日本学術会議の6人任命拒否問題で、大手メディアやSNSから大バッシングを浴びている菅義偉総理。官房長官時代から続く、あの「冷徹な眼差し」の奥にはどのような感情が秘められているのでしょうか。評論家の佐高信さんは自身のメルマガ『佐高信の筆刀両断』で、菅総理の性格や顔の表情に関するエピソードを披露。あのナチスドイツで宣伝大臣となったゲッペルスとの共通点を、任命拒否問題と重ねて指摘しています。
※本記事は有料メルマガ『佐高信の筆刀両断』2020年11月20日号、10月8日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
羊の群れに狼が襲いかかる
よく考えが変わるので、いまはそうは思っていないかもしれないが、佐藤優が官房長官時代の菅義偉について、池上彰との対談で、こう言っていた。
「彼はすご腕官房長官のように見られているかもしれませんが、基本はゴリ押し一本ですから。バッターボックスに立ちさえすれば、三振でもいいという、そういう感じ。沖縄問題を見れば分かりますよ。引くことができない人なんです」
10月28日付『毎日新聞』夕刊インタビューで、作家の辺見庸が菅を「特高顔」と言ったら、菅は怒ったらしい。
「菅さんっていうのはやっぱり公安顔、特高顔なんだよね。昔の映画に出てくる特高はああいう顔ですよ」
辺見のこの規定に私は双手を挙げて賛同する。スパイとして常に人を疑っているから、菅は暗く陰湿な顔になる。
陰と陽の区分けはかなり重要で、”最後のフィクサー”の朝堂院大覚との対談『日本を売る本当に悪いやつら』(講談社α新書)は、朝堂院と共著を出すのは行き過ぎではないかも言われたが、朝堂院は陰ではない。
妖しい人ではあっても卑しいひとではないのである。
それで猪瀬直樹評で一致した、猪瀬は私の天敵のような男だが、朝堂院は顔を見た途端に付き合ったらダメだと思ったという。
「何回もわしは同じテーブルで会ってるんだよ。木村三浩の結婚式でもわしは猪瀬の横だったんだけどね。わしはもの言わないんだ。反対側向いてたわけ」
猪瀬は編集者などに威張るので有名だった。石原慎太郎に徹底的にゴマをすって都知事になって、天にも昇る気持ちだっただろう。
ヒトラーの側近中の側近で「戦時国家総動員総監」となったゲッペルスとも菅は似ている。
平井正著『ゲッペルス』(中公新書)にゲッペルスが『攻撃』でこう書いているとある。
「われわれが国会に入るのは、民主主義の兵器庫の中で民主主義自身の武器をわれわれのものとするためである。
われわれが国会議員となるのは、ヴァイマル的な物の考え方を、その考え方そのものの助けで麻痺させるためである。
民主主義が自分の仇となる情けのために、われわれに無料乗車券と食事を与えてくれるほど愚かであるとしても、それはわれわれの関知しないことである」
のちにナチスの宣伝大臣となるゲッペルスは、その後を
「われわれは友人として乗り込むのでも、中立者としてやって来るのでもない。われわれは敵として乗り込むのだ!羊の群れに狼が襲いかかるように、われわれは乗り込むのだ!」
と続けている。
日本学術会議会員の任命拒否問題は、まさに「羊の群れに狼が襲いかかる」問題としてとらえなければならない。
うざったい干渉爺いの菅義偉
菅義偉には大学へのコンプレックスがある。それは受験に失敗することによって生まれた。
2人の姉が成功して共に教師になったために、そのコンプレックスは菅の中でねじくれていった。
安倍晋三は野党の女性議員、たとえば辻元清美や福島瑞穂と国会のエレベーターなどで一緒になっても挨拶しなかったという。
多分、菅は挨拶はするだろう。
安倍のコンプレックスは表面に出ていてわかりやすいが、菅のそれは内にこもって陰湿である。
日本学術会議の会員に推薦された学者の中で、政府に批判的な言動をした6名の任命を拒否するという信じ難い行動に出た菅に対し、保守的な国際政治学者の三浦瑠麗でさえ、ツイッターでこう批判したという。
「業績の中身を知りもしない人間が新聞記事程度の情報をもとに、こういうつまらない口出しをやり出したとき、社会は劣化する」
6名の中に私が対談して『戦争と日本人』(角川新書)という共著を出した東大教授、加藤陽子がいる。
副題が「テロリズムの子どもたちへ」というこの本は、中国で翻訳本も出た。「はじめに」で加藤は書く。
2010年4月4日付『毎日新聞』のコラムを加藤は「笠原和夫の名をご存じだろうか」と始めているのだが、名作『仁義なき戦い』の脚本家の名を冒頭に書いた東大教授に私は注目したのである。加藤は続ける。
「笠原の書いたものは必ず読むようにしてきた私だが、『破滅の美学』(ちくま文庫)中に惹かれる一文があった。
『どうも日本人は、アナーキーなことをやっていると生き生きとしてくる』。
お正月に皇室の写真を拝し、お彼岸とお盆に仏壇を開けば、残りの1年は好き放題やっていても暮らしてゆける国、日本。落語に出てくるような人々の安穏な暮らしぶりを笠原は『天皇制下のアナーキズム』と名づけた」
ちなみに、この『破滅の美学』の書評を私が書いたのに着目して、笠原が次の『「妖しの民」と生まれ来て』(講談社)の推薦文を頼んでくるという一幕もあった。
喜んで応じて次のように書いた。
「『仁義なき戦い』には興奮した。身体中の血を逆流させて、あの映画を見た。これはその脚本を書いた著者の、すさまじい半生記である。モデルとなった暴力団の元組長が、同じ大竹海兵団の生き残りだったことがわかって、映画化の同意が得られたといった”秘話”もちりばめられている。
軍隊、そして映画と、尋常ならざる世界に生きてきた著者のあふれるエネルギーは、貧血気味の日本の現在に、ほとばしるものを注ぎ込む。
無頼の精神とは、死んでもいいがタダでは死なんぞという精神であり、この本には全編それがみなぎっている」
うざったい干渉爺いの菅には、多様性を求めるアナーキーなエネルギーが恐いのだろう。(メルマガ『佐高信の筆刀両断』より一部抜粋)
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