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心理学者が伝授、妙案がどんどん浮かんでくるブレストのお作法

一人で考え込んでいてもなかなか湧いてくることのない、新しいひらめき。そんな状況を打開してくれるのが数人でアイディアを出し合う「ブレインストーミング」ですが、より有効なものとするためのカギがあるようです。今回のメルマガ『富田隆のお気楽心理学』では著者で心理学者の富田隆さんが、ブレインストーミングの特徴や進め方を改めて確認するとともに、大切なポイントについてもレクチャーしています。

下手な考え休むに似たり?

【なかなか出ない妙案】

将棋や囲碁の世界で良く言われる言葉に「下手な考え休むに似たり」というものがあります。いくら時間をかけて考え込んでも、なかなか妙案が出るものではなく、それは、単に時間を浪費している(休む)のと同じことだ、という諺です。

あらかじめ手順の決まった単純なルーティンワークを黙々とこなすことが人間の仕事だった時代が終わりを告げ、それらの仕事をコンピュータやロボットが取って代わるようになると、高度な意思決定や創造的な提案、人間を相手にしたサービス、芸術分野での創造などが人間に残された仕事になりつつあるようです。

これらの人間ならでは!?の仕事に欠かせないのが創造的な「思考」能力です。最近の企業コンサルタントは、「社員の創造性を活かせない企業に未来はない」などとよく言うようです。

しかし、実際問題として、急に「お客が喜ぶような新サービスを考えろ」などと言われても、多くの社員は「下手な考え休むに似たり」の状態に陥るのが常です。「そんな簡単に、天才的ひらめきが出せるくらいなら、いつまでもこんな会社にいないよ」とブーたれる社員も少なくありません。

【三人寄れば文殊の知恵】

人間という種は、つくづく社会的動物です。単体ではだめでも、集団になると個体の数を集めた以上の能力を発揮します。

それを支えているものが「コミュニケーション能力」で、一人で考え込んでいるよりも、何人かで、ああだこうだと話し合いながら知恵を出し合う方が、妙案に辿り着く確率は高くなります。

「三人寄れば文殊の知恵」と昔から言われる通り、たとえ凡人であっても、三人が心を合わせ、知恵を出し合えば、博識で知られる学問の神様「文殊菩薩(もんじゅぼさつ:マンジュシュリー)」のような素晴らしい知恵を発揮できるというわけです。

そこで、グループでの討議や立案が試みられることになります。一般的に「ブレインストーミング(brainstorming)と呼ばれているような自由にアイデアを出し合う集団討議のやり方には以下の4つの特徴があります。

  1. 結論厳禁:批判を含む判断や結論は慎む。それらはアイデアを出し切った後の「評価の段階」に譲る
  2. 自由奔放:奇抜な考え方やユニークなアイデアを歓迎する
  3. 質より量:多面的に多くのアイデアを出す
  4. 結合改善:いくつかのアイデアをくっつけたり、一部を変化させたりして発展させる。他人のアイデアに便乗することを推奨

【自由な発想】

こうしたプロセスでは、少しでも多くの「自由な発想」を引き出すことが最優先されます。批判や評価を避けるルールも、他者のアイデアをパクって改造することの推奨も、従来の思考パターンや暗黙のルールから頭脳を解放し、相互に刺激し合うことにより、型破りの自由な発想をひとつでも多く引き出すためです。

こうして、山のように出されたアイデアを、似たようなものを何種類かに分類し、目的に応じて情報整理します。

日本では文化人類学者の川喜田二郎博士が提唱した「KJ法」が広く用いられています。

以前はひとつのアイデアを一枚のカードに記入していました。現在では貼ったりはがしたりが自由なポストイット(ふせん)が普及したので、これに書き込むことが多くなりました。

さまざまなアイデアや情報が記入されたポストイットをペタペタとホワイトボードなどに貼り付けて、似たようなものをグループ化して貼り直し、各グループにふさわしい「見出し」をつけ、見出し間の相互関係を図解化する、というやり方が一般的です。

自由に発想を集める段階と、それを整理し、構造化し、批判や評価をする段階を分けたことで、多数のユニークなアイデアを生み出すことができるようになりました。

【量子コンピュータの時代】

しかし、いくら複数の人間が集まっても、それらが「均質」な似通った者ばかりの集団であったり、独裁者のような特定の構成員の影響を強く受けていたり、集団全体が強固な偏見を共有していたり、といった状況では、成果を期待することはできません。

参加者の多様性と自由が前提となっているわけです。

大切なポイントは、私たちを無意識レベルで拘束している、様々な前提や既存の知識、倫理的判断、これまでの経験から形成された世界観、等々から、いかに自由になれるかということです。

量子コンピュータの実用化が進みつつある現在、「合理的・論理的な思考」は遠からずAI(Artificial Intelligence人工知能)の独壇場となるはずです。

そうなった時、人間に期待されるのは従来の経験の積み重ねを超えた「創造的発想」の分野なのです。先ほどのブレインストーミングに当てはめれば、情報を分類し整理し構造化する部分はAIの仕事になるでしょう。人間が担当するのは、冒頭の、結論を急がず、自由奔放に奇抜なアイデアを出し合う部分です。

こうした「非合理的」「非論理的」発想の中には、以前指摘した「病的な発想」、たとえば犯罪者や精神病者の妄想なども含まれます。しかし、中心的で根幹的役割を果たすのは、芸術家のような発想、幼児のような発想、と考えて良いでしょう。

個人が「下手な考え休むに似たり」の状態になってしまうのは、論理的合理的なルールの中で、論理的合理的なやり方で思考を空回りさせているからではないでしょうか。その人を拘束している心の鎖から解放されれば、誰もが、ユニークなアイデアマンになれるはずなのですが…。

image by: Shutterstock.com

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