先日掲載の「最悪の場合『汚物』地獄も。災害時のトイレで起こる悲惨なケース」では、集合住宅の場合、被災時に水の供給が止まるだけでなく「流せなくなる」という状況が生じ得ることを指摘した、マンション管理士の廣田信子さん。そんな廣田さんは今回、自身の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』で、自宅マンションの排水経路を知っておくべき重要性を紹介。専門家を招いての調査を勧めていますが、雑排水管清掃の際、業者に同行し経路を確認するだけでも理解できることがあり、プロからの「生の声」を引き出だせる場合もあると記しています。
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排水経路の「弱点」を知っていることが一番の「強み」に
こんにちは!廣田信子です。
先日のマンションコミュニティ研究会のフォーラムでは、集合住宅の災害時のトイレ使用マニュアルについて、長谷工技術研究所 第3研究開発室 専門役 木村洋氏に、基調講演をして頂きました。公益社団法人空気調和・衛星工学会集合住宅の在宅避難のためのトイレ使用方法検討小委員会がとりまとめた「集合住宅の『災害時のトイレ使用マニュアル』作成手引き」にそったお話です。かなり専門的でありながら具体的で、各マンションで役立てて頂ける内容です。
「最悪の場合『汚物』地獄も。災害時のトイレで起こる悲惨なケース」でも書きましたが、「トイレを流せない」「排水ができない」というのは、災害時の在宅避難にとって、もっとも大きな壁です。
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トイレの汚物・汚水も、生活雑排水も、どこかで合流して、公共下水道に流れますから、どちらも流すことが不可となる可能性も大きいのです。
私の東日本大震災時の体験は、まさにその状況でした。トイレを流せないどころか、手を洗った水さえ流せないのです。水が出なくなった場合にトイレに使えるように、風呂の残り湯をためていたお宅では、残り湯が使用できないため、だんだん腐っていっても、それを流すことすらできない…という状況になりました。以後、私は、ふろの残り湯をためておくということを防災対策として推奨していません。
そして、被災時には、排水経路のどこに損傷があったか、その程度はどのくらいかを調べることすら簡単ではありません。被災時には、被害が重なりますから、専門家がなかなか来てくれないことも想定しておかなければなりません。自分たちで実施できる調査方法についても、上記の「マニュアル作成の手引き」には記載されています。
被害調査以前に、自分のマンションの排水経路がどうなっているか、みなさんは知っていますか。自分たちの出した排水が、どこにある立管を通って、どこで横引き管につながり、どのように合流しているのか。その横引き管がどこから建物外に出て、どの排水桝につながり、敷地内をどのように勾配を取りながら道路に出て、公共下水道につながっているのか。平面図と断面図(勾配のとり方)、両方をイメージ出来たら立派です。まず、この状況を正しくしていることが、すべての基本だと思います。マンションによって状況は様々ですから、まず、これを把握しないと、マニュアルもつくれません。
図面を見ればわかる…かというと、必ずしもそうでないところがやっかいです。竣工図面は、当初の設計図面から変更になった部分を修正していないことも、少なくないのです。調査をしてみると、竣工図面とはかなり違う場所を通っていたり、施行の都合でかなり無理な配管になっていることもあります。排水桝の位置や深さが違っている場合もあります。経年によって地盤沈下の影響を受けている場合もありますし、当初から必要な勾配が確保されていない場合すらありました。
専門家と共にしっかり調査すると、どの部分が地震に弱いか、水害時にどこから水が逆流するか、といった弱点も見えてきます。それが、防災を考える上でも、災害時の調査・復旧の上でも、重要になってきます。
なかなか専門家に依頼しての調査までできないと思ったら、まず、図面を確認して、雑排水管清掃の時に、業者に同行して、桝の位置や深さ、そこにどこから配管が来ているか…そこからどこに向かっているのか…を確認するだけでも、かなりのことがわかります。こちらが、真剣に敬意を持って立ち会っていると、排水設備を扱うプロとしての「生の声」が聞ける場合があります。
「ここは、もともと勾配が確保されていない」
「この場所は、地震の揺れが大きいと破損しやすい」
「ここの構造が詰まりやすい」
といったことです。私は、よくそうやって、情報収集していました。
まずは、自分のマンションの排水経路に意識を向けてみましょう。「弱点」を知っていることがいざと言う時の一番の「強み」になります。
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