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このままでは手遅れだ。米中激突の最前線となる日本の鈍重な対応

激化の一途を辿る米中対立ですが、菅政権の危機感はあまりに薄すぎるようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者の島田久仁彦さんが、鮮明化する米欧ブロックと中ロブロックの対立を詳細に解説。さらに未だ米中両にらみの対応を続ける日本政府に対し、どう動くべきかを熟考し、迅速に行動することを促しています。

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鮮明化する米中対立と世界のブロック化

バイデン政権発足から2か月。ついにアメリカ外交の姿勢が明らかになってきました。

その特徴は、【国際協調体制への復帰と同盟の重視】という全体的な方針に加え、【中国に対しては決して妥協しない】というトランプ政権以上に、外交方針全体にわたる対中政策です。

その方針が見えてきたのが、東京で行われた日米2+2、そして極めつけは、アンカレッジで行われた米中外交閣僚会談でのブリンケン国務長官とサリバン国家安全保障担当補佐官の対中姿勢でした。

具体的な内容については、すでに報道されていますので、ここでは繰り返しませんが、アメリカが中国にはなったメッセージを解釈すると、【アメリカは中国の強硬姿勢を決して看過しない】というものだと思われます。

もちろん、中国側としては猛反論し、協議は物別れとなりましたが、本当に中国サイドは、このような事態を予測していなかったのでしょうか。

答えは当人にしか分かりませんが、YESとNOが入り混じった状況というのが適切な描写ではないかと思います。

トランプ政権の4年間で修復不可能とまで悪化した米中関係を、バイデン政権下で改善したいと望み、本来ならソウルまで赴いていたブリンケン国務長官に北京に立ち寄るように要請できるところ、アメリカ側の申し出に従う形で、両国からの中間点とはいえ、アメリカの都市であるアンカレッジにまで赴いて会談を行うことを容認したのは意外でした。

ゆえに、恐らく、お互いのジャブの撃ち合いはあるものの、先日の米中首脳会談(電話)の内容を受けて、今後、両国関係を改善するための儀礼的なスタートとなると期待したのかもしれません。

しかし、実際にはそうはならず、アメリカからの原理原則に基づいた、かなり突っ込んだ中国批判が行われ、結果として楊氏(外交担当の国務委員)からの猛反撃になりました。

ただし、ここで見たいのは、その反撃が、通訳に通訳をさせず、一方的に中国語で、それもメディアがいる前でぶちまけたという疑問です。

楊氏の猛反撃は、恐らくアメリカに向けたものというよりは、中国国内へのアピール材料ではなかったかと思われます。ブリンケン国務長官の非常に対中批判に“中国は決して屈しない”というイメージ戦略に思えます(実際に、アメリカ側にいた友人曰く、事後的に通訳されるまでは、ブリンケン国務長官もサリバン氏も、トーンで良い話でないことは感じていたが、内容までは理解できていなかったとのこと)。

ブリンケン国務長官とサリバン氏による対中強硬策のアピールも、中国への警告という側面はあったかと思いますが、「バイデン政権は、決して対中弱腰外交をするのではなく、毅然とした態度で立ち向かう」というメッセージを米国内と、同盟国に与えたかったという、こちらもイメージ戦略だった気がしてなりません。

発言内容に込められた本気度はともかく、結果として見えてきたのが【米欧ブロックと中ロブロックの鮮明化】です。

様々な側面で、アメリカと欧州各国の対中姿勢の足並みが揃ってきました。まだ一枚岩とまでは言えないかもしれませんが、厳しい姿勢を貫くという基本方針はシェアされている模様です。そこにオーストラリア、ニュージーランド、カナダが加わり、一つのブロックが出来ます。

中国はというと、国家資本主義体制の拡大を目論んで、ロシアと組み、中ロで北朝鮮を庇護することで一つのブロックを作っています。

そこに一帯一路政策で絡めとったとも言えるアジア、アフリカ、中東諸国を加え、そこにベネズエラやキューバ、ボリビアなどを加えて、また一つのブロックを形成しています。このブロックでは、ロシアは例外として、中国の外交姿勢や主張をほぼそのままの形で支持するという忖度が存在しています。

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中国の人権問題を批判せぬ国々の思惑

では、どのようなイシューがあるでしょうか?網羅することはできませんが、いくつか私の関心に沿って、両ブロック間での対立構造を見てみたいと思います。

一つ目は、人権にまつわるポイントです。

特に新疆ウイグルにおけるトルコ系ウイグル人に対する扱いを巡る衝突です。中国化するために教育施設(収容施設)に入れて洗脳したり、従わないものを虐殺したり、さらには親子を引き離して精神的な苦痛を与えることで、思想教育を強要したり…挙げるときりがないほど、多くの凶行が報じられています。

