かつては「十年一昔」などと言われましたが、今や1年前ですら遥か昔のように感じられるほど、あらゆる物事が猛スピードで進化する時代と言っても過言ではありません。しかもそれらすべてが想像を大きく超える変化ばかりのようも思えてしまえます。そんな状況について、「人類は全員、異世界に転移したのでは」と見るのは、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。坂口さんは自身のメルマガ『j-fashion journal』で今回、そう判断せざるを得ない理由を列挙するとともに、世界の行く末の予測を試みています。
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異世界転移の時代か?
1.人類は異世界に転移したのか?
アニメには、異世界転移ものというジャンルがある。主人公が突然異世界に転移してしまう物語だ。
アニメの異世界は、ある程度共通した設定がある。魔法が使えたり、経験値を獲得すると新たな能力を獲得したり。また、中世風の町並みに自然豊かな森、エルフやドワーフ、獣人や魔人が登場するなど。したがって、主人公は転移しても、すぐに異世界に転移したことに気がつく。
もし、景色は今まで通りの町並みのままで、そこにいるのも普通の人達だとしたら、異世界だと気がつくだろうか。
現在、我々が住む地球は、異世界ではないはずなのに、不思議なことが次々と起きる。
世界中の政治、経済が揺らぎだし、コロナ禍はワクチン接種が進んでも感染は収まらない。世界のあちこちでクーデターや紛争が起き、指導者が死亡したり、代している。
中国は、日本と友好関係だったはずなのに、現在は牙を剥いている。中国国内のWEBには、「日本が台湾を軍事的に支援するなら、無条件降伏するまで核兵器を使い続ける」という宣言が掲載されているらしい。
そんな中国の鄭州市は、突然のダムの放水により水没。地下鉄やトンネルでは、数えきれないほどの死者が出た。噂では、地下の軍事基地も水没したとか。中国も異世界になりつつある。
アメリカも昨年の大統領選挙以来、異世界に突入しているように感じる。
そして、日本は、コロナ感染者が過去最高を記録しそうな状況の中で、オリンピックを開催した。開会式で入場した選手は全員マスクを着用。これがフィクションではないのだから、異世界としか言いようがない。
人類は全員、異世界に転移したのではないか。
2.世界は分断し、分解する
現在の状況は、先行き不透明とか、将来が見通せないという状況を超えている。気がついたら、世界が変わっていたのだ。
どこに異次元ポケットが開くか分からないし、突然、魔法使いが登場するかもしれない。
最も空間がひずんでいるのは、やはり中国とアメリカではないか。世界第1位、第2位の経済大国として、共に投資や貿易を重ね、共存共栄の関係だったが、トランプ前大統領就任以来、徐々に対立の度合いを深め、現在では完全に敵対するまでになっている。更に習近平総書記の態度も豹変した。まるで毛沢東の生まれ変わりのように、中国を力で支配し、世界を共産主義で染め上げる野心を隠さない。
米中が敵対することで、世界は分断した。同時に、アメリカも共和党と民主党で分断している。イギリスはEUから離脱し、EUという組織も揺らいでいるようだ。
この状況は何だろう。世界は一つであるというグローバリズムが突如求心力をなくし、むしろ、遠心力が作用している。まとまっていたものが分断され、さらに分解が進む。
この遠心力に例外はないのかもしれない。そうであるならば、日本も分断するだろうし、中国も分断するだろう。あらゆる国で分断か始まり、分断が分断を呼んで、分解が始まるのだ。
異世界はまとまらない。分解が進んでいく世界だ。
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3.世界をまとめる求心力の消失
なぜ、世界は求心力を失ったのか。それには、求心力とは何か、を考えなくてはならない。
例えば、国の求心力とは何か。通常、人は生れた国が祖国となる。国には法律があり、国民には権利と義務がある。
人は生れた瞬間、親子の関係が生じる。子供が生れる前提として結婚制度があり、他人が家族となる。
親は子供が自立するまで養育し、教育する。
学校という教育機関も国としての求心力を高める存在だ。各国が独自の歴史、文化、芸術、政治等を教育し、国民としての自覚を高めていく。
学校を卒業すると、一般的には就職し、会社で仕事を行う。もちろん、起業して仕事を始めることもある。
仕事をして、報酬を得て、生活を維持する。そして、納税することで、国や自治体が運営される。
これらをまとめると、ルールとお金、そして関係性に集約されるのでないか。
