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恒例行事と化した「がんの10年生存率」報道から感じる構造的な大問題

国立ガン研究センターが2007年と2008年にがんと診断された患者の「10年生存率」を公表し、各メディアが伝えました。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、東京新聞に掲載された「10年生存率」の記事を過去のものも含めチェック。今年の集計は過去最大規模という違いはあるものの、がん治療は進化し続けているとの注釈とは裏腹に劇的な変化は見られず、毎年同様の数字が公表され、記事になることに疑問を呈しています。

がんの「10年生存率」について新聞はどう報じてきたか?

きょうは《東京》から。各紙報じていますが、がんの「10年生存率」について、過去記事を当たってみましょう。《東京》の過去記事検索で6件ヒットしました。まずは《東京》2面記事の見出しと【セブンNEWS】第3項目の再掲から。

がん10年生存率59.4%
初の全国大規模調査
国立がん研発表

国立ガン研究センターは、がんと診断された患者の「10年生存率」を公表。平均で59.4%だった。240病院24万人対象の国内最大規模の調査によるデータ。前立腺がんでほぼ100%、乳がんで90%近かったが、小細胞肺がん9.1%、膵臓がん6.5%。

以下、記事概要の補足。2008年にがんと診断された患者23万7892人について、がん以外の死因の影響を除いて算出したもの。膵臓がんの生存率の低さは「早期発見が難しい」ため。

また肝臓がんなどでは5年が経過した後でも生存率が低下していた(肝細胞がんで44.7%から21.8%に。肝内胆管がんで18.9%から10.9%に。)ので、これまで「診断からの5年が治癒したかどうかの目安にされる」ことが多かったが、5年を超えて「長期観察する必要性が示された」としている。

●uttiiの眼

記事は、国立ガンセンターが、このデータは2008年、つまり13年も前にがんと診断され、治療を受けた人についてのものだという点を強調していることを伝えている。「最近開発された治療法も使われておらず、参考として考えてほしい」(若尾文彦がん対策情報センター長)と。

生存率はどんどん高まってきているのだと思う。ただ、新型コロナ禍による医療の逼迫乃至崩壊状態が大阪などで生じている。統計数字を動かすような影響に発展するとすれば大変なことだが、その結果が出るのはずっと先のことになるのだろう。

【サーチ&リサーチ】

*実は、「10年生存率」は度々発表されていて、記事を総合すると、2016年と2017年、2018年、2019年、そして2020年にも出されている。データベースでヒットした最初は2017年。4年前の記事だった。

2017年2月16日付
「国立がん研究センターは、2000~03年にがんと診断された人の10年後の生存率は58・5%だったと16日付で発表した。10年生存率の算出は昨年に続き2回目で、0・3ポイントとやや上昇した。」という。

*対象となる患者が診断を受けた年次、その数がまちまちなので、生存率が上昇したと評価することが非常に難しくなっている。17年の記事が伝えた「10年生存率」の調査は「全国の20施設で診断された約4万5千人」で、今回の大規模調査とは単純に比較できない。

*2018年公表の「10年生存率」は55.5%。2001年~04年に「全国20施設で診断、治療を受けた約5万7千人のデータを集計した」もの。

*2019年公表の「10年生存率」は56.3%。2002年~2005年に「全国20施設で診断、治療を受けた約7万人のデータを集計した」もの。

*最後は2020年公表の「10年生存率」で、57.2%。2003年~06年に診断された「全国約20のがん専門病院で診断、治療を受けた約8万人を集計した」もの。

●uttiiの眼

今年の「10年生存率」は対象患者数も圧倒的に多く、施設数も多いので、最も信頼できる数字とは言えると思う。しかし、毎年出す必要がある数字なのかどうか。こういうものが恒例行事のように出されるについては、構造的な問題がどこかに潜んでいるのではないかと疑いたくなってくる。

記事の中には、必ずと言っていいほど、数字は過去のものであり、その後のがん診断・がん治療は進化し続けているというような記述があり、免疫チェックポイント阻害剤のオプジーボの登場やゲノム医療のことなどが書き添えられている。

肝心の「10年生存率」の数字は少しずつ上がっているようにも見えるが、新薬や新治療法の登場にもかかわらず、劇的な上昇には至っていない。医療は間違いなく様々な面で進歩を遂げつつあるが、日本全国にその恩恵が行き渡っているわけではないということか。

image by: Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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