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渋沢栄一が提唱した「合本主義」こそ新しい資本主義が目指す姿。子孫が語る“Made With Japan”という考え方

現在放送中のNHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公・渋沢栄一の子孫で、世界の金融の舞台で活躍する渋澤健さんが、岸田内閣が立ち上げた「新しい資本主義実現会議」の有識者メンバーに任命されました。時代に即した資本主義が必要となってきますが、渋澤さんはどんな考え方が重要だと説くのでしょうか。

プロフィール:渋澤 健(しぶさわ・けん)
国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年にコモンズ(株)を設立し、2008年にコモンズ投信会長に着任。日本の資本主義の父・渋沢栄一5代目子孫。

「新しい資本主義」には新しい企業価値の定義が必要

謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

今般、岸田内閣が立ち上げた「新しい資本主義実現会議」の有識者メンバーに任命され、10月下旬に初会合が開かれました。1998年の日本の金融危機の混乱をきっかけに、政策当局者に資本市場からの声をお届けしたいという想いで毎月「シブサワ・レター」を書き続けて参りましたので、今回このように総理大臣および閣僚に直接考えをお伝えできる機会を頂戴したことは大変感慨深く、光栄に感じております。

有識者メンバーの構成は15名。経済団体や労働組合の重鎮だけではなく、ジェンダー、年齢、専門分野の側面でダイバーシティが多彩多様です。なかなか良いラインアップと好感する声が周囲から聞こえてきます。それぞれの立場や視点が異なることから、「新しい資本主義」のあるべき姿の議論が活発に行われることを期待しています。

現在は日本の近代史上、重要な時代の節目だと私は考えています。人口動態の激変により、今までの日本社会が体験したことのない規模感とスピード感で世代交代が始まっているのです。今までの成功体験を作ってきた世代から、これからの新しい成功体験をつくらなければならない世代へのバトンタッチです。この重要なタイミングで、「新しい資本主義」を実現する会議を設置された岸田総理のご決断に敬意を表します。

なぜ、「新しい資本主義」が必要ななのか。それは、これから日本の新しい時代において人的資本の向上による社会変革(トランスフォーメーション)のためです。私たちは、「新しい資本主義」によって豊かな新しい時代を実現すべきです。

今までの日本の資本主義により、人口動態がピラミッド型の昭和時代はMade In Japan、つまり、先進国の大量消費を満たす大量生産で日本は大成功しました。ところが、人口動態がひょうたん型に変異した平成時代には日本は米国などからのバッシングに対応するためにMade By Japan(貴方の国でつくります)という合理的なモデルにチェンジさせました。

しかし、それからおよそ30年を経て、日本は世界から素通りされるパッシングに陥りました。バッシングからパッシングへ。これが平成日本の総括かもしれません。少なくとも、それまで築いた成功体験から、異なる時代環境で新たな成功体験へと進化するために必要なトランジション(変わり目)の時代が平成だったのでしょう。

令和という新しい時代環境において、日本は新しい成功体験をつくらなければなりません。私が期待しているのがMade With Japanです。大企業だけではなく、中小企業やスタートアップ企業も含め、日本全国からの様々な組み合わせによって、世界の多くの国の大勢の人々の暮らしを豊かにすることができる、持続可能な社会を支えることができるはずです。私の「新しい資本主義」への期待は、このMade With Japanという令和日本の新しい成功体験を実現させることです。

「成長と分配の好循環」によって、国内社会の格差が是正され、豊かな生活から取り残されない状態を実現させることは国の重要政策です。ただ、この好循環の視点を国内に留めることなく、日本が世界の成長と分配の好循環を産む「ストック」となる視点も不可欠です。

金銭的資本、技術的資本、そして、人的資本を活用するWithで世界と共に持続可能な社会、ウェルビーイングな生活を共創する日本が、少子高齢化社会の新しい資本主義の実現、世界へ新しい成功体験のお手本となるべきです。

目指すべきは、単なる量の倍増という成長ではなく、生活の質の倍増という成長でありましょう。「新しい資本主義」が求めている成果がGDP成長に留まるようでは、旧来の資本主義と本質的に変わることありません。意見が分かれるところでしょうが、GDP倍増が昭和のようにウェルビーイング倍増につながることはないという考えが広まっている時代です。

一方で、「新しい資本主義」を都合よく解釈して、現状維持に甘んずることは断じて回避しなければなりません。「三方よし」は素晴らしい概念ですが、それが、日本人だけに通じるものに留めてはならず、世界との共通言語化が必要です。「論語と算盤」も同様です。

渋沢栄一が提唱した日本の資本主義の原点である「合本主義」とは、一滴一滴の滴が大河になる。つまり、民間力集合による変革です。大正5年(1916)に出版された渋沢栄一の講演集の「論語と算盤」は、当時の日本社会への憂いそのものでもあり、栄一は民間力再編による変革を求めていました。

つまり、日本の資本主義の原点は変革、トランスフォーメーションだったのです。この「CapX」で、日本は新しい時代を導きました。「新しい資本主義実現」では当然ながらDX(デジタル・トランスフォーメーション)が議論されると思います。しかしながら、そもそも「新しい資本主義実現」とは、CapXによる社会変革を導くことが本質でありましょう。

そういう意味では、新しい資本主義には新しい企業価値の定義が必要です。カーボン・ゼロ社会の実現に邁進している企業、人権を尊び搾取をサプライチェーンから排除する企業、地球の生態を守り、世界の人々の健康な暮らしを支える企業は、明らかに価値があります。ただ、この価値は必ずしも財務的な測定だけでは可視化できていない場合もあります。

企業の非財務的な情報開示に留まることなく、社会的インパクトや環境的インパクトの意図を可視化する測定(メジャーメント)の検討・実践が今後、展開されることを期待しています。

□ ■ 付録:「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □

『論語と算盤』経営塾オンライン 

「論語と算盤」真正の利殖法

私が常に希望する所は、
物を進めたい、増したいという慾望というものは、
常に人間の心に持たねばならぬ。
しかしてその慾望は、道理によって活動するようにしたい。
この道理というのは、仁義徳、相並んで行く道理である。

仁義を掲げていた栄一は決して「成長」を否定していたわけではありません。相手を踏み倒しても、搾取しても、自分の利益を増やしたいということは道理ではないということです。構わず増殖する、がん細胞には意識がありません。しかし、人間には良識があります。Takeだけではなく、Giveという良心です。

「論語と算盤」防貧の第一要義

ただし、それも人に徒食悠遊させよというのではない。
なるべく直接保護を避けて、防貧の方法を講じたい。

いわゆる「バラマキ」に栄一は否定的でした。全国民にベーシックインカムを与えることより、一人ひとりが自分の可能性を発揮して自己実現できる社会を築くことが防貧へとつながると栄一が現在に蘇ったら提唱するのではないでしょうか。栄一の時代の資本主義でも、現在の「新しい資本主義」でも、雇用(=賃金)の創造による価値の創造という重要な役割は変わらないでしょう。

謹白

image by: 公益財団法人渋沢栄一記念財団 - Home | Facebook

渋澤 健(しぶさわ・けん)

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