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いじめ探偵が「こども庁」で懸念する、旭川中2凍死事件と同様の地方格差

菅首相が意欲を示し、突然その名が報道されるようになった「こども庁」の創設ですが、その理念や志とは別に、具体的なイメージが見えず、国民はピンときていないのが現状です。今回のメルマガ『伝説の探偵』では著者で現役探偵の阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、「こども庁」の創設がいじめ問題の解決につながることを期待しつつも、文科省や国と、地方自治体の教育委員会や学校との間に意識や予算の「格差」があると指摘。文春で報じられた「旭川市中2凍死事件」などのいじめ問題を例にあげながら、「理想」としてのこども庁創設と、現場の「現実」とが乖離している現状を告発しています。

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テーマ:いじめ問題の現状と記事では書けないより深い内情、Q&A
日時:2021/4/28(水)19:00~

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突然浮上の「こども庁」創設話。出来てみないと分からぬビックリ箱

3月の中旬、降ってわいたのかように「こども庁」創設案が飛び出してきた。

実は、いじめ問題の専門家の間ではそれ以前から、こうした動きがあることは話が出ていたが「わいせつ教師排除の流れ」もまだできていないのに、より複雑な権利関係や法律、省庁間の駆け引きがあろう「こども庁」については、 多くの専門家が懐疑的に見ていた ところがあった。

こども庁とは何か

Children Firstの子ども行政のあり方勉強会事務局」が作成した資料によれば、5つの柱があるという。

こども庁の5つの柱

・子どもの命を守る体制強化
・妊娠前・妊娠期からの継続支援の充実
・教育と保育に関わる子どもを安心して育てられる社会環境の整備
・妊娠期から成人まで、子ども目線での切れ目のない教育と健康の実現
・子どもの成長を社会で守る一貫した環境整備

多分、できたら素晴らしいと思うが、 正直なところ、これだけではフワッとしていて、具体的に何をするのかよくわからない。簡単にわかる具体策といえば、縦割り行政の改善だろう。

例えば、 幼稚園は文科省、保育園は厚労省、認定こども園は内閣府というように子どもに関係する行政はバラバラになっている。こうしたところを一か所にまとめるというメリットはあるだろう。

また、予算規模を欧州並みのGDPの3%にするという。 金額でみれば8兆円規模になり、予算を大きく増やすことになる。

さらに児童虐待、いじめや自殺、不登校の問題にも切り込み、「子どもの権利条約」に規定される子どもの権利を守るために行政機構自体の見直しも図るというのだ。

もちろん、具体的な他の策もあるし、勉強会やアンケートなどから受け取った意見から考えた策もある。

つまり、「こども庁」についての緊急提言や立法をしようとしている議員のインタビューから出る施策は、どれも今起きている問題にメスを入れようとしていると言える。

もしも、これが実現するのであれば、その意義は大いにあると言えるだろう。

「子ども庁」創設に浮上した、いくつもの懸念材料

現状、新聞報道をみれば、文科省案と内閣府案などがあり、子ども庁をどのように作るかの議論が進んでいるという。

ただ、ハッキリ言えるのは、日本の行政は「スクラップアンドビルド」を取っているということだ。

スクラップアンドビルドとは、何かの課が新たにできれば、その分どこかの課がなくなったり、人員が整理されるということであり、これは新設される部署や予算が肥大化しないために行われていた。しかし、この考え方が採用されてから特に業務が多くなった厚生労働省などは、ブラック企業よりもブラックな労働環境にさらされている状態になっているという。つまり、よくある無謬性として、一度決まってしまえば、それが社会情勢や環境と合わない状態に陥っても見直されることはないという問題がある。

私が省庁関係者から聞いた話では、各省庁の職員を中心に子ども庁ができた場合は子ども庁へ移動が始まる。当たり前の話でもあるのだが、人員としての強化策はあっても限定的であり、ほとんどないとみてよいところがある。

結局、「子ども庁」もスクラップアンドビルドという概念の中にあると言えるだろう。

もちろん、もともと各省庁で対応していた職員が移動となり、専門職さながらに対策対応を行うという意味もあるから、これは心強いところであろうが、結局は文科省案も内閣府案も一部移管ということに留まることから、単に分散されることが懸念され、余計に事務管理が複雑になるのではなかろうかという心配が生じるのだ。

とにかくできてみないとわからないという「びっくり箱」では、コロナ禍で不安定になっている教育行政に、より不安を与える結果になりはしないだろうか。

これは私見だが、もっと実現可能で具体的な施策をしてから「子ども庁」創設を発表した方がよかったのではないかと思うのだ。

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文春「旭川市中2凍死事件」に見る、地方分権の格差問題

また、いじめの問題については縦割りというより、国と地方自治体の温度差や自治体ごとの差が激しく、学校ごとの差もある。公立と私立学校の差もあり、そもそも「いじめ防止対策推進法」が浸透していないという問題が大きくある。

例えば、埼玉県川口市では、市教育委員会が「いじめ防止対策推進法は欠陥法であるから守らない」と裁判で主張したり、被害者を貶めるために証拠のねつ造や改ざん、体罰問題の隠ぺいをおこなっていることが裁判で明らかになっているが、この責任をだれも取ってはいないし改善策もない。

