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『からくりTV』プロデューサーが明かす「ご長寿早押しクイズ」ヒットの仕掛け

テレビのバラエティ番組では、何らかのVTRを見ながらスタジオのタレントさんのリアクションをワイプで抜くという手法が多く取られていますが、作り手の狙いはどこにあるのでしょうか。『からくりTV』『金スマ』などを企画制作したTVプロデューサーの角田陽一郎さんが、自身のメルマガ『角田陽一郎のメルマガDIVERSE』で『からくり』の名物企画だった「ご長寿早押しクイズ」について、その意図を明かし、複雑な多重視点構造を解説。さらには、失敗から始まった『金スマ』が人気番組へと変わったポイントも詳しく伝えています。

バラエティ番組のはじまり

さて、テレビのバラエティ番組の話をしたいと思います。わたくし、角田陽一郎はTBSテレビに1994年4月に新卒入社しました。配属されたのは希望通りの制作局制作二部。一部がドラマ制作ですから、二部はまさにバラエティ番組の制作の部署です。そこから2016年末に退社するまで、後半はメディアビジメス局、ネット配信会社GOOMOの取締役も兼務していましたし、そこから音楽フェスや映画監督、アプリ制作なども手がけましたが、基本はバラエティ制作一筋です。

そこでいろんな番組を手がけましたが、僕のバラエティ脳が形成されたのは、やはり当時の大人気番組だった『さんまのスーパーからくりTV』と『中居正広の金スマ』です。『からくりTV』は毎週日曜19時の30分番組からちょうど1時間番組に拡大してスーパーという名称が番組名に加わった96年の春から、入社3年目でチーフADとして配属され、その後ロケディレクター、枠ディレクター、プロデューサーと肩書きを変えて担当しました。『金スマ』は、2001年の秋に、その後、自分の師匠になる先輩プロデューサーの元で、チーフディレクターとして番組立ち上げを行いました。

この2つの番組には、共通するところと、全く異なっている点があります。それは、そもそもバラエティ番組というジャンルの特異性にもなってるわけですが、その個々の番組の企画によって、まさに企画の内容や演出は全く異なるからです。つまり、バラエティというジャンルはあるようで無いようなものなのです。でもそんな全くコンセプトが違うバラエティなのに、共通するポイントはどこでしょうか?

それは、まずは先月の新月第58号で述べた、視聴率を取らなければいけない、という至上命題の存在です。そして2つ目は、どちらの番組もスターと呼ばれるビックタレントがMCを務める冠番組である、ということなのです。『からくりTV』は明石家さんまさん、『金スマ』はSMAPのリーダー中居正広さんが司会=MCです。当然番組タイトルに“〇〇の”と付いているわけですから、それは一目瞭然ですが、まさにそのことが、この両番組の、番組内容の違い以上の共通性であるわけなのです。

では、その共通性は、実際どんなところに現れるか?それは、まさにその番組内容の決め方=企画の立て方に現れるのです。つまり、MCが輝くような、MCがおもしろがるような企画は何なのか?それを元に番組の企画を立てていくわけです。さんまさんが面白がるのはなんだろう?中居さんが輝くのはどんな企画だろう?まさに番組の企画会議はそこから始まります。そういう意味では、そこを考えている際は、視聴率を取ることをむしろ頭から無くして考えていることさえあるのです。

『からくりTV』の多重視点構造

まず、さんまさんの場合は、『からくりTV』は他のさんまさんの番組と圧倒的に違うところがありました。それは、《ロケ企画VTRをさんまさんに見せて、さんまさんに面白がってもらう》という点です。圧倒的にさんまさんの番組は、さんまさんが、出演する演者や一般人をいじって面白くすることが多いです。その稀有なテクニックが、日本一と言っていいいじりの反射神経が、まさにタレント・明石家さんまの真骨頂なわけですから、どの局の番組スタッフもその“いじり”が有効になるような企画を考えます。

そして『からくりTV』も当初はそうでした。それは、からくりTVがクイズ番組であり、回答者がいかに、面白く答える?その回答者のボケや言い回しをどう捉えていじり倒すか?それがさんまさんの腕の見せ所であるからなのです。しかし、その当初の30分番組のクイズ番組というコンセプトは1時間に枠拡大したことで、まさに拡張されます。それまでは、いかにスタジオでゲスト・レギュラー回答者がボケやすいか?という形で問題or問題VTRを検討していましたが、放送時間が長くなったことで、そのVTR問題の放送時間(=尺)も次第に長くなっていったのです。

そこから、ロケ企画がどんどん生まれ、「からくりビデオレター」や「ファニエストイングリッシュ」、「サラリーマン早押しクイズ」、「玉緒が行く」、「みんなの替え歌」等の傑作企画が誕生するわけです。そういう意味で、それらの企画はクイズの出題VTRでもありつつ、さんまさんを面白がらせるための一般人/タレントのロケVTRでもあるのです。

そして、上記に挙げた名物企画に加えなかった、この『からくりTV』で一番有名なVTR企画があります。それは「ご長寿早押しクイズ」です。御長寿の皆さんが、司会の鈴木史郎さんが10問出題し、誰が優勝するか?という至って普通なクイズなのですが、この企画の秀逸な点は、その早押しの際の御長寿の皆さんの珍回答なわけです。そこに爆笑が生まれますし、その珍回答の光景を見て、笑うさんまさんやレギュラー回答者の関根勤さんのリアクションワイプが、話題になったこともありました。