ルールは、組織ごとに設定される。国には国のルールがあり、会社には会社のルールがある。しかし、自由に国籍を他国に移したり、組織に縛られない働き方が増えるにつれ、ルールに縛られない人が増えてくる。集団で仕事や生活をするのではなく、個別に生活を選ぶ。もちろん、集団としての関係性は希薄になる。
地理や時間に縛られない生活ができるようになったのは、インターネットなどのデジタルテクノロジーのお蔭だ。
ネット上で仕事をして、ネット上で遊ぶ。個人の生活がネットに依存するにつれ、国や組織のルールより、ネットのルールが重要になった。
仮想通貨、ネットバンキング、ネット上の投資や取引が増えるにつれ、現金を使うこともなくなり、お金はデジタルデータとして認識される。お金は情報なのだ。
また、テレビや新聞というメディアは国や地域に依存している。そして、政治も国や地域に依存している。それらが、インターネットにより揺らいでくる。
情報収集の手段がSNSに移ることで、国やマスコミが情報をコントロールできなくなる。そして、多くの情報がリークされ、秘密が暴かれるようになると、これまでの政治手法は使えなくなる。もちろん、政党という組織も揺らいでいる。
4.AIによるマネー取引
関係性もルールもお金も、全てはネットでデジタルデータとして扱われるようになる。ネットの世界では、国家よりもビッグテックのルールが優先される。また、ビッグテックは、世界中の人々から、少額の費用を満遍なく徴収する仕組みを作り上げた。これまでは、国家しかできなかった徴税以上の仕組みを、民間企業のビッグテックが構築してしまったのだ。当然、国家以上の財力を持つようにな
るだろう。
個人は直接ネットとつながり、リアルな世界である国家、地域、家族、学校、会社等の組織のルールと関係性が希薄になっていった。
当然、リアルな世界の組織は弱体化していく。例えば、ある日突然、組織のスキャンダルが世間に知られることになり、一気に信用を失ってしまう。あるいは、磐石に見えた組織力が脆弱になり、組織が崩壊してしまう。
リアルマネーが姿を消し、デジタルマネー普及することも、国家や銀行という権威の弱体化につながっていく。
更に、税金による歳入より、国債による貨幣流通が増える。そして、物販やサービスに使われるリアルなお金より、投資に回るお金が増える。更に、法律を守らないブラックなマネーがマネーロンダリングされ、一般の金融市場に流入すれば、リアルなビジネスを圧迫していくごだろう。
最早、お金を稼ぐ最も効率の良い方法は、お金そのものの売買である。そして、金融市場の売買にAIが投入され、秒以下の単位で取引されるようになっている。
ここで扱われるお金は、我々の生活で使っているお金と同じものなのだろうか。仕事をして、支払われる報酬の数億倍の金額をAIが一瞬で稼ぎだす世界。こうなると、デジタルテクノロジーがお金を支配するようになるだろう。最終的には、一人の勝者が全てのお金を支配するかもしれない。
そんな時代になったら、人はどんなに努力してもお金を稼ぐことはできなくなる。それでは、社会というゲームは成立しない。
現在の状況は、世界そのものが成立するかしないかの瀬戸際である。全ての要素は不確実であり、何が起きるか分からない。もし、中国の不良債権が一気に表面化すれば、世界の金融は突然崩壊するかもしれない。
そうなったら、グローバリズムを捨てて、アナログに戻って、国単位で生きていくのだろうか。トランプ前大統領は、こちらの道を選択していたと思う。
それとも、デジタルを基本にした新しい世界秩序を作り、一つの世界国家による新体制を創造するのだろうか。ダボス会議は、こちらの道を提唱しているようだ。
どちらの選択肢を選んでも、異世界である。我々はこれからその異世界を経験するのか。それとも、既に異世界に転移しているのだろうか。
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編集後記「締めの都々逸」
「異世界良いとこ 一度はおいで 全てデータで 出来ている」
最近、仕事のアプローチが変わってきたなと思っています。全てが統計とかデータとかプログラムに集約されているようなんです。我々の世代が行ってきた仕事とは根本的に変わっている。アプローチも異なるし、発想も異なる。というか、既に言語も異なっているのではないか。
我々の使っていた言語は通じないんですね。通じないから、どちらが正しいとか間違っているという問題ではありません。言語が通じる人同士、会社同士が仕事をしているのであって、そこに異言語は入れないのです。
私は異世界と感じるのは、異言語に反応しているのかもしれませんね。ある日突然、世界中の人々が新しい言語で話しだす。国家が認定したわけでもないし、法律が変わったわけでもない。でも、ネット上ではその言語しか使えないんです。分断ですね。言語も分断しています。言語という概念は重要ですね。そんな気がします。(坂口昌章)
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