文春オンラインが特集を組んで報じた「旭川市の中2凍死事件」では、その背景に性被害があったことを報じている。

この事件は、文春オンラインで読んでもらった方がより詳しいところではあるが、2月の極寒の公園で凍死した少女は、転校前の中学校で自慰行為を強要されたり、それを撮影されたりしていた。画像を消してくださいと言って川に飛び込むという事件から、この問題は警察が把握するところとなり、主体的に動いたとされる少年は触法少年として厳重注意を受けたようだが、学校は「いじめはなかった」と教育委員会に報告しているいう。加害者やその保護者にもインタビューがおこなわれ、その内容も報じられているが、「誰もその責任はない」としており、「むしろ被害者側の家庭に問題があった」と答えた、と報じられている。

この報道を受けて、旭川市の市長が第三者委員会を設置して、いじめかどうか調べ直すことを約束したということだが、結局のところ、文春オンラインの特集が無ければ、いじめはなかったということにされ、命が失われても自治体は動かないということなのだ。

文科省から指導を受けても、それに従う必要はないと言う地方の各教育委員会は、事実としてある。前述の川口市は県の教育委員会の指導も無視しているし、高知県南国市も過去、議事録なきいじめの第三者委員会はやり直しが必要だと文科省から指導を受けても再調査委員会を拒否する対応をしている。豊田市では、警察が捜査したことで発覚した「いじめ暴行事件」があり、被害側が第三者委員会の設置要望をしてもこれを拒絶している。

一方で、いじめの第三者委員会を常設している自治体では、文科省のガイドラインに沿った運用がなされず、専門家ではない人物がとりあえず登用されている問題もある。常設であるのに常時会議をしていない委員会もあって、形骸化している自治体もあるのだ。

結局、いじめの中でも重大事態のいじめ問題であっても、国の方針と地方自治体や教育委員会は足並みがそろっているとは言えず、縦割り行政の問題よりは、地方分権や教育委員会が独立し過ぎて無法地帯になっているのではないかと思われる問題が浮き彫りになってきているのだ。

つまり、現場まで行き届くには、中央省庁がどうのというよりも、より多くの法や組織を横断する地方分権や教育行政の問題に手を付ける必要があるのだ。

わいせつ教師問題は、当初は「二度と教壇に立たせるな」という印象を残すような報道が目立ったが、横断する法律を改正する必要性があり、断念した節がある。しかし、「それはおかしいではないか」という声が高まり、教員の処分に関して40年の処分歴を教育委員会などが閲覧できるにとどまり、「それでは不十分だ」という声があがると、再び再雇用できない仕組みを作ろうではないかということになったが、反対派は「職業選択の自由はどうなんだ」と吠えるのであり、未だに足を引っ張ろうとしているのである。

一般的に見ておかしいと思える問題も、世間が他人事だと声をあげ無くなれば、途端に有耶無耶にされるだろう。

つまり、脆弱なのだ。

教育行政の改革ともなる「子ども庁」創設には、より多くの複雑な法や組織を横断する整備が必要になる。果たしてこれができるか、期待したいのは山々だが、現場がより混乱するのはご免だ。

私が居る現場は、子どもの命に直結しやすい。もしも、これ以上現場が混乱するのであれば、私だけでは堰き止めることができない現場もある。その時、誰が責任を取るのだろうか。夢物語は勝手にやってくれていいし、叶えられるものならいくらでも協力はする。だが、現場を知らずに語る物語は所詮は「机上の空論」に過ぎないことを肝に銘じてほしいのだ。

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編集後記

私の友人の中に「子ども食堂」をやっている人がいます。手弁当と善意と工夫で、この食堂は成り立っています。

私の活動も、手弁当と善意と志の塊である、ご寄付や別の各事業収益としての活動の転用、メルマガ購読料などで成り立っています。国からの支援や公の支援はありません。

もっとも、公からお金をもらえば、公立校に強く当たれなくなる可能性もあり、私自身は全く気にもしませんが、助成金の応募などを勧められることはありますが現状は全てお断りしています。

公立学校の運営をみても、かなりの面でPTAなどの支援団体があるからこそ成り立つものが目立ちます。結局、ボランティアありきで成り立っているのです。

ボランティアでは、本職としての専門家が育ちません。皆、生きるために稼がなければなりませんから余力がなければ続かないのです。

あまり言いたくはないのですが、私が行う活動の多くは、本来、教育委員会や学校教員がやるべきことです。そういう活動を経て、確かに教員は無駄な業務が多く忙しいのは見ていてわかりますが、「お前ら(教員や教委職員)は給与をもらってやって、俺は手弁当で活動している、ちゃんと仕事しろよ……」と言いたくなることもしばしばあります。

「こども庁」ができたら予算を増やします、というのであれば、例えば今すぐ全国の子ども食堂に少しでも予算をつけませんか? と思ってしまうのです。子ども食堂は子どもの貧困問題を下支えしているのみならず、精神的なケアもしています。とても実効性のある意義ある活動です。

しかし、多くの予算は、よくわからない活動についていることが多いのです。一部の大手NPOでは、助成金や補助金の獲得チームがあると聞き及びます。これでは、そうしたビジネスが裏で成り立っているようにも思えてしまいます。

結局、よくわからない会議のよくわからない専門家に予算をつけて終わってしまうのではないか……、そんな不安ばかりが頭をよぎります。

公が、結局「ボランティアありき」でおこなうものは、心意気への期待でしかなく、怠慢の骨頂に見えてしまいます。ちょっと、国民や善意の徒に甘えすぎてはいませんか? と思うのです。あまりの重みに、ボランティアや無償の範囲では耐えることができないということを肝に銘じてもらいたいのです。

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image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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