ではそんな番組を代表する名物企画をなぜ、上記では挙げずに、ここで言及しているのか?それは、この「ご長寿早押しクイズ」は、他のコーナと違う点があるからなのです。それは、この「ご長寿早押しクイズ」は番組内でスタジオの回答者が数々の出題の早押しクイズの当てっこ(ぼけ合戦)をした後に一番勝った優勝者が、さらに最後に景品をもらえるかどうか?の3択クイズ=“からくりチャンス”の出題になっていることなのです。

つまり、『からくりTV』とは、早押しクイズ番組の優勝者の景品獲得クイズの出題VTRが御長寿の早押しクイズになっていて、そのどちらのクイズも勝利を目指しつつ、実は勝利することより、この企画の本質は、《どれだけさんまさんを笑わせられるか?》であり、そのさんまさん(と他のスタジオ出演者)が笑っているスタジオワイプを見て、さらに視聴者が笑う、という多視点構造になっているのです。

なんで、こんな面倒な仕組みになっているのか?でも複雑なこのメタ視点構造は『からくりTV』以外にも多くの日本のバラエティ番組で見受けられる構造です。この複雑にガラバゴス化した進化(退化?)を遂げたバラエティ番組の構造を深く検証・解明することで、新たなメディア理論が出来るのではないか?というのが、冒頭で挙げた角田理論の布石でもあるわけなのでした。

『金スマ』の失敗と成功

一方で『金スマ』の構造は、どうなっているのでしょうか?中居正広さんの新番組を立ち上げるにあたって、我々が当初考えたコンセプトは、これまた偶然なのですが、日テレの大人気の深夜番組でさんまさんの番組『恋のから騒ぎ』なのでした。中居さんがあの番組のさんまさんの様にスタジオのいる一般女性のさまざまなエピソードをいじるエピソードトーク番組ができれば、まだそういう感じのまわしをやっていない当時の中居さんの新骨頂が新番組で出せるのではないか?そう考えて立ち上げたのでした。

なので、スタジオには100名の女性がおり、その観覧者と出演者を兼ねた女性をを配置するため、中居さんはじめ、スタジオのタレント出演者の後ろに彼女たちを背負う形のスタジオセット構成になったのでした。

こうして番組初回収録2週間前に、そのセットで1回シミュレーションをやってみました。しかし、そこでカメラを通した映像を覗いて見て、我々は初めて気づいたのです。出演者の後ろに、いろんな私服の女性が百人もいると、前のタレントさんたちと画が重なってしまい、ごちゃごちちゃして、美しくもなく、また視聴者にわかりにくい絵柄になってしまったのです。「これは、まずい!」となりました。でも今から全く新しいセットを作るのは、予算的時間的に厳しいです。

そこで、いろんな議論をして生み出されたアイデアが、その百人の女性に統一した単色の制服を着せるアイデアです。そこでYMOの有名なアルバムジャケット『solid state survivor』からイメージした真っ赤な人民服のような制服を着てもらう様になったのでした。そして司会の中居さんも、私服ではなく、番組のキャプテンとしてのイメージを出すために、パイロットや船長のような制服を着てもらうことになったのでした。

こうして、番組は開始されるのですが、しばらくしてまた新たな構造的な問題にぶちあたったのです。それは、まさに番組当初の構想で始めたその100名の女性のさまざまなエピソードトークが、スタジオでしゃべってもらっても、ぜんぜん興味深いものにならないのです。

「これはどうしたことか?」「やはり、さんまさんじゃないと上手く一般人はいじられておもしろくならないのか?」そんな喧々囂々を重ねたあげく、我々スタッフが出した結論は、その100名の女性が、同じ制服を着ているために、その一人一人の個性が見えづらくなって、どんなにトークを頑張っても、そのおもしろさが発揮できないことがわかったのでした。

その赤い制服の百人の女性たちはやがて“アカ”と総称されるようになりましたが、それが表象するように、つまりエピソードトークとは、そのしゃべりという聴覚的内容だけでなく、その人となり、容姿や立ち居振る舞いの視覚的外容がミックスされ得て、はじめて視聴者にそのおもしろさが伝わるものなのでした。こうして、『金スマ』は、はじまった当初のご祝儀高視聴率は、やがて内容が凡庸になっていくと、ジリジリと視聴率低下を余儀なくされていったのでした。

こうして、そこから1年半あまり、試行錯誤が続きます。どんな企画をやると視聴率が取れるのか、それこそVTRロケ企画も、スタジオ企画も、いろいろやって見ました。そしてやがて、「金スマ波乱万丈」という、有名女性の人生の悲喜こもごもを再現VTRとスタジオでのトークで繰り広ける企画として誕生し、人気を博していくのです。

つまり、「金スマ波乱万丈」は、当初の想定だったエピソードトークの内容を一般人から有名人に変更し、そのエピソードを一過性のワンエピソードとしてまわしトークのタネとして使用するのではなく、その女性の人生という波乱万丈のストーリーとして、ドラマの様に再現するという構成に発展していったのでした。こうして、今も続く『金スマ』は人気番組になっていったのでした。

image by: Shutterstock.com

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