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トヨタの業績を急回復させた“4秒短縮”。美人アナリストがその秘密を解説

「自動車で日本をけん引する」トヨタ自動車の業績“底打ち”がはっきりと示されました。コロナショックにより、4~6月期の連結営業利益は139億円と赤字すれすれだったものの、その後は供給網が修復され、北米と中国の2大市場が回復した7~9月期の営業利益は5060億円と大きく持ち直しています。これは、自動車産業のみならず、日本経済にとって明るい兆しになりそうです。株式アナリストとして個別銘柄・市況の分析を行う馬渕磨理子さんが、コロナ禍にみた「トヨタの底力」について解説します。

プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞Twitter https://twitter.com/marikomabuchi

トヨタがコロナ禍でも通期予想を上方修正

11月6日に発表した2020年4~9月期決算は、売上高が前年同期比26%減の11兆3752億円、営業利益が同63%減の5199億円でした。5月に掲げた通期の営業利益予想の5000億円を半年で超えたことになります。

加えて、2021年3月期通期の見通しを発表しています。

連結営業利益(国際会計基準)が前期比46%減の1兆3000億円になりそうだと発表しました。5000億円だった従来予想を上方修正しており、業績の回復基調が鮮明になっています。新型コロナウイルスの流行で落ち込んだ新車販売が米国や中国を中心に想定以上に戻っているのです。

トヨタは一体何をしたのか?

6日の会見で豊田章男社長は、企業体質の強化が業績回復につながっていると強調しました。「この6カ月間の現場の必死の頑張りもあった。社長になってからリーマン・ショック、東日本大震災、超円高といろいろありながらコツコツと積み上げてきた結果が出てきた」と話しています。

決算説明会では生産ラインが停止していた時期にしかできないことを現場が行っていたことにも言及。

非稼働日は改善活動に取り組んだことなどで生産性が大きく向上し、生産や販売の担当者が必死になって仕事をしたことが「急速な販売回復につながった」と述べています。

例えば、生産を“4秒短縮する”という試行錯誤。これは、生産ラインが止まっている時期にこそできた。と豊田社長は述べています。

リーマン・ショックの時は全ての新しいプロジェクトを停止して、攻めのスタンスを取らなかったトヨタは、今回のコロナでは、通常通りに振る舞うことを決めて、前に進むことを決意したのです。

リーマン・ショックの時のトヨタ販売は、市場を4%下回っていましたが、今回のコロナ危機では、市場を3%上回るペースで回復。この意思決定と努力が、販売台数の数字にも現れています。

コロナの影響でトヨタの4~9月の世界販売台数は437万台と前年同期比20%減でしたが、9月単月では世界販売・生産台数ともに前年超えを達成し、9月としての台数は過去最高を記録しています。

さらに、中間決算の場で、トヨタは今年度の世界販売台数計画を昨年度比10%減の942万台(従来計画は910万台)に引き上げています。

米国や中国で、需要が一気に戻った際に、生産ラインを効率化した体制で臨むことができたのです。

米富裕層で業界平均を大きく上回ったトヨタの販売回復力

特に、回復を支えたのが、アメリカでの需要。北米の工場は3月下旬から約50日間、コロナ禍で稼働を停止していましたが、需要の戻りは想定より強かったようです。

比較的単価が高く、利益率も高いピックアップトラックや多目的スポーツ車(SUV)などの大型車が好調です。トヨタSUVの「RAV4」やレクサスブランド車などの販売が好調で在庫が逼迫している状態となり、増産対応を急ピッチで進めています。

トヨタは世界販売台数の約3割を北米が占めており、そこでの収益改善は全体の業績を底上げしているのです。

しかし、北米市場については、先行きが安定して見通せる状況ではないでしょう。

経済が本格的に立ち上がらなければ、富裕層による瞬発的な消費が一巡してしまうことで、自動車市場も再び低迷状態に戻りかねない、といた懸念点があります。

中間決算発表に“初めて”登場した豊田社長

6日の中間決算に豊田社長が出るのは初めてのことです。トヨタの社長が年度の途中で決算説明会に出るのも2002年以来。今回の社長出席は“異例”とも言えます。

ここには、豊田社長の並々ならぬ思いが表れていると捉えることができます。

「自動車が日本経済のけん引役になろう」

豊田社長いわく、「私は方向性を示しただけですが、すべては、その方向に向かい動き続けた現場の力だと思っております。この動きは、トヨタにとどまらず、日本自動車工業会をはじめとする5つの業界団体へと広がりました。自動車は波及効果が非常に大きい産業です。雇用は550万人。納税額は約15兆円。経済波及効果は2.5倍になります」との思いを語っています。

今まで、多くの名言を残してきた豊田社長。

今回の中間決算では“トヨタフィロソフィー”という言葉を披露しています。

グローバルで37万人となっている従業員らで共有できる「トヨタフィロソフィー」を定めて、トヨタの使命を『幸せの量産』と定義。

トヨタグループの創業者である豊田佐吉氏や、自動車に進出した豊田喜一郎氏がつくりたかったのは「商品を使うお客様の幸せであり、その仕事に関わるすべての人の幸せだった」との視点に基づいて定めたといいます。

「利益を出せない会社は未来への投資ができない」とも話す豊田社長。

世界では環境規制の厳格化が進み、脱エンジン車の流れも加速しています。未曾有のコロナショックの中でもトヨタは底力を見せることができましたが、真の実力はコロナ後に試されることになるでしょう。

image by : 著者提供

馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)

京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。アベノミクスが立ち上がった時期に法人でトレーダーの経験を経て、フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当する、パラレルキャリア。大学時代は、国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞している。
Twitter https://twitter.com/marikomabuchi

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