう。
台湾人の多くは、バイデン大統領の勝利に落胆していますが、ただし、人権問題やマイノリティ問題などにおいては、アメリカの民主党と台湾の民進党はかなり近いものがあります。
アジアで初めて同性婚を国として認めたのが台湾です。民進党は左派傾向の強い政党であり、アメリカ民主党とは政治的方向性ではある程度の親和性があります。
それでもバイデン氏よりトランプ大統領のほうが台湾にとって望ましいと考える台湾・民進党員が多いのも事実です。バイデン大統領になったとき、自由、民主、人権などで台湾を支持してくれるのかどうか不透明です。とはいえ、台湾を支持しなければ、民主党の政治的主張が嘘だったということにもなります。
アメリカでは、トランプおよび共和党=白人至上主義、民主党=黒人やマイノリティの味方のように見られています。
しかし、アメリカの保守層には、黒人の人種差別問題を煽っているのは民主党だという意見が根強くあります。キャンディス・オーウェンズという黒人女性は、「民主党は黒人の被害者意識を煽り、いつまでも黒人を『白人からの差別によって虐げられている人』に位置づけている。黒人が差別から脱していると一番困るのは民主党だ」と批判しています。
● 「被害者意識から抜け出して」米黒人女性が左派の支持者に呼びかけ
彼女が今年9月に出版した『Blackout: How Black America Can Make Its Second Escape from the Democrat Plantation』という書籍は、全米でベストセラーになりました。副題を日本語に訳すと、「アメリカ黒人は民主党の奴隷農場から再び逃れるためにどうすればいいか」ということになるでしょうか。
南北戦争以前、黒人の奴隷農場は民主党の地盤である南部に多く、一方、北部は共和党の地盤でした。このときが民主党による最初の「奴隷農場」であるとすれば、現在は2度目の「黒人奴隷農場」の状態だと、オーウェンズ氏は主張しているのです。
香港では周庭氏ら民主活動家が収監されました。これに対して、各国政府はまだ反応を見せていませんが、バイデン氏はどのようなコメントを出すのか、あるいは出さないのか。それによりバイデン政権の姿勢も見えてくると思います。
そして、より重要なのは、日本と台湾が一蓮托生だということです。そのため、日本の国会で「台湾基本法」(台湾関係法)や「中国は台湾への武力行使を放棄せよ」という決議を進めるべきなのです。これが行われれば、その影響は世界の先進国にも及びます。
台湾が国家として存立できるかどうかの条件としては、中国政府の武力行使に耐えられるか否かにかかっています。中国の武力が絶対的に優位であっても、台湾を武力で入手するには、GDPの20%以上がかかるとされています。ましてや北京冬季オリンピックもひかえているため、中国は台湾よりも、台湾以外の島々(外島)に手を出してくることも懸念されています。
戦争は大国が必勝するとは限りません。アメリカ対ベトナム、ソ連対アフガンなどの例もあります。また、中国が台湾や尖閣で武力行使をするようなことがあれば、そのとき、バイデン政権の真の姿が見えてくるでしょう。そうした事態が遠からずやってくる、そしてアメリカをはじめ世界の潮流が大きく変わると、私は読んでいます。
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