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菅内閣は今すぐ解散すべし。最善策は五輪とコロナが争点の総選挙だ

新型コロナワクチンの接種が遅々として進まぬ中、変異株が広がりを見せるなど、日本列島はかつてないほどの閉塞感に覆われていると言っても過言ではありません。そんな状況の今こそ衆院を解散すべしと書くのは、米国在住作家の冷泉彰彦さん。冷泉さんはメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で今回、このタイミングでの解散総選挙が国民にとって最善の策である理由を解説するとともに、政権が信を問うべき3つの政策を提示しています。

(緊急提言)コロナ政策、全面転換を主権者に問え!

菅総理は、4月16日にワシントンDCでバイデン大統領と会談したかと思うと、すぐに東京に戻って4月23日には緊急事態宣言の再開を説明する記者会見を行いました。その一方で、4月25日には北海道、長野、広島の参院補選と再選挙、そして名古屋市長選がありましたが、自民党としては不戦敗(北海道)を含めて全敗に終わっています。

もっとも、選挙に関していえば、北海道の場合は、自民前職が鳥インフル対策費用負担を納得できない業界との暗闘の結果スキャンダルで辞任し候補擁立見送り、長野はなぜか羽田一家の王国なので誰を立てても負け、広島はさすがに河井問題の渦中ということで、どんな候補でも野党が勝つ情勢でした。名古屋市長選も、民主党系で右派ポピュリストの現職に対して、自民が立憲などと野合して挟撃というのは流石に無理筋でした。

ですから、総理としては全敗覚悟でまとめて「ガス抜き」と思っていたはずです。この全敗を受けて、「トップを変えなくては選挙が戦えない」という声が党内から出ているようですが、「では、選挙の戦えるトップはいるのか?」という疑問に対しては、誰も答えはないようです。

自民党がそのような状態である一方で、では、受け皿となる野党はどうなのでしょう?足を引っ張り合い、中には「ゼロ・コロナ」などというファンタジーの世界に行ってしまったグループまである野党勢力もまた、主権者が権力を委任する対象とはなり得ません。

コロナ政策が行き詰まりを見せる一方で、政局まで袋小路に追い詰められた状態です。また、五輪の開催問題も社会の不透明感の原因になっています。このままでは、どんどん国の衰退が加速し、国民の幸福感や満足感の総量が、理不尽なまでに壊れてしまいます。

では、どうすればいいのでしょうか?

1つの策を提言したいと思います。コロナ・五輪政策を争点に解散すれば良いのです。これは政権にとっても、野党にとっても、そして主権者である国民にとっても最善の策です。政局だけでなく、社会全体を包んでいる不透明感や閉塞感をある程度は打破できるし、何よりも現状のような危機であるからこそ、現行憲法下における最も正々堂々たる手続きである、主権者による主権の行使が必要だからです。

その場合の具体的なコロナ・五輪政策ですが、次の3点を掲げるのが良いと思います。

1つ目は、コロナ病床の拡大です。14ヶ月前、中国湖北省の武漢では突貫工事でコロナ病床を建設していました。また、13ヶ月前の米国ニューヨークでは、セントラルパークにテントを設営、また陸軍工兵部隊が見本市会場を突貫工事でコロナ病床化、更には軍の病院船まで出動させていました。

日本の医療行政は、そのように急場しのぎで朝令暮改的な政策を好まない体質があるようです。ですが、武漢やNYの状況を見て知って、それから更に12ヶ月以上が経過し、ワクチン普及を遅らせる一方で変異株の蔓延を招いている中では、病床拡大問題について「平時」の発想で対応するというのは、さすがに国家として取るべき政策ではないと思います。

医師、看護師の定数が決まっており、病床の全体数も決まっており、通常医療も、コロナ外の救急診療も行う中では、現状が精一杯というのが医師会などの立場であるならば、これを上回る「危機管理」としての判断でコロナ病床を増やさなくてはなりません。

私は医師会の抵抗は、既得権益防衛といった利己的なものではないと思います。コロナ外の平時の医療を続けないと、そこで救える命が救えない、それが病床数の増床ができない原点だというのは承知しています。ですが、それでも、大阪などでは、コロナだと救急車が来ないが、コロナ外の傷病なら来るというのは異常です。政治に「その異常さを改善する権力」が委任されていないのであれば、最後は主権者が判断するしかありません。

とにかく東京でも大阪並みに逼迫するということを前提として、更にプラスアルファの最悪の事態を想定したコロナ病床数、人工呼吸器数、人工心肺装置数を確保し、更にそのケアをする要員も、資格要件や絶対要員数の規制緩和を現実的な範囲で行った上で確保する、これを新法として強制力をもって行うのです。

