遠隔操作により標的を爆撃する米軍の無人戦闘用ドローンが倫理的観点から度々問題となっていますが、遂に人間がまったく関与することなく敵方を死に至らしめる「殺人AI兵器」が実戦投入されたようです。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』ではジャーナリストの内田誠さんが、リビア内戦に殺人AI兵器が投入された疑いを伝える東京新聞の記事内容を紹介するとともに、同新聞がこれまでに同様の兵器を取り上げた記事を検証。そこから読み取れる日本政府の曖昧な姿勢への懸念と、殺人AI兵器の「LAWS」なるネーミングに対する強い違和感を記しています。
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殺人AI兵器、実戦投入か?
きょうは《東京》から。
自律型致死兵器についての記事が掲載されています。リビアの内戦は軍事企業にとって絶好の「実験場」となっているようで、恐ろしい“実験”が日々行われ、多くの血が流されている可能性があります。というところで、「自律型致死兵器」と「AI兵器」で検索すると、《東京》のデータベースから8件ヒットしました。
【フォーカス・イン】
まずは今朝の《東京》3面の記事の見出しと【セブンNEWS】第7項目の再掲から。
殺人AI兵器 初の実戦投入か
昨年のリビア内戦で国連報告書
指令なしで敵兵士ら認識
自動追尾して目標を攻撃
人工知能で敵を自動的に攻撃する「殺人ロボット兵器」が昨年の春、内戦下のリビアで実戦に投入されたとみられることが国連安保理の専門家パネルの報告書で判明。トルコの軍事企業が開発した小型無人機で、兵士らを自動的に追尾、攻撃した模様。
以下、記事概要の補足。使われたのはトルコ製の小型無人機で、軍事企業STMが開発した自律型の攻撃ドローン「Kargu-2」。4つの回転翼で飛び、爆弾を搭載する。死傷者が出たかなどは不明だという。「自律型致死兵器システム(LAWS)」と呼ばれるもので、実戦投入は世界発。
報告書にはリビア北部で墜落した無人機の残骸の写真が掲載されており、パネルは回収した残骸を分析した模様だという。
リビア内戦は、トルコが後押しする暫定政権とロシアが支援するリビア国民軍(LNA)が戦っているが、殺人ドローンは暫定政権側の作戦で使われ、国民軍の兵士や車両を追尾し、攻撃したと見られている。リビアは各勢力が無人機などを持ち込み、「新型兵器の実験場」のようになっているという。
記事は「倫理面からの批判は必至で、国際的な規制を求める声が強まりそうだ」としている。
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【サーチ&リサーチ】
* 2016年の記事から。既に米軍は遠隔操縦の無人機による攻撃を多用していた。
2016年7月21日付
タイトル「米ロボット爆殺 アトムを泣かせるな」の社説。
米ダラス市警がロボットを無線操縦して狙撃犯を爆殺した例と米軍が多用する無人機攻撃を念頭に、次の記述。
「『殺人ロボット』をめぐっては、国連の特定通常兵器使用禁止制限条約・自律型致死兵器システムに関する第3回非公式専門家会議がこの4月、ジュネーブで開かれ、議論している。今は米軍が目立つが、独裁政権やテロ組織が手に入れ、利用する可能性もある。産業用ロボット大国の日本は、アトムが象徴する理想を説き、早期の規制導入を訴える必要がある」と訴えている。
* 2019年、創価学会や公明党が「自律型AI兵器の規制」を提言したり、禁止条約を求めたりしている。
* 国際的には「特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)」の枠組みで議論が行われており、「日本もAIを活用した防衛装備品を研究し、無人警戒機や偵察機の配備は予定しているが、政府は作業文書で、規制対象を『致死性があり、有意な人間の関与がない自律型兵器』と明記。安倍晋三首相は『わが国は開発しない』と表明している」という。
* 2019年9月、《東京》は再び社説でこの問題を取り上げる。
2019年8月26日付社説
タイトル「殺人ロボット 企業も『ノー』と言おう」のなか、次の記述。
「自動で標的を識別して攻撃の判断をする兵器を自律型致死兵器システム(LAWS)と呼ぶ。一昨年秋から規制のために、国連の政府専門家会合が開かれている。22日に『攻撃の判断に人間が関与すること』を柱にした指針がまとまった。LAWSは現在、米国や中国、ロシア、イスラエルなどが競って開発している。従来の先端兵器は主に軍人が操作したが、LAWSは人の関与がなく、AIがすべてを行う。本紙はロボット先進国の日本が禁止を働き掛けるよう主張していた。政府が今年『完全自律型の致死性を有する兵器を開発しない』と宣言したことは評価したい」とするが、「指針ができたことで、倫理的な歯止め効果は期待できるが、法的拘束力のある条約化を目指してほしい」とも。
* 2019年9月14日未明、サウジアラビアの石油施設に対してドローン18機と巡航ミサイル7機による攻撃が行われる。
2019年9月20日付
記事は、軍事ドローンの源流をベトナム戦末期に米軍が使用したスマート爆弾(カメラ付きの誘導弾)に求めている。技術が進化したのは湾岸戦争で、ピンポイント爆撃が盛んに喧伝されると共に無人機が登場し、米中枢同時テロの後、アフガン戦争やイラク戦争、シリア内戦で軍事ドローンが多用されてきたとする。「誤爆」も多いドローンだが、今やドローン兵器を所有する国は70数カ国に拡散している。
国際的な批判は高まっており、アムネスティーは「米国の無人攻撃は国際法違反の疑いがある」と指摘。
2020年1月5日付
タイトル「AI兵器規制へ国際会議 20年度 外務省 論議主導狙う」の記事中、以下の記述。
「防衛省は、各国の無人機開発がLAWSに発展する可能性を防衛白書で紹介している。日本は、人間が全く介在しない殺傷兵器は開発しないとするが、人為的ミス減少や省力化の観点からAI兵器には意義があるとしている」と。
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●uttiiの眼
日本政府の曖昧な姿勢が気に掛かる。
こうした兵器の残虐性については敢えて指摘するまでもないが。そもそも「LAWS」というネーミングには醜い野心が覗く。他国の誰かを「犯罪者」と「認定」し、勝手に「死刑」と決め、そして本人に宣告さえせずにドローンで殺害する。国境を越えて効力を発揮しないはずの「法」、その執行を可能にするもの。まさしく、これこそが「LAWS」つまり法であると言いたいのだろう。ここには下品な思い上がりが見えている。
ただ、こうした問題が集中的に表れているのは米国の遠隔操縦無人攻撃機による作戦であって、「自律型」である必要はない。「自律型」が作戦上必要になる条件はそれほど広くないような気がする。リビアでどんな使われ方をしたのか、おそらくは長く公開されないと思われるが、開発を禁止する上でも、重要な情報だということができるだろう。
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