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2022年も注目の「NFT」。業界人が決して口にしない根本的な疑念

デジタルアートが超高額で取引され、2021年に急激に注目度が上がった「NFT」(非代替性トークン)。日本でも昨年数社がサービスを開始し、2022年はメルカリや楽天も加わる予定で、ますます注目されそうです。そんな「NFT」に対し、以前から疑念の声を上げているのは、「Windows95を設計した日本人」として知られる世界的エンジニアの中島聡さんです。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、中島さんが抱く3つの根本的疑念を裏付け補完する資料から、注目点を抜き出し詳しく解説。NFTを成立させる「ブロックチェーンの安心安全」すらも幻想かもしれないと指摘しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

※本記事はメルマガ『週刊 Life is beautiful』2021年12月28日号より一部抜粋したものです。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

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エンジニアから見たNFT

NFTについては、このメルマガでも何度か触れて来ました。実際にソフトウェア・エンジニアとして、アプリケーションを作った結果、NFTに対する根本的な疑念がいくつか見えてきました。代表的なものは、次の3つです。

私には、それらの疑念が、あまりNFT界隈で話題になっていないのが不思議でなりませんでした。私の理解が間違っているという可能性もありますが、NFT業界の人たちは、自分たちに不利になる発言はしない(ポジショントークをしている)という可能性も十分にあります。

そこで、私と同じようなエンジニアが、ポジション・バイアスを抜きにして純粋にNFTを評価している資料を探していたところ出会ったのが、「An Engineer’s Hype-Free Observations on Web3(and its Possibilities)」というドキュメントです。

シアトルからハワイ島に遊びに来たゴルフ友達の奥さんが、たまたまPioneer Square LabsというシアトルのVC(ベンチャーキャピタリスト)のCFOで、彼女が、私に是非ともこのドキュメントを読んでフィードバックが欲しいと頼んで来たのです。

内容はとても濃いので、興味のある方には全文を読んでいただきたいところですが、私なりに注目に値すると感じた点を列挙します。

何よりも貴重だと思う情報は、ブロックチェーンがデータを格納するのは、とても非効率で高価だという点です。筆者によると、Ethereum上に256-bitの整数を格納するのに、約$7.50かかるそうです。

まさにこれが、私が「トランザクションコストが高すぎて使い物にならない」と感じた理由であり、市場にある「自称Decentralized App」のほとんどが、ブロックチェーンにはURLやIDだけを格納し、実際のデータは通常のデータベースに格納している理由なのです。

また、不動産などの取引の記録にブロックチェーンを使うというアイデアはありますが、実際の取引の段階では、今と同様に「信頼出来る第三者」が必須であり、その部分に関しては、ブロックチェーンは何も解決してくれない、という指摘もとても鋭いと感じました。

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筆者は、「何らかの事象が起こったことを、その当事者が世の中に知らせたいと思っており、かつ、世界がその事を知る必要があるケース以外では、ブロックチェーンは不要」と指摘します。

つまり、「世の中に一つしかなく、かつ、多くの人が価値を認めるデジタル・アートの所有者が移動したこと」を記録する媒体としてはブロックチェーンは良い媒体で、ブロックチェーンの最初のキラーアプリケーションとして、デジタル・アートのNFTが立ち上がったのは必然とも言えるのです。

逆に、いわゆる「ユーティリティ・トークン」と呼ばれる、NFTを「コンサートのチケット」や「貸部屋の鍵」として使うアプローチはメリットのわりにコストが高すぎることを示します。つまり、「ユーティリティ・トークンは(もっと効率の良い)通常のデータベースの上に構築すべき」なのです。

さらに筆者は、現在のスマートコントラクトは未熟で欠点だらけであり、かつ、一度スタートしたブロックチェーンは、大量の電力を消費しながら未来永劫動き続けるという前提が根本的に間違っている、と指摘します。

ブロックチェーン支持者は、ブロックチェーン上に記録されたデータは、通常のデータベース上のデータと違って、データベースの所有者の経営方針次第で消去されたり変更される可能性がない分、民主的で安全と主張しますが、それは、そのブロックチェーンが未来永劫、コミュニティによって維持されることを前提としている主張でしかないのです。

ブロックチェーンの技術やその周りのアプリケーションが進化するにつれ、今もてはやされているBitcoinやEthereumの魅力が大幅に薄れ、マイニングをする人たちが大幅に減った結果、残った一部のマイナーたちに好き勝手にされてしまう未来も十分に考えられることを忘れてはいけないのです。

つまり「ブロックチェーンは民主的に運営されているから安心・安全」という考え方は、根本的に間違っていると筆者は指摘しているのです。

この記事には、これ以外にも、ブロックチェーンやNFTに関わるさまざまな言説を、エンジニアの視点から、的確に否定したり解説してくれています。これまで私が読んだブロックチェーン関連の文章の中では、もっとも「信頼出来る」文章だと言えます。

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image by: Shutterstock.com

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