2021年12月19日、香港の民主主義は完全に息の根を止められてしまったようです。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、同日行われた香港立法会選挙で、民主派が史上初のゼロ議席となり親中派が圧勝したというニュースを紹介。さらに西側諸国の批判をよそに香港を手中に収めた中国が近く台湾に触手を伸ばすのは確実とし、今国会での対中非難決議を見送った日本に対しても注意を呼びかけています。
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プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
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【中国】「愛国者治港」の次は「愛国者治台」「愛国者治日」を狙う習近平
● 香港立法会選、親中派「圧勝」 民主派初のゼロ 投票率過去最低
12月19日、香港立法会選挙が行われ、90議席中、89議席が親中派議員で占められ、非親中派は、業界別の間接選挙枠で当選した1人を除いて、すべて落選しました。また、今年5月に中国主導で変更された選挙制度により、候補者は一定数の親中派の推薦を得て、さらには中国や中国共産党に忠誠を誓う「愛国者」としての審査を通過せねばならなくなったことで、過去の立法会議で3~4割の議席を確保してきた民主派は1人も立候補できず、結局、議会において民主派は史上初のゼロ議席となりました。
主要な民主派政党は、選挙制度の変更により立候補が事実上不可能になったため、候補者を擁立せず、その結果、有権者の投票率も2016年の前回選挙から半減し、過去最低の30.2%となりました。
中国政府はイギリスとの間で、香港の中国返還後、50年間は香港人による高度な香港自治を認めることを約束しました。この中国における香港人による高度な自治は、「一国二制度」(一国両制)という言葉でよく知られていますが、香港では「港人治港」(香港人による香港統治)という言葉もよく使われます。
ところが昨年には、中国共産党は香港国家安全維持法の施行を決定し、香港人の自治権を実質的に剥奪しました。
そして今回の選挙では、「港人治港」から「愛国者治港」(愛国者による香港統治)へと体制が正式に変わったと言われています。先述したように中国共産党に従う「愛国者」しか立候補できなくなったからです。
まさに、中国に支配され中国化が進むと、いかに民主主義が破壊されるのかということを、まざまざと見せつけられた選挙でした。
もちろん、西側諸国は即座にこの選挙と中国を批判しました。イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの外相らは、「政治的反対派が完全に排除された」と中国を批判し、また、G7とEUも香港議会選への懸念を表明しました。これに中国政府は「内政干渉だ」「香港は中国の香港だ」と反発・反論しています。
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そればかりか、中国は中国主導の改革で香港は「秩序が回復した」とまで自画自賛しています。そして香港立法会選挙の翌日20日、中国政府は香港の民主主義に関する白書を発表し、「香港の民主主義システムを設計し、創造し、保護し、前進させているのは中国共産党である」と主張したのです。
● 「愛国者」による香港議会選、親中派が圧勝 「秩序を回復」と中国
この香港の立法会選挙の結果は、中国による台湾統一がどのような結果をもたらすかということを物語っています。もし台湾が中国に支配されれば、現在の民進党は非合法化され、候補者が立候補できなくなることは目に見えています。
台湾でも「台人治台」(台湾人による台湾統治)という言葉がありますが、この香港の結果を受けて、中国共産党および習近平は「愛国者治台」の実現を狙っているということが台湾で論じられるようになっています。
もちろん中国共産党は台湾の法律にコミットできません。だから親中・媚中の国民党に接近し、民進党に対する誹謗中傷のフェイクニュースを流し、再び国民党政権を樹立したうえで民進党を非合法化し、台湾の政界を親中派一色に染めて、実質的に中国の支配下に置こうというわけです。
このように、自由な主義主張を抑え込んで、立候補の自由も奪い、ひたすら中国共産党に都合のいい人物ばかりが選ばれるという茶番を、中国は「中国式民主」と呼んでいるわけですが、先週のメルマガも述べたように、「鹿を指して馬となす」ようなものです。
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あるいは、天を指して海と言っているようなものです。こうした屁理屈によって、名前と実態がかけ離れることが、中国では非常に多いのです。また、そのことが政治の混乱や戦乱の世を招く一因となってきました。
かつて衛の国の王が孔子に対して、「先生をこの国に招いて政治を行うなら、先生は何を第一にしますか」と問うたところ、「必ず物の名前を正すことから始めます」(必ずや名を正さん)と述べました。
物の名前が正しくなければ、その定義も混乱してしまいます。名称と分限が一致していないと、君臣や上下の秩序が保てません。名称と分限の一致を求める思想を「名分論」ともいいます。そしてこの名称と分限の不一致こそが、混乱の大きな原因とされたのです。
だからいくら「中国式民主主義」と名付けたところで、実質は独裁専制主義なので、名と実が合っていません。孔子の時代から政治混乱の理由であった名と実の不一致を、現在も中国は行っているというわけです。
こうした矛盾は、今回の香港立法会選挙でも見られました。今回の投票率は前述したように、30.2%で過去最低でした。あまりに低い投票率は、投票結果の正当性を疑わせます。そのため香港政府は選挙当日、MTRやバスなどの公共交通機関をすべて無料にし、投票率を上げようとしました。
ところが一方で、武装警察を投票所に常駐させ、町のパトロールを強化することで、民主派の有権者が投票したり、中国政府に都合の悪い主張を演説したりしないように、規制を強化したのです。一方で投票を促しながら、一方で投票を阻止しているわけです。台湾の自由時報は、そのことを強く批判しています。
● 香港立法會選舉:港府左手打右手 立法會選舉投票率創新低不意外
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こうして香港の民主主義は実質的に「死」んでしまいました。情報や思想が統制されたことで、当然ながら経済も統制経済の色が濃くなっていくはずです。それを察知してか、香港の株式市場もどんどん値を下げています。
アジアの金融センターであった香港は、ますますその地位を低下させていくことになるでしょう。そうなれば、中国と西側諸国の分離(デカップリング)が一層進むことになります。
そして次は台湾問題が中国と西側諸国の分岐点になることは間違いありません。欧米諸国が現在の台湾を支持しているのは、これが次の大きな争点になるからです。
一方、日本では中国を念頭にした人権問題での非難決議が今国会でも見送られることになりました。自民党の茂木敏充幹事長が「内容はいいがタイミングの問題だ」として、決議採択を認めない考えを示したからです。
五輪を前に、そして香港選挙を受けて、非難決議を行うにはちょうどいいタイミングだと思うのですが、もしかすると、茂木幹事長にとって「自分が幹事長でいるあいだは、タイミングが悪い」ということなのかもしれません。
いずれにせよ、日本もいつのまにか「(中国の)愛国者治日」とならないように、政治家に対しても目を光らせておく必要があります。
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