2点目は、ワクチンです。菅総理は訪米時にファイザー社のワクチンの手配を行ったようですし、これに加えてモデルナ社のワクチンも大量供給のメドが立ったという報道があります。この両者を加えて、確保数と、接種体制を大幅なものとし、高齢者は6月15日までに、そして成人全員を対象とした接種は8月10日までに完了することにします。

勿論、こちらも「医師しか接種できない」「接種済みの医師しか接種できない」「住民票の住所しか接種できない」「紙のクーポンしか運用できない」といった制約があり、医師会ないし厚生労働省は「平時の規則」を盾に、大真面目で「人命重視」の立場から、そうした制約を守っているわけです。ですが、このワクチン接種の問題も「平時」ではありません。「危機管理」として実行する必要があり、その実行を行って始めて「危機を脱する」ことのできる問題です。

ですが、現状は様々な困難に直面しています。勿論、過去に猛威を振るったワクチン忌避の世論があり、これを煽ったメディアがあり、この種の訴訟に限ってどういうわけか消費者サイドの極端な判決を出し続けた裁判所の問題があるわけです。ですが、この2021年半ばに差しかかった現在、予算から規制緩和まで可能な措置を動員してワクチン接種率を確保しなくてはなりません。

であれば、日本国の真の権力者である主権者に判断してもらうのが正当です。勿論、接種するかしないかは、個人の自己決定であり、その権利は保証しなくてはなりません。ですが、巨額の予算と前例を打破した柔軟な体制で一気に接種を進めるかどうか、これは民意に決めてもらう問題です。

3番目は、五輪です。7月という中途半端な時期。つまり日本における感染拡大がどうなっているか分からず、また世界における動向も分からない時期に、海外無観客、国内観客削減という措置で五輪を実施するというのは無謀です。もしかしたら国レベルでの参加断念、あるいは予選実施のできない場合に競技レベルで開催断念、これに加えて、個人レベルでの感染懸念による参加取り下げなどが横行するかもしれず、そうなっては、五輪としての体裁が取れません。

それ以上に、半端な形で五輪開催を強行すると、経済効果はゼロであるばかりか、日本社会における「海外からの感染持ち込みへの拒否感」が陰湿な形で広がってしまうのが気になります。それは五輪の成功不成功というだけでなく、「ポスト・コロナ」において、インバウンド観光客が戻ってくるのか、果たして日本サイドは「おもてなし」の姿勢に戻れるのかといった問題も不透明にしてしまいます。

ですから、ここは五輪を10月末から11月に延期することを提案したいと思います。最大の問題は、数千億円相当のカネを払って独占放映権を買っている米NBCですが、彼らにしても、中途半端な形での7月開催では投資金額は十分に回収できないと思われます。

米国の場合に秋は、フットボールの公式戦、野球のポストシーズン戦に加えて、バスケのNBA、ホッケーのNHLなどがフルで動くため、五輪中継の割って入る余裕はないし、CM販売上も無理だということが言われてきました。

ですが、コロナから「脱しつつある」であろう2021年秋の場合は、例外だと思います。7月開催で大損するよりも、他のプロスポーツと日程を協議し広告出稿を調整した上で、10月末に実施というのは、米NBCとしてもベターな選択肢になる可能性は十分にあります。あくまでIOCが決定することだというのは、そうかもしれませんが、日本には国家主権があるわけですから、10月末開催を強く主張する、そのための権限を主権者が政府に委任するのです。

つまり、4月5月はとにかく病床確保で救命に徹する、そしてワクチンについては、6月15日までに高齢者、8月10日までに一般接種を終えて、日本サイドにも、そして海外からの選手役員にも安心感を確保する中で、10月末に五輪を行うのです。これが成功すれば、社会のムードは一気に明るくなるでしょうし、経済も正常化へ向かうと思われます。

別に奇策でも何でもありません。ただ、病床の問題、ワクチンの問題については、平時の法律があるので、厚労省や医師会は動きが取れないし、内閣には独断で非常手段に進む権限はありません。戦争がどうとか、敵が攻めてきたらどうというような、別種の事態を想定して内閣に権限を付与するのではなく、今ここにある「コロナという危機」に絞って、主権者に判断をしてもらうのです。

その上で、病床確保、ワクチン接種のスピードアップ、ワクチン効果を確認できた後のタイミングで海外観客を入れた五輪開催という「3段構え」の政策を行うかどうか、その権限を立法府を通じて内閣に付与するかどうか、これを主権者に聞けばいいのです。

菅総理にはそこまで政治的リスクを引き受ける能力がないのであれば、総辞職して総理総裁を別の人材に変え、その上でこの「3つの政策」を掲げて解散すればいいと思います。また、各省庁や都道府県の関係もあって、自民党政権ではこの3つは実施できないというのであれば、野党連合に加えて自民党の脱藩組で、この政策を掲げて政権奪取に動けばいいのです。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)

image by: 首相官邸

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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