先日掲載の「人口当たり死者数はインドの1.5倍。ニュースが伝えぬ大阪の惨状」でもお伝えしたとおり、新型コロナの第4波に耐えきれず医療崩壊状態となってしまった大阪府。何がこの惨状を招いてしまったのでしょうか。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、橋下徹氏が府知事時代に断行した「医療力の半減」が最大の要因と断言。その上で、橋下氏を正面から批判することのないメディアに対して苦言を呈しています。
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※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の2021年5月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:大村大次郎(おおむら・おおじろう)
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。
大阪のコロナ死者数を激増させた維新の責任。この医療崩壊は人災だ
新型コロナの第4波がひどいですね。特に、大阪は目も当てられない状況です。大阪で目を引くのは、死者の多さです。下のように、人口当たりの死者数は、大阪が群を抜いています。
100万人あたりの直近7日間の死者数(5月15日現在)
大阪 28.0人
東京 2.6人
北海道 7.4人
全国平均 5.4人
大阪府は2021年3月1日以降は、全国の死者の20%以上を占め、4月以降は30%以上を占めています。
しかも2021年5月1日時点では、7日間の人口当たりの死者数が、インドやメキシコよりも多くなっています。大阪は「世界でもっとも新型コロナの死者が多い地域」となったのです。
感染症対策において、もっとも重要なことは「死者を出さないこと」です。それを考えたとき、大阪はもっとも新型コロナ対策に失敗しているということがいえるはずです。
また大阪は医療を受けられないままに死亡した人が18人にも及びます。日本でもっとも医療崩壊が激しい地域だといえます。
よくSNSなどでは、「大阪は高齢者が多いから死者が多いのだ」という意見が散見されます。が、これは的をはずしています。
大阪は高齢者が多いといっても東京と比べて数%程度であり、これほどの死者の差が出るほどではないはずなのです。
これから3回にわたって、大阪はなぜ医療崩壊したのか?大阪では何が起きているのか?をご紹介していきたいと思います。
大阪の医療崩壊は今に始まったことではない
そもそも第4波以前においても、大阪は新型コロナの死者が非常に多かったのです。5月16日時点での大阪の累計死者数は1,958人で東京を抜いて日本最悪となっています。
が、大阪は第3波のときにも東京を抜いて日本最悪となっていた時期もあったのです。
東京の人口は、大阪の人口の1.6倍もあります。しかも東京は日本の首都であり、世界中からたくさんの人が集まっています。その東京よりも、死者数で上回っているわけですから、いかに大阪の死者数が多いか、ということです。
100万人あたりの死者を比べると東京は140人で大阪は200人です。
なぜこれほど大阪では死者が多いのでしょうか?
はっきり言うと、橋下徹氏や「維新の会」の責任が大きいのです。
2008年に橋下徹氏が知事になってから、大阪府や大阪市は、「行政の無駄を省く」という号令のもと急激に公立病院を減らしました。
市立病院を独立法人化したり、府立病院に統合したりして、大幅に病院施設の削減を図りました。もちろん人員も大幅に削られることになります。
総務省の統計によると2007年の大阪府の公立病院には医者と看護師は8,785人いましたが、2019年には数半分以下の4,360人になっているのです。
ざっくり言えば、大阪の公立病院の「医療力」は、橋下氏と維新のために半減させられたといえるでしょう。この医者と看護師の数を半分以下にしたことが、新型コロナでの大阪の死者数の激増の最大の要因だといえるのです。橋下氏は維新の会は、ぜひこのことについて明確に説明していただきたいものです。
また維新は、赤十字病院や済生会病院など、慈善事業系の病院の補助金も大幅にカットしました。赤十字病院や済生会病院は、その地域の救急医療や感染症医療も担っていましたので、これも新型コロナの被害が拡大する要因となりました。
現在、大阪は「新型コロナ対策の医療関係者が不足している」として、自衛隊や近隣府県から看護士を派遣してもらったりしていますが、何のことはない、自らが医療関係者の数を減らしてきていたのです。
公立病院や慈善系の病院は、感染症や救急医療などにおいて中枢を担うものです。公立病院や慈善系の病院の戦力がダウンすれば、それはそのまま感染症対策や救急医療の低下につながるのです。
公立病院は感染症対策の砦
日本はよくわかっていない要因により、欧米よりも桁違いに感染者が少ないにも関わらず、医療崩壊の危機に瀕しています。「それは日本は公立病院が少なく民間病院が異常に多いからだ」と、何度かこのメルマガでご説明しました。
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下が先進諸国の公的病院と民間病院の病床数の内訳です。
公的病院(非営利病院含む) 民間病院
日本 約20% 約80%
アメリカ 約75% 約25%
イギリス 大半 一部のみ
フランス 約67% 33%
ドイツ 約66% 約34%
「諸外国における医療提供体制について」厚生労働省サイトより
このように、日本は民間病院の比率が、先進諸国に比べて異常に高いのですが、中でも大阪は、特にこの比率が高いのです。
民間病院は、利益を出すことを優先しますので、金のかかることはしません。集中治療室(ICU)を設置しているところも少ないですし、感染症や救急治療の受け入れ態勢も整っていません。だから世界中のほとんどの国で、集中治療室や感染症、救急治療などは、公立病院が大半を担っているのです。
しかし、日本では公立病院が異常に少ないので、集中治療室や感染症病床が少なく、必然的に、わずかな患者で医療崩壊を招いてしまうのです。この日本医療の悪しき流れの先頭に立っているのが大阪なのです。日本の公的病院の割合は約20%ですが、大阪は約10%です。つまり、大阪は公的病院の割合が全国平均の約半分しかないのです。大阪の公立医療は、日本で最弱といえるでしょう。そして、大阪の公立医療を日本で最弱のものにしたのは、橋下氏と維新の「公立医療削減政策」なのです。
橋下氏や維新というのは、医療行政に関して無責任この上ないのです。思い起こしてください。橋下氏は、去年、新型コロナが流行しはじめたとき「やみくもにPCR検査をしてもダメ」ということを盛んに述べていました。しかし、感染症を防ぐためには、「感染者をできるだけ早く特定し隔離すること」は基本中の基本です。
日本は人口当たりのPCR検査が世界で100何番目という状態がずっとつづいています。これは絶対におかしいことであり、日本政府の重大な落ち度です。そして、できるだけ早くこの状況を改善しなくてはならなかったのです。そんな中、橋下氏はテレビで「PCR検査を拡充することは有効な対策ではない」ということをしきりに吹聴していたのです。しかも、しかも、です。
去年の4月、橋下氏は自分がちょっと体調を崩した時には、真っ先にPCR検査を受けているのです。
当時は相当に、症状が重い人でもなかなかPCR検査は受けられないような状況が続いていました。その一番、PCR検査が受けにくい時期に、橋下氏は受けているのです。こんな無責任なことってあるでしょうか?
橋下氏と維新は大阪の医療を崩壊させた最大の戦犯のはずです。彼らに対して、メディアはもっときちんと批判すべきでしょう。
大阪の公立病院の医者や看護士が、維新の政策により半減させられているのは、見誤りようのない事実なのです。そして、公立病院の医師と看護士の少なさが、「病院に行くこともできずに死亡する人」を増やしている大きな要因であることも間違いのないことなのです。
それにしても、なぜ橋下氏や維新の会は、このような愚かな医療削減を行ってきたのでしょうか?その驚くべき「未熟で雑な政治思想」を次回以降、つまびらかにしていきたいと思います。
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