今週に入り、欧州諸国も対中国制裁の発動に乗り出したことで、ついに欧米諸国の足並みが揃ったと言えます。

その背景には、バイデン政権に変わり、人権擁護・重視というアメリカ外交の原理原則を、トランプ政権との違いとして打ち出すがために、一歩も退けないアメリカの現実と、度重なる対中批判をことごとく無視され、中国に馬鹿にされてプライドをズタズタにされて怒る欧州が手を組んだのが今週の大きな動きです。

これに対して、中国も報復制裁を課していますが、同時にこれまでの主張を繰り返し、新疆ウイグル地区への他国からの干渉は、明らかな内政干渉にあたり、決して受け入れられないとの姿勢を強調しています。

「欧米諸国はいつもこうして自分たちの価値観を絶対として他国に押し付ける。中国は、アジアは、決して欧米諸国から人権について押し付けられる筋合いはなく、許せない」というOne Asia構想をここでちらつかせたりもします。

ここに「国内での人権問題を指摘されている国々」が追従します。サウジアラビア王国をはじめとする中東諸国、カンボジア、ベネズエラ、そしてロシアがその例です。

これらの国の友人たちの言葉を借りると、「新疆ウイグル地区で行われている事態については、懸念を有するが、同時に、中国への批判は、その批判の矛先が自分たちに向いてくることを意味し、政府としては許容できない」とのこと。

ロシアではウクライナ、北オセチア、チェチェン共和国、ジョージア…などの問題があり、また昨今のナワリヌイ氏を巡る問題も、あまり他国から触られたくはない問題が山積しています。

サウジアラビア王国を筆頭に、非常に厳格なイスラム教国では、最近、目くらませで女性の運転を許したり、社会進出をアピールしたりしていますが、いまでも女性に対する公開処刑が実行されており、深刻な人権問題が存在しますが、それを国際的に非難されることは避けたいため、中国も非難しないという流れが出来上がっています。

ベネズエラでは、チャベス大統領時代から、有力な反対派市民の誘拐事件が多発していますし、アルゼンチンでも同様の問題が社会問題化していますが、それを海外から非難されるのを嫌い、中国という隠れ蓑を使っています。

比較的穏健な形では、インドネシアなどの独裁国では、国内に存在する諸々の問題を覆い隠すため、ASEANに適用される内政不干渉の原則を盾にしています。

今、この人権問題を巡って、2大ブロックのせめぎあいが行われているのが、国際舞台です。

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6年以内に中国政府が台湾を武力攻撃か

2つ目のフロントは、台湾・香港問題です。

これも人権問題に含めることもできますが、中国の習近平国家主席にとっては、その威厳を示し、長年の中国の夢である大中華帝国の再興のために、英国から取り戻した香港と、“不可分の同胞”と見做される台湾を手に入れることは宿願となっています。

そのために、昨年の香港国家安全維持法の迅速な制定と施行が行われ、今月に開催された全人代では、実質的に香港の自治と民主主義を奪い去りました。

本件についても、ロシアなどは「あくまでも中国国内の問題であり、他国があれこれ口を出すべきではない」との姿勢を貫き、中国の強硬姿勢を後押ししているように思えます。それは中東諸国の言行でも同じです。

欧米諸国の香港問題への反応は、もう繰り返す必要もないくらい批判的で、中国政府と真っ向から対立していますが、その背景には、「ビジネスや金融がやりづらくなった」という実利的な理由と、”勝手に”描いた「香港を通じた中国の民主化」という夢が叶わないことに気付いたという理由が存在します。

もう香港の中国化の動きは止めることが非常に困難な事態になっていますが、かつての宗主国である英国は、それを看過するつもりはないという姿勢を明確にしています。

今年に入り、英国の防衛方針が改正され、中国を仮想敵国に設定して、アジア地域へのコミットメントを再強化し、加えて核兵器の拡張に乗り出すことにした英国・ジョンソン政権(ジョンソン氏はロンドン市長時代に、中国の軍備拡張と香港防衛を想定した核対抗論を述べていた)の姿勢は目を見張るものがあります。

空母クリーン・エリザベスをアジアに配置し、米英共同運用を行うというかなり踏み込んだ軍事協力を通じ、中国の武力による勢力の伸長を防ごうとしています。

英国による核戦力の増強は、私は支持できませんが、それほど中国の武力と脅威を英国が感じている印とも言えます。

そこに、香港問題がほぼチェックメイトになる寸前である状況に加え、台湾を巡る衝突の危機が顕在化してきています。

ペンタゴンの分析によると、6年以内に中国政府が台湾を武力攻撃する可能性が高いと見ているようで、もし戦争が不可避であれば、中国の全体的な戦力がアメリカを凌駕するとされる2028年までに叩く必要があるとの分析が出されました。

ところで、直接対立が不可避となった場合、米国はどこまで対抗するのでしょうか?

