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現役小学校教師が警告。場に「最適化」する子どもを放っておくことの危険性

人間は、自分の周りの環境に「最適化」するように作られていることをご存じでしょうか。それは大人だけでなく、子どもだって同じこと。今回の無料メルマガ『「二十代で身につけたい!」教育観と仕事術』では著者で現役小学校教諭の松尾英明さんが、 子供たちがおこなう「最適化」に関する見解と、周りの環境が毒か薬か見極めることの重要性について紹介しています。

「最適化」する子どもたちの危険性

PCを長く使っていると、重くなってくる。そうならないように、PCは自身に最適化の作業を行う。不要なものを削除したり、よく使うものは起動しやすい場にもってきたりする。ユーザーの都合のいいように自動的に変化してくれる訳である。

実は人間に限らず、生命全般も同じである。環境に最適化するようにできている。周りの環境に合った行動をとるようになり、場合によってはその場に合う形状に進化する。シロクマの毛が白くなった(正確には透明だが)のもそのせいである。そうしないと、生き延びることができないからである。自分の命を守るために必要な動きをするよう、予めプログラムされている。

種としてだけでなく、個体としても最適化を行う。個別の最適化である。

保護犬や保護猫はわかりやすい。小さな頃から虐待を受けていたり捨てられたりなど、人間にひどい扱いを受けていたとする。自分を守るためにすべきこと、即ち最適化は、人間を寄せ付けないことである。当然、優しい気持ちで接してくる人間にも、警戒心を容易には解かない。唸る、吠える、噛みつく、引っ掻くという攻撃態勢を取り続ける。慣れた後であっても、実際には危なくないものにも、必要以上の警戒心をもち続ける。

これは言うなれば、心のコップがひっくり返った状態である。これをコップが上向きになるよう周りは苦心するのだが、一朝一夕でうまくいくような簡単なことではない。

人間も同じである。幼少期にひどい虐待を受けてきた子どもも、それぞれに最適化を行う。

ある子どもは、人に会えば誰に対しても野犬のように警戒し、恐れから威圧的な態度や噛みつくような言動をとる。ある子どもは、常に先に相手を攻撃することで、自分が傷つけられないようにする。ある子どもは心を閉ざして、何も見えない、聞こえないふりをする。それらが彼や彼女らにとって、自分の身を守るために最も最適化された術だからである。

また違う形の最適化もある。攻撃されないよう、相手に忖度し、迎合するよう言動を変化させるという最適化である。先の攻撃型を硬派な最適化とすれば、こちらは軟派な最適化といえる。例えば「失敗すると叱られる」という経験を多く積んだ子どもであれば、常に「お利口」であろうとする。そうすれば身を守れる。子どもに限らず、大人社会でもよくある話である。

各集団の中でも最適化は行われる。集団の中に強い者がいて、自分があまり出しゃばるとやられるようであれば、大人しくふるまう。兄弟で自分の意見が通る立場にあれば強く出るし、「お兄(姉)ちゃんなんだから」と親に言われるようであれば、我慢せざるを得ない。集団の中で最適なペルソナを付け替えて被っているだけであり、本人の性格がどうこうとは一概に言えない。

小さな頃から、人に会うたびに微笑みかけられ、抱かれ、愛され大切にされていれば、心のコップは上向きになる。人に会えば喜んで近づき、人からの愛を受け取って溜めていけるようになる。この世を安全な場、良い人たちの住む場と見るようになる。

ただ単純に、どちらがいい悪いとはいえない。あくまでも最適化である。

警戒心をもっていれば、愛を受け取れない代わりに、危険な目に遭うことは少なくなる。無警戒の場合、悪意をもった人間に簡単に捕まえられてしまうリスクが生じる。

オープンに人を信用していれば、あらゆるメリットを享受できるが、騙されるリスクは高まる。閉じている場合、せっかくの愛情やいいオファーも断ることになり、チャンスを逃す一方で、リスクは抱えないで済む。

同じ人でも、場によって行動は変わる。賢明な人なら、危険な場であればオープンにせずに警戒するし、安全と認識すれば心を開く。分別ない人であれば、全てを安全と妄信し受け入れてしまい、あるいは全てを危険物とみなし、攻撃する。

毒か薬かの見分けは必要である。

人は環境に最適化する。だから学級が荒れていれば、閉じるようになる。良い場であれば、開く。それが集団で生き延びる上での最適化である。

子どもは場に最適化する。だから子ども自身に見える問題を直接どうこうするだけでは足りない。その集団(学校・職場・家庭)内が安全で開ける場であるかどうかは決定的に重要である。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 松尾英明 【発行周期】 2日に1回ずつ発行します。

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