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早くも失望。岸田首相、話は「聞く」が行動の伴う「効く」には至らぬ限界

岸田首相が折に触れ挙げるのが、「人の話をしっかり聞く」という自身の特技。しかし一国の宰相の「聞く力」に求められるハードルは、当然ながら高いものであることは言うまでもありません。事実、早くもいくつかの失望が決定的になったと指摘するのは、要支援者への学びの場を提供する「みんなの大学校」運営者の引地達也さん。引地さんは今回、自身のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』でその「2つの失望」を取り上げるとともに、リーダーの聞く力に対して絶対評価上の完璧が求められる理由を記しています。

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「話を聞く」首相への完璧な期待と失望

精神疾患のある方への支援は「話を聴く」ことが基本である。

疾患により日常や他人、社会とずれてしまっている状況を正しく知るために、その人の精神から発した「現実」に近づいて、その方の内発的な苦しみや悲しみ、憤りを自分事として捉えて、適切な対応をしていくためには、まず「聴く」ことから始まる。

私も日々、「聴く」ことからしか仕事が始まらないのだと自覚して、面談や電話、最近ではメールやラインでそれぞれの胸の内を「聴く」(文字の場合は読む)ことで、何をすればよいかを考え、適切な行動を考え抜く連続である。

だから、今回就任した岸田文雄首相が自分の特技を「聞くこと」だと強調したことは、政治家としては珍しいフレーズだと感心しながらも、心配のほうが先立ってしまった。

聞く、という行為は簡単なことではない。

それは深い哲学への道の一歩だから、結果的に政治家の「聞く」の価値を下げてしまい、またもやの政治不信につながる、という懸念である。

自分の「売り」だと言わんばかりの、「聞くこと」宣言は、多方面で期待という反応を引き起こしている。

首相が何の仕事もしていない時の「期待しかない」ハネムーン時期のメディアによるご祝儀報道は、岸田首相の地元の声として誠実な人柄と聞き役である人物像を重ね合わせて、肯定的な見解を増幅させ、これも期待を助長している格好。

旧来との違いが強調されるのは、これまでの政治が聴かなかった証左であり、特に安倍晋三、菅義偉と続いた政権が聞かなかったからこそ、この言葉が生きてきている。

自分を押し出そうとした戦略は、それまでとの相対評価として吉と出たかもしれないが、絶対評価の「聴く」として評価されるのは、おそらく道のりは遠いだろう。

悲観的になる前にすでにいくつかの聞いたことによる事例が出ている。

まずは金融所得課税。格差是正に向けた方策のひとつとして発言したものが、株価の下落を招いた模様で、周囲から聞いた結果からか、軌道修正を余儀なくされた。

株価の変化はその原因を断定することは難しいが、当然ながら成長と分配の好循環をうたう中で、株価は重要な成長指標。

それが、分配を優先する格好となる税制の見直しは、即座に片一方を刺激する。

所信表明演説の中で、「成長か分配かではなく、成長も分配も」と啖呵を切ってしまったが、聞くことを重要視している人の発言としてそれも心配である。

安倍元首相の場合、演説は理念の通達であり、完全なモノローグの独演会に野党が野次を飛ばすセレモニーだった。

今回は、聞くことを大切にしている人だから、モノローグからダイアローグにシフト転換だと周囲も期待し、聞かなければならないと思ってみたら、割と強い理念を語ってくる。

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そして、野党側から見れば、いくつかの失望も決定的になった。

核兵器禁止条約と森友学園の土地買収をめぐる財務省の文書をめぐり近畿財務局の職員が自殺した問題への言及である。

この2つへのスタンスはこれまでの自民党政権と変わりはない。

違うのは、核兵器禁止条約については、被爆地広島選出の国会議員として「核のない世界をつくるという目標」は共有していることを強調し、財務省職員の自殺問題では職員の妻からの手紙を受け止めた、という発言だろう。

聴くことは出来たのは前進かもしれないが、行動を伴う「効く」には至っていない。

ここが政権と当事者の乖離である。

「きく」という行為は、音は判別し、その真意を理解し、正しく解釈することまでを人々は期待しているから、やはり政治家の聞くは何とか真意を理解することまでは出来ていても、その発話者が望む解釈を正しく捉えて、具体的な行動に移せるかは難しい。

支援者の私もそのプロセスを誤謬なしに行うように慎重にもなる。

まして政治家は多くのコンセンサスや、プロセス上のいくつもの検問を通らなければ、具体的な行動にはつながらないから、難問だ。

1つ1つの問題は当事者にとっては死活問題ばかりだから、リーダーの「聞く」は絶対評価上の完璧が求められる。

それは少々気の毒な立場なのかもしれないと思いながらも、やはり完璧を期待してしまう。

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image by : 首相官邸

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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