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あの日の日本と同じ。米株式市場IPOバブルが起きている真の理由

株取引アプリ「Robinhood」の台頭もあって、IPO(新規公開株)バブル状態にあるとも言われるアメリカ株式市場。果たしてその実態はどのような状況なのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著者で世界的エンジニアとして知られ、投資家としての顔も持つ米国在住の中島聡さんが、米株式市場の現状を紹介するとともに、バブル下にあっても購入したい株を手に入れるための「2つの作戦」を披露しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

バブルの正体

先週、上場したc3.aiの株価について「IPOバブル以外の何者でもない」と書きましたが、今週は少し「バブル」について書いてみたいと思います。

バブルとは、一般的には「不動産や株式をはじめとした時価資産価格が、投機によって経済成長以上のペースで高騰して実体経済から大幅にかけ離れ、それ以上は投機によっても支えきれなくなるまでの経済状態」を指します(Wikipedia:バブル景気)。

ここで重要なのは「投機」という言葉です。投機とは「価格変動の勢いに乗じて、短期的に利鞘(りざや)を稼ぐこと」で、企業の収益力などとは無関係に、価格変動のみを見て上昇機運にある株を早めに買い、上昇したところで売却する手法です。

「投機」と対局にあるのが「投資」で、こちらは企業の収益力や成長性を見た上で「適切な価格」を見極め、それよりも市場価格が安い時に購入して長期保有して配当や利鞘を稼ぐ、という手法です。バークシャー・ハサウェイを運営するウォーレン・バフェット氏の投資手法がその典型で、「Value Investment」と呼ばれます。

市場にいるのが投資家ばかりであれば、企業の株価は企業の業績を反映した「適切な価格」を推移し、4半期ごとに決算発表を見て、それに反応して株価が動くという、まっとうな動きをします。

しかし、実際の市場には、短期の利鞘稼ぎを狙う投機家もたくさん存在し、彼らが「良い決算が出るかもしれない」という予測のもとに決算前に株を買ったり、良い決算が出た瞬間に誰よりも早く株を購入し、株価が上がったところで素早く売り抜けるなどの行動をするため、株価は実際の企業の業績の変動以上に、大きく上下することになります。

バブルを「株価が企業の実際の価値以上に高騰する」と定義するのであれば、株式市場には投機家たちの活動により、頻繁に小さなバブルが生まれては消えている、とも言えるのです。

しかし、本当のバブルは、普段市場で投機をしていない人たちが市場に投機家として大量に参加した時に起こります。知り合いが投機で一儲けしたことを知って新たな人たちが投機家として市場に参加してさらに市場が加熱し、「購入者が多いから株価が上がる、株価が上がるから購入者が増える」というサイクルに入るのです。

日本の80年代後半のバブルもそうでした。それまで株などに興味を持たなかった人たちまで株を買い、不動産、ゴルフ会員券などが投機の対照となり、誰もが「乗り遅れてなるものか」と「適正価格」を無視して買い漁った結果、バブルが大きく膨らみました。

今のIPOバブルも同じです。Robinhoodが株の取引を民主化し、これまで株式投資に見向きもしなかった大学生も含めた若い人たちがRobinhoodを通じて株を買っているのです。彼らに共通するのは、ジム・クレイマーのような株式評論家のビデオをエンターテイメントとして楽しみ、電気自動車、AI、オンライン・ギャンブリングのような目新しい業種の派手なIPO株に、「適正価格」を無視して投資して来る点です。

ここ最近のIPO株は、すべて売り出し価格を当初の予定より5割ほど高く設定していますが、そこからさらに5割増し、10割増しの値段がついてしまうのです。

c3.aiの場合、当初の売り出し価格は、$36から$38とされていました。それが会社にとっても投資家にとっても「妥当な価格」だからです。しかし、どんな価格で売り出しても株価が上昇する今の状況を考えれば、「妥当な価格」で売り出すことは、会社にとって「お金をテーブルに残す(本来、自分のが手に入れることが出来たお金を、みすみす逃すこと)」に相当します。

そこで、c3.aiは売り出し価格を「妥当な価格」よりも少し高い$42で売り出すことにしたのです。しかし、Bobinhooderたち(Robinhoodで取引を始めたばかりの投機家たち)にとっては、いくらで売り出そうとIPO株は投機のチャンスであり、そこで初日の株は一気に100ドルにまで跳ね上がってしまったのです。

下のグラフはc3.aiの上場初日からの株価の動きですが、2日目から3日目にかけて$133にまで上昇し、その後、$100近くにまで株価を下げています(追記:その後、$137まで上がりました)。

C3AI INC A<AI>(SBI証券提供

私のような長期保有型の投資家にとって、c3.aiはマネージメントもしっかりしているし、ビジネスも伸び盛りの分野なので、魅力的な会社です。当初の売り出し価格の$36から$38、もしくは実際の売り出し価格の$42程度であれば、私も喜んで株を購入し、少なくとも3年から5年は保有し、株が2倍から3倍になることを期待します。

しかし、$100という価格は、その上昇分を既に反映してしまっており、その価格で買って長期保有しても、大きなリターンを得られる可能性は低いのです。

全く同じことが、DoorDashとAirbnbで起こっています。どちらもそれなりの魅力を持った会社ですが、引き上げられた売り出し価格をさらに上回る株価がついてしまっており、長期保有型の投資家にとっては魅力に欠ける株になってしまっているのです。

こんなバブリーな状況には手を出さないのが一番ですが、そんな中でも「この会社の株だけは長期保有したい」と思うケースはあります。そんな場合に、私がとっている作戦は以下の二つです。

一つ目はありきたりな手法ですが、ミニバブルの崩壊を待つことです。上のグラフを見ても分かるように、投機家がIPO株を短期の利鞘狙いで買い漁っている市場では、彼らが利食いをした時に株価が下がるので、そこで「納得出来る価格」まで下がったところで買いを入れるのです。

2012年にFacebookが上場した時の売り出し価格は$38でしたが、私から見ればそれは高すぎる価格でした。しばらく放置しておくと、株価がズルズルと下がり始めたので、$18まで下がった時に買いを入れ、それ以来保有し続けています。現在の価格($274)を考えれば、どちらでも同じだと思うかもしれませんが、同じお金で倍以上の株が変えたので、実際にはとても大きな違いを生み出しています。

この手法の欠点は、そのまま株価が上昇してしまい、買えなくなってしまう点です。私の場合、Googleがそんな株ですが、それはそれで仕方がないと割り切ることも大切です。

もう一つの手法は、少しリスクがある手法ですが、IPO初日に株を入手し、2~3日後に値下がりしたら買い増しをして平均価格を下げ(ナンピン買い)、逆に値上がりしていれば、一部を残して売却してしまう方法です。

私がc3.aiの株を入手する際に使ったのがこの方法です。初日に平均価格$95で入手し、2日後に少し値上がりしたところで($120前後)で約3分の2を売却しました。この操作により、残った株は、1株あたり約$57で入手出来た計算になります(2日で得た利益にかかる税金を考慮すると、もう少し高くなります)。

この手法でも、今ほどにIPO市場が加熱していると、どうしても「高値づかみ」をしてしまうリスクがあるので、あまりおすすめ出来る方法ではありませんが、「どうしても持っておきたい株」がある場合には使える方法です。

image by: Bart Sadowski / Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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