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オミクロン株の出現で「コロナ鎖国」が“できてしまう”日本の深刻度

新型コロナの変異種「オミクロン株」の出現を受け、厳しい出入国制限に踏み切った日本政府。この決断に対しては「憲法違反」という声も上がっていますが、経済面における大きな問題も露呈したようです。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、コロナ鎖国とも言うべき事実上の国境閉鎖が「できてしまっている」という事実がどれほど深刻かを解説。さらにそれを可能としている「日本の多国籍企業の究極の空洞化」こそが、この国の経済を一段と貧しくしているとの見方を記しています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2021年12月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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国境閉じても問題ない、それって実は深刻な問題では?

オミクロン株の出現に関しては、現時点ではまだ「感染力大で、なおかつ強毒性」という可能性はゼロではありません。一方で、国内での発見は本稿の時点では3例に過ぎないなど、今のところは「最悪のケースでも、準備の時間は稼げる」という状態です。

ですから、現時点では国境を事実上閉鎖していることには「短期的な合理性」はあるわけです。ですが、仮に現時点でWHOや各国の専門家が言い始めている、

「オミクロンは確かに感染力は強い」
「だが弱毒性で、インフルの症状に酷似」
「死亡例はゼロ」
「COVID感染末期の現象として、デルタを駆逐してくれるかも」

という「超楽観シナリオ」が本当だということになったら、速やかに国境をオープンすべきだと思います。

そうなれば、この間のパンデミック期間に「鬼滅の刃」ブーム+「あつ森」ブーム+「こんまり」ブーム+「ラーメン」ブームで、「はち切れそう」になっている「とにかく日本に行きたい」という世界中の旅行客が日本に殺到することでしょう。

その場合に、日本の側では「マスクを外すのが怖い」とか「外国人が怖い」といった心理的な抵抗があるために、トラブルが起きるのではないか、そんな懸念もあるかもしれません。

ですが、私はこの点については心配していません。日本という国は、昔から国境の開け閉めについては非常にフレキシブルな国だからです。

ということで、非常に変わり身が早いのが特徴です。ですから、仮にパンデミックが収束したら、一気に訪日外国人4,000万、いや6,000万といった状態になるでしょう。今、京都では高級ホテルの建設ラッシュですが、みんなそうした事態を想定しての投資です。

問題は別のところにあります。

それはこの間の国境について事実上「閉鎖できてしまっている」という問題です。

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自動車にしても、エレクトロニクスの関連にしても、あるいは食品加工などにしても、日本の多くの企業はすでに自国のマーケットが縮小する中で、日本だけを相手にしては生きていけない時代に突入しています。

自動車産業などは、産業トータルにおける日本ブランドの「国内販売比率」は15%前後まで落ちており、反対に85%は国外、つまり輸出か現地生産になっています。他の多くの産業もそうです。大雑把な統計としては、日本ブランドの企業が作り出す経済の「国内:国外」の比率は「1:3」だという数字もあるぐらいです。

そうなると、本来であれば毎日、毎週、多くの社員や取引先が、日本と世界各国を往復する必要が出てきます。例えば、重要な商談がある、技術指導をしなくてはならない、品質管理のためにはチェックが必要、市場調査も必要、販社や問屋との関係維持には幹部の訪問が必要…とにかく巨大なカネが動く以上は、人の行き来は必要なはずです。

ところが、今回はその人の流れを止めて「鎖国」ができてしまっているのです。さすが多国籍企業は進んでいて、何でもリモート会議で仕事が進む…という要素も確かにあるかもしれません。ですが、それだけでは「人の行き来が停止できている」ということの説明にはなりません。一部、ヘビーな出張の必要な人は、韓国の仁川を拠点にして動いていたという話も聞きますが、それも一部でしょう。

そうではないのです。問題は、もう出張者が行かなくても現地のオペレーションは回るようになっているということです。

つまり、基幹の技術も、製造のノウハウも、さらに言えば研究開発も、マーケティングも、全て現地のオペレーションで回るようになっているのです。とにかく総合的な空洞化が起きているのです。

普通の空洞化というのは、製造だけを人件費の低い国に移転する、とか、雇用確保にうるさい市場では現地生産に切り替えて憎まれないようにする、ついでに為替リスクも減らす、というようなものです。こうした空洞化であれば、世界中の企業がやっています。

ですが、日本企業の場合は最先端の研究開発や、経営判断を伴う部分まで、どんどん外に出して、現地のオペレーションを独立させています。その結果として、多くの企業の場合には、どんなに世界で稼いでも「日本のGDPへの寄与は部分的」ということになっています。

自動車の場合が典型で、北米で研究開発し、北米でデザインし、大きな部品は中国で組み立て、最終組み立ては北米、マーケティングも北米、ついでに儲かったカネは北米で再投資、という流れになっています。その場合に日本のGDPに寄与するのは、中国にネジとかを輸出している裾野の部品産業と、日本本社には多少のロイヤリティが入るだけです。

あとは、円安で株価が膨張することや、日本国内での「円建て業績」が「史上空前」になったりするだけで、日本のGDPには少ししか貢献しません。

仮に、事業や技術のノウハウが日本国内にあるのなら、どんなに現地生産していても、日本からの人的支援は必要です。ですから、どんなにパンデミックでも、事実上の国境閉鎖を行えば、大きなブーイングが出るし、日本経済のことを考えると、ここまで強い規制はできないハズです。ですが、それができてしまうということは、要するに日本の多国籍企業は究極の空洞化をしてしまっていることの証拠だと言えます。

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日本が貧しくなったとか、30年間給料が上がらないといった論調が増えている昨今、その元凶は、小泉=竹中の「派遣業解禁」にあるという声は、今でも絶えません。ですが、非正規化というのは結果であって、原因ではないのです。日本が貧しくなったのは、付加価値を生む仕事が国外に流出したからです。その上で日本に残っているのは、紙とハンコと日本語に縛られた非効率な事務作業だけで、だからこそ多国籍企業はそこをコストダウンの対象にしているのです。非正規化は、その結果でありコストダウンの手段に過ぎません。

竹中平蔵氏に責任があるとしたら、本来はゼロ化して高付加価値の「英語+ペーパーレス+電子化」すべき日本の事務仕事を、「非正規化でコストダウン」してしまったために「非生産的なまま残して」しまったことにあります。つまり、非正規化と円安が改革を「しないで済む」ようにしたというわけです。アベノミクスの円安の副作用もここにあります。

反対に、カネを生む部分はどんどん流出してしまって、国外でビジネスが回っている、だから、鎖国しても多国籍企業はビクともしないというわけです。この後、仮に国境を再オープンできれば、外国人観光客は必ず戻ってきます。ですが、多国籍企業の高付加価値な部分は戻ってきません。2年に及ぼうとしているパンデミックの期間に、静かにこの空洞化は進行しているわけで、それが日本経済を更に一段貧しくしているのだと考えられます。

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image by: Kazzure Gonzalez / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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