米国領(グアム・サイパン)に直接的な影響がなければ手を出さないのか?駐アジア米軍基地もアメリカの領域と見なし、いかなる攻撃もアメリカへの攻撃として捉えて対抗するのか?そもそも、中国本土への攻撃はあるのか?

こういった問題が浮かび上がってきます。

さらには、単独での対抗になるか?それともバイデン政権で強調される“何でも同盟国と足並みをそろえた”対抗か?

そのスタイルにも諸説あります。

それを見ていく際、具体的な例になりそうなのが、東シナ海(尖閣諸島問題)です。

バイデン政権下で、【尖閣諸島エリアは日米安保条約第5条の適用範囲との認識】が示され、中国海警法による海警の第2海軍化に伴い、周辺海域の緊張が高まり、インド太平洋地域全体への影響の波及も懸念される状態になってきています。

もし、中国が尖閣諸島を武力で侵略してきた場合、どのように対応するのでしょうか?その時、自衛隊の対応はどうなるのでしょうか?そして、米軍はどの程度の規模で対抗するのでしょうか?

現時点で、どこまでクリアになっているのかは分かりませんが、確実に二つの大きなブロックが衝突するポイントになるでしょう。

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今こそしっかりと考え、迅速に動き出すべき日本

ちなみに、尖閣諸島は日本固有の領土との主張を行いつつ、これまで日本は中国船の侵入に対して効果的かつ決定的な対応ができないのが現在の懸念ですが、仮に、中国漁船の無断上陸を中国の海警が取り締まるという事態が起きたらどうするのでしょうか?これが上手にメディアで料理されてしまい、情報戦を国際的に仕掛けられたら、【尖閣は中国のもの】という誤解がデフォルト化する危険性がありますが、これを日本では想定しているのでしょうか?

南シナ海海域もここ数年、2つのブロックの衝突点となっています。ところで、米中会談後、中国の示威行為として、フィリピン近海に大量の中国漁船と海警の船舶が押し寄せたとの情報が入ってきていますが、これに米欧および中国と領海問題を争うフィリピンやベトナムの反応はどうでしょうか?

抗議は行ったようですが、もう単独では中国の強大な海軍力には対抗できないことも事実化しているので、目立った直接衝突は起きていません。今後、頼りになるのは、米インド太平洋軍ということになりますが、台湾を巡る直接対決が予想されている現状で、どこまで本気で力を注ぐでしょうか?

中国陣営も、アメリカ陣営も、ASEAN諸国の取り込みに躍起になっています。その表れとして、欧州各国が示威的に艦船を海域に投入するという決定がなされていますが、効果を発するには、本格的にアメリカのインド太平洋軍、インド軍、豪州軍などと連携して確固たるシーレーンを形成し、ASEANの利益の防衛に寄与しなくてはなりません。今、それが明確でないため、ASEAN各国は米中の間で揺れ動くという不安定な状況が続いています。

同盟の形成に手間取っているうちに、政治的・軍事的な機動力に勝る中国が一気に攻勢をかけたら…中国が一方的に主張する九段線も“デフォルト”化してしまうかもしれません。

そして、日本にも直接的な影響が及ぶのが、北朝鮮の核及びミサイル開発の進捗です。

今週も、アメリカの出方を見るためか、北朝鮮は弾道ミサイルと見られる飛翔体を数発発射するという危険なギャンブルに出ました。幸運なことに直接的な被害はなかったのですが、再び北東アジア情勢が緊迫してきました。

北朝鮮のギャンブルの背後には、間違いなく中ロの姿があります。ロケットや核開発を助けつつ、直接的な配備までは容認しないというのが方針だそうですが、配備の可能性があるという憶測を北朝鮮に強めさせるだけで、日本の安全保障上の緊迫感を高めることになり、それはすなわち、アメリカの北東アジア戦略に直結することとなります。

そこには、東シナ海、南シナ海、台湾、そして北朝鮮絡みと、地域における対峙ポイントを複数化することで、アメリカの戦力が中国本土に向くのを避けようとする中国とロシアの狙いが見えます。

38度線が有名無実化し、韓国が中国サイドに堕ちたとみられる中、実は2つの大きなブロックの対峙ポイントが日本になっていることにお気づきでしょうか。

そのような中で、「日米同盟は外交の基軸」と明言しながら、まだ態度を明らかにせず、米中両にらみの対応を続けています。

ゆえに、新疆ウイグル地区の人権問題に対しても、ミャンマー情勢に対しても、どうも中途半端な、どっちつかずの対応になってしまっている気がします。そして確実にプレゼンスは発揮できていません。

そういう特殊な外交方針、身の処し方もあるかとは思いますが、世界の覇権ブロックの最先端に位置することになる日本として、本当にどのように対応するべきなのか。今こそしっかりと考え、迅速に動き出すべきだと思います。

皆さんは、どうお考えになりますか?

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image by: Twitter(@President Biden

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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