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【書評】太宰治だからできる解釈「カチカチ山のウサギは16歳の処女」

日本を代表する文豪の一人「太宰治」、彼の名を知らない日本人はいないというほど有名ですが、彼の作品は今も多くの人々を魅了し続けています。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが取り上げているのは、各種メディアでも有名な教育学者の齋藤孝氏が太宰治の知られざる魅力について力説する一冊です。

偏屈BOOK案内:齋藤孝『太宰を読んだ人が迷い込む場所』

太宰を読んだ人が迷い込む場所

齋藤孝 著/PHP研究所

「君は太宰の毒に勝てるか?」という、かっこいいセリフがあるようだ。「高校生くらいのときに一度は、はまるよね」とか、「太宰文学はハシカみたいなもんさ」とか。

わたしもエラそーに言ってみたいところだが、そんなに太宰を読み込んでいないから、言う資格がない。

文学部教授である著者は、60歳を迎える歳になって、改めてちくま文庫の『太宰治全集』全10巻を読み直したところ、感慨を新たにしたという。

「いくつになっても、太宰には、はまる。若いときのハシカとばかりは言えない」と思ったそうだ。この全集、一巻につき450ページ前後と、かなりのボリュームらしい。

太宰を読んで過ごす日々に愛おしさを感じている自分がいたという。「だから自信をもって言う、太宰は青年のみならず幅広い年齢層の方が楽しめると」。

太宰作品にはいわゆる駄作もある。イマイチだ、フツーだ、なんだこの落ちは、などという気がしても、どれも「愛すべき小品」に見えてくるという。

作品の良し悪しは別にして、太宰の文章は「笑える言い回し」が多い。「太宰といえば爆笑」といってもいいくらい。私は「爆笑マーク(顔文字)」を書きながら、読み進めている。読むほどに楽しくなってくるので、みなさんにもお勧めしたい。

って、顔文字書けって?本に何か書き込むなんてことできません。

太宰作品は、とくに冒頭の文章にすばらしくキレがあるものが多い、と断言している。冒頭の衝撃を楽しもう。そして、太宰を読むとどうなるのか。この本では「読者が迷い込む場所」として、10個の太宰ワールド(=太宰の穴)を細やかに解説している。

1.落ちていく人生がリアルに味わえる
2.革命を起こしたくなる
3.ダメ人間でも救われた気になる
4.自殺願望の奇妙さを実感する
5.プライドの厄介さが身に染みる
6.「世間の怖さ」に共感してしまう
7.女性がますますわからなくなる
8.古典の魅力に惑溺する
9.津軽人の本性に驚く
10.わけのわからなさがクセになる

……ムリヤリとってつけたようなのもあるな。

でも、読み進めていくと、なるほどねーと感嘆する。それぞれの穴がある作品を解説するのだが、太字で見せる引用部分が絶妙である。それは著者の手柄ではなく、太宰の力なのだが。

教科書で読んだ『走れメロス』は講談のように盛り上がるので、メロスと一緒に走っている気分で音読されたし。男には善良な狸、女には無慈悲な兎が住んでいる、というのは『カチカチ山』。昔話にしてはちょっと残酷すぎるような気がしていたが、後年の絵本では「狸が老婆にケガさせて逃げた」とされた。

それが不満の太宰は設定を変えて、新たな物語を紡ぎ出す。兎のやり方が男らしくないのは当然だということがわかったという。

この兎は男じゃないんだ。それは、たしかだ。この兎は十六歳の処女だ。いまだ何も、色気は無いが、しかし、美人だ。そうして、人間のうちで最も残酷なのは、えてして、このような女性である。

一方の狸は37歳の醜男、という設定。いい年したおじさんが、未成年の若い娘に恋をして、手ひどくあしらわれる物語に置き換えた。狸のいまわの際に曰く、「惚れたが悪いか」。

古来、世界中の文芸の主題は、一にここにかかっていると言っても過言ではない。太宰はわが身を振り返りつつ、「好色の戒め」を諭している、という読み方もできる。わたしも「太宰の穴」に入り込んでみるか。

編集長 柴田忠男

image bu: Shutterstock.com

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