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悲観論から超楽観論まで。オミクロン株が握るバイデン政権の命運

アメリカではオミクロン株の新規感染者数が爆発的に増加していて、NY州では連日5万人超というデータが発表されています。米国の教育現場を揺るがし、政治経済にも大きく影響しそうなオミクロン株の現状と今後はどう見られているのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では、米国在住の作家・冷泉彰彦さんが、伝えられている悲観論から超楽観論までを提示。ウクライナでロシアと対峙し演出するバイデン政権の支持率低迷対策も、結局はオミクロン次第と、先行き不透明な2022年を占います。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年1月4日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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先行きは不透明、オミクロンの動向とアメリカの政治経済

新しい年が明けましたが、アメリカの現状は再び「コロナの闇」に包まれた格好です。2021年の1年かかって、反対派と闘って必死になってワクチンを打ち、デルタと死闘を繰り広げて、なんとか一息というところで、オミクロンが殺到してきたからです。

新年早々、深刻なお話をするのは気が引けるのですが、本稿の時点ではどうにもこうにも動きが取れなくなってきています。NY(州)では連日の新規陽性者が5万人台ですし、私の住むニュージャージーでは、それこそ年末年始もぶっ通しでPCRや抗原検査をやっていますが、人口900万で毎日2万の新規陽性者が出ています。その過半数はオミクロンのようです。

本稿の時点でもニュージャージー州だけで、入院4715、ICU644という数字ですから、非常に厳しいと言えます。ですが、2020年の状況とは社会的な風潮が大きく異なっています。まずもって、「ロックダウン」を行うということには、全米のある種の合意として「ノー」というのが前提になっています。ですから、オミクロンが深刻化する中で、株価は大きくは下がっていません。年末年始の旅行者もパンデミック前に近い水準に戻っています。

つまりアメリカの場合、経済は「ほぼノーマル」で突き進む構えです。一部のテック関連では、「在宅からオフィスに戻すのを遅らせる」動きがありますが、これは従業員側からの強い圧力が続いているためで、経営陣としては「オミクロンを口実に」妥協に応じたということで、そもそも景気には関係はほとんどありません。

一方で、影響大なのが教育です。多くの大学は、一般の願書締め切り(レギュラー選考)がほぼ完了(一部、1/15、2/1もあり)しており、選考作業が佳境に入っています。同時に3月の合否発表、5月の入学意思表明の締切を見据えて、受験生は「進学先を真剣に考えている」状況でもあります。

ですから、ここで「クラスター発生」という「スキャンダル」を出すと、受験生と保護者の信用を失うことになりかねません。そこで、各大学は猛烈にナーバスになっており、例えばプリンストン大学などの場合は、「帰郷中の学生が再入寮」する日を先延ばしして様子を見ています。

公立学校の場合は多少様子が違っており、丸2年近いパンデミック対応に保護者は疲弊しており、子どもの教育への影響も心配だということで、とにかく「学校を閉めてオンラインにする」ことには強い抵抗があります。これに対して、教職員組合は「ブレイクスルー感染(ワクチン接種しても感染)」が懸念されること、オミクロンの場合は「子どもに感染しやすく、無症状で感染拡大を媒介」することから、非常に慎重な姿勢を取っています。

そんな中で、就任したばかりのNYのエリック・アダムス市長は、「変異株が出るたびに学校を閉めていてはキリがない」などと、民主党右派的な「世論迎合」を強めており、これに対して教職員組合は「当面18日までのオンライン授業」実施を求める仮処分を裁判所に訴え、両者はガチンコ対決になっています。

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現状はそんなところですが、全体的な感染状況について、オミクロンに関しては、アメリカの報道としては
1)南アの当初報告、英国の大量データ分析を受けて、オミクロンの症状は「ワクチン接種者」に関しては重症化率は低い。「ブースター(3回目)」接種者の場合はもっと低い。
2)子供が感染するというが、無症状感染拡大の懸念はあるものの、重症化は極めて少ない。
3)ただし、確かに感染率は高い。デルタの4倍というのも実感として近いものがある。
というのはほぼ合意事項となっています。では今後ですが、これにはいろいろな見方があります。

4)ワクチン未接種者については、オミクロンでも重症化する。オリジナルやアルファの罹患者で抗体があっても、ワクチンゼロだと危険。従って、当面は相当な対策を続けないと死者が増加する危険はある。
というのが悲観論スタンスですが、一方で、

5)ワクチン+ブースターに加えて、オミクロンの罹患者(多数の無症状を含む)が巨大な抗体の集団を作り上げて、最終的には南アで見られたような集団免疫状態に達する。その時期は早ければ1月末。
などという楽観論もあります。更には、 6)オミクロンはデルタを完全に置き換え、しかも罹患者の抗体はデルタにも効くので、3月までには「コロナ全体が収束」。
などという超楽観論もあります。そして、このシナリオも、完全には排除できないようです。

政局に関して言えば、現状の延長ですと、あと10ヶ月後に迫った2022年11月の中間選挙については、バイデン政権の民主党は非常に不利だと言われています。

具体的には、「コロナ疲れの不満」「インフレへの不満」のダブルで、世論が現政権にソッポを向いているからです。バイデン政権の支持率(例によって、リアル・クリア・ポリティクスによる主要な世論調査の平均値)ですが、
支持………42.9%
不支持……53.5%
ということで、完全に危険水域に入っています。これでは選挙は戦えないというのが常識的な見方です。ですから、バイデンは「1月6日の議事堂乱入1周年」を契機に「トランプ派を徹底的に断罪」したり、ウクライナを舞台に「ロシアとホットな睨み合い」をしたり苦心の政局運営をしているわけです。

また、現職有利、そして有色人種の投票には不利な選挙制度と区割りが、各州、特に保守州で進行しており、テクニカルにも共和党は有利なポジションにあるという見方もされています。

ですが、仮に、オミクロンが、悪魔ではなく救世主であり、「COVID19」パンデミックの幕引きをするために登場した存在であるならば、現在の経済社会の状況が一変する可能性はゼロではありません。インフレも厄介ですが、仮に完全に収束というムードになれば、労働力不足は相当程度に解消される可能性もあります。

そんなわけで、数字的には現在のアメリカは「最悪期の再来」ということになります。ですが、この先がどうなるかについては、超悲観論だけのカードを持っているのでは、全ての可能性をカバーするには足りないように思えます。

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image by:BiksuTong / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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