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土井たか子さんも納得した現代日本で徴兵制を導入する本当の意義

韓国の軍事政権から逃れ、東京女子大教授として20年ほど日本で生活。帰国後は金大中政権のブレーンとして日本文化開放に大きく関わった池明観さんが1月1日97歳で亡くなられました。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、軍事アナリストの小川和久さんが、池さんと2度目にお会いした際、「徴兵制」に関する意見で一致したエピソードを披露。強制や軍事色など負のイメージがある徴兵制に実は、現代的な国家に欠かせない重要な役割があるとの見解で、同席していた土井たか子さんをして「もっと早く知っておきたかった」と言わしめたと振り返っています。

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池明観さんと土井たか子さんと徴兵制

新年早々ですが、一人の賢人の訃報で思い出した重要な事柄についてお話ししたいと思います。

「朝鮮思想史の専門家で宗教哲学者の東京女子大元教授、池明観(チミョングァン)さんが1日、韓国京畿道南楊州市の病院で死去した。97歳だった。韓国の軍事政権の弾圧から逃れて滞在した日本で、民主化運動をひそかに支援。帰国後は金大中(キムデジュン)政権の対日政策のブレーンとして、日本の大衆文化開放を進める中心的役割を担った。

 

池さんは現在の北朝鮮に生まれ、ソウル大大学院で宗教哲学を専攻。1960年代に軍事政権を批判して大学を追われ、弾圧を逃れて東大研究生として72年に来日した。日本では韓国の民主化運動をひそかに支援。東京女子大教授を務めて20年間滞在し、93年に帰国した。

 

韓国では翰林大学日本学研究所長などを歴任。98年に金大中政権が発足すると、韓日文化交流政策諮問委員会委員長として日本文化開放の責任者となった。これが金氏による98年の訪日と日本文化開放の表明につながった。日韓歴史共同研究委員会の韓国側座長も務めた。

 

2003年には、1970~80年代の軍事政権による弾圧を告発し、岩波書店の月刊誌「世界」に73年から88年にかけて約15年間連載された「韓国からの通信」の筆者「T・K生」であると名乗り出た」(1月1日付朝日新聞)

ジャーナリストや研究者を中心に「T・K生」の名は知る人ぞ知るところでした。しかし、私が池明観先生とお会いしたのは2006年6月30日と2007年1月9日の2回だけです。

慶應義塾大学経済学部の松村高夫先生と髙草木光一先生が主催した連続講義『東アジア』で、衆議院議長などを歴任した土井たか子さんの憲法の特別講義に「相方」として招かれ、そのあとに目黒のレストランで食事したのが1回目、その連続講義を単行本にまとめて岩波書店から出版する直前、2006年10月9日に行われた北朝鮮による核実験を受けた座談会に出席し、同じ目黒のレストランで意見交換したのが2回目でした。2回とも、土井さん、池明観先生、松村、髙草木の両先生、土井さんの秘書の五島昌子さん、それに私という顔ぶれでした。

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2回目の食事会で話題が徴兵制に及んだときのことです。私は、次のような持論を述べました。

「日本では徴兵制に関する理解が遅れており、新兵を古参兵が「しごき」の名のもとに虐待するような戦前の帝国陸海軍の在り方しか頭に浮かばないが、戦後のドイツが国民皆兵の考え方のもとに徴兵制を導入し、軍が独走や暴走をしないためにシビリアン・コントロールの重要な要素として位置づけていることを学び、徴兵制=悪という考え方を整理しなければ、軍事組織を健全な形で維持することはできない」

すると、池明観先生が即座に反応し、「その通りです」と私の考えを肯定したのです。韓国の民主化運動のリーダーとして、軍事独裁政権とも闘ってきた池明観先生の言葉だけに、土井さんはじめ、同席したみんなが息を呑んで聞き入りました。

そのときの池明観先生の話を要約すると、1980年に死者154人、負傷者3028人を出した光州事件の時でさえ、当時の全斗煥政権はあれ以上には軍を前面に出すことはできなかった。それは、第一線の兵士には徴兵されてきた若者が多く含まれ、同胞を武力で鎮圧しようとするほどに上層部への反発が強まり、場合によっては反乱という事態も懸念されたからだというのです。

私も、徴兵制によって軍の内部に一般市民の目と意識が常に存在することで、軍の一部が独走しようとしても露見しやすく、それがシビリアン・コントロールを働かせているのだと、池明観先生に続けました。

帰途、目黒駅までの道すがら、難しそうな顔で腕組みした土井さんは、私に言いました。
「もっと早く知っておきたかった」。

社会党委員長時代、全盛期の土井さんが同じ話を聞き、「なるほど」と思ったとしたら、自民党政権との話し合いのもとに、日本の安全保障政策が大きく変わったのではないかと思わずにはいられませんでした。池明観先生も土井さんも、表向きの印象とは違い、どこまでもリアリストだったのです。(小川和久)

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image by: Akira Kamikura, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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