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【書評】“しくじり”だらけの日本の歴史が最強のビジネス書となるワケ

さまざまな成功の裏側には、大きな失敗があります。それは昔も今も同様であり、日本史においても多くの「しくじり」を見ることができます。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、日本史に名を残す有名人の「しくじり」を振り返って現代のビジネスに活かすという一冊を紹介しています。

偏屈BOOK案内:大中尚一『面白く読めてビジネスにも効く 日本のしくじり史』

面白く読めてビジネスにも効く 日本のしくじり

大中尚一 著/総合法令出版

最大のしくじりはこの本の装幀ではないか。白い面に、黒い線で超絶ヘタクソなイラストと手書きのタイトル。よくこれで出版するよなあと、逆に感心する。背もソレなんだから、たいした度胸の著者(経営コンサルタント)と出版社である。中身は普通に興味深い失敗のパターン60件を、各4ページで構成。

「歴史はどんな自己啓発書よりも、成功するため、失敗を防ぐための最高の教科書になってくれるはずだ。歴史上の失敗を教訓として、同じ轍を踏まないようにすることが必要ではないか」。その通りだ。

ビスマルクの「賢者は歴史に学ぶ」を引くまでもなく、まったく目新しくない企画だが、一話完結で読みやすく、まとめでビジネスマン向けの短いお説教があって、一応納得させられる。

そうだったのか、なるほどねーと感心したのは10話ほどで、流し読みした50話も、なかなか興味深いことを面白く書いていた。著者は7年間、歴史教師として教壇に立ち、その後に経営コンサルタントに。歴史はどんな自己啓発書よりも、成功するため、失敗を防ぐための、最高の教科書だと気づき、この本が生まれたという。歴史を省みれば、どんな時にどんな行動を取ると失敗するかが分かるとか。

五代将軍・徳川綱吉の治世下で続いた好景気は、次の家宣の代で終わった。それは側用人として取り立てられた儒学者・新井白石による、儒学原理主義に基づく政策のせいであった。

白石は優秀な人物で、朝鮮外交に一定の成果を出し、学者としては優れていたが、経済はド素人なのに貨幣政策を断行。激しいデフレを招く。経済を活性化させる萩原重秀の政策を否定し、貿易も縮小させた。

白石は現実を見てどう改善するかではなく、あるべき姿が前提にあって、現実を無理やりそれに当てはめようとした。その結果、せっかく好調だった経済に急ブレーキがかかり、日本経済はデフレ基調の低成長時代に入る。

幸い白石が力を振るえたのはわずかな期間で、「暴れん坊将軍(笑)」吉宗が就任したことで政権を追われた。そして景気回復、とはならず、以降江戸時代は低成長を続ける。

賄賂政治を行った極悪人として描かれることの多い田沼意次だが、彼は江戸時代では数少ない「生きた経済」を理解する政治家だった。貨幣経済を促進し、民衆を富ませて税増収を図り、財政を健全化させた。

しかし、彼の現実に基づいた政策は、儒教原理主義に凝り固まった幕府の幹部達から拒絶された。とくに松平定信は、名門出身ではない意次を見下すどころか、激しく憎悪した。

彼らは、貨幣経済を進展させて商売を振興、税収を増やして財政改革をしようという意次の現実的な考え方は評価せず「商売は卑しい」という固定観念で改革を否定した。

先例にこだわり、経済も道徳・法でコントロールできると考えた定信ら頑迷な旧守派によって意次らは潰され、江戸幕府は財政改革の最後のチャンスを自ら葬り去った。

やはり赤穂事件の真実を知りたい。オーソドックスな「忠臣蔵」とはフィクションであるから。

現代風に解説すると「江戸幕府ホールディングスが重要な取引先を招きイベントを行っていた中、突然、プロデューサー・吉良を子会社である(株)赤穂の代表・浅野が殴りつけ、接待を台無しに。(株)赤穂は倒産し、社員である武士たちも路頭に迷うことになったようなもの」。うまい!

読んで見ないと、この本の面白さはわからない。

知的とは正反対の不快で愚かな装幀は、まともな読者を逃している。なんでこんな馬鹿なことをしたんだろう。確信犯的しくじりか(って、どんな意味かわたしにもわからん)。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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