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SAMSUNGがここまで世界的な企業になった裏にある“営業の秘密”とは

今や世界的企業となった三星(サムスン)。日本でもその成長を語った書籍は数多くありますが、グローバル営業の最前線の記録を記した本はあまり見つからないそうです。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴30年を超える日本人著者が、東亜日報に掲載された記事をもとに、三星電子グローバル営業で32年間勤めた男について語っています。

現問現答。三星(サムスン)の隠れた潜在力

サムスン(三星)といえば今や世界的な企業となった。その三星電子グローバル営業で32年間最前線を歩き回った尹聖赫(ユン・ソンヒョク、60)という人間がいる。

米国で働いた16年間は、史上初めて三星TVがソニーを抜き世界トップについたし、三星フォンがアイフォーンの牙城をくぐって販売トップの座についた。その中心にいたのがこの尹聖赫氏だ。

退職の4年前からは、三星アフリカ総括兼南アフリカ共和国法人長を務め、低迷していた業績を見違えるほどに引き上げた。そしてこのすべての「興奮と挑戦」の時間を一冊の本にまとめた。2021年12月に『危機なのか?サムスンせよ!』(ポンピッ書院刊)を刊行。どうしてこのようなタイトルをつけたのか。

「三星がグローバル超一流企業に成長した過程を書いた本は多いが、海外営業現場の最前線の記録はなかなか見つかりませんでした。私に多くの教えを与えてくれた先輩たちの話もあまり知られていないようです。彼らが危機をどのように突破したのか、三星、ひいては韓国というブランドを輝かせるためにどのように献身し、その過程で後輩たちをどのようにうまくリードしたのかを文字にして残したかったのです」

「外で知られた三星の姿の他に、見えないところで尽力した数々の努力に照明を当ててみたかったんです。タイトルを直接的に付けるとすれば、『世界を開拓した三星の営業秘密』といった感じになるでしょうか」。

その秘密とは何だろうか。

「米国で協力したIBMの同僚からこんな話を聞いたことがあります。あなたの会社は問題が起きた時、誰が間違ったのか一糸乱れずに対策作りに集中していたと。それこそ三星営業の力です。三星営業には代々受け継がれてきた現場経営の哲学があります。『現問現答』、つまり現場に問題があって、現場に答えがあるということです。実際に組織がうまくいくためには、上下が車輪を回すようにうまく連結されて動かなければなりません。特に組織では、何かおかしいときに『ウォーニング』(警告)する役割が重要です。営業がその役割をします。ただ、上でそのウォーニングに気づいてキャッチする人がいてこそ、歯車が回るわけですけど」

2020年末に帰国し、夫人の勤務する学校のある世宗市(セジョンシ)に定着した。11年間の役員履歴に終止符を打ち、2年間の「顧問」という肩書きを得た。

まず、帰国翌日(正確には2週間の自家隔離を終えた翌日)、自宅近くのボクシングジムに登録した。南アフリカ共和国の歌手(人気ラッパー)との約束を守るためだ。尹聖赫氏を親のように慕っている彼が、いっしょにボクシングをやろうと言ってきたもの。

「スパーリングをしながらボクシングと営業の似ている点を考える。お腹の肉が落ち体が軽くなったのはおまけだ」

そして、帰国の飛行機で構想した自分の32年間を総括する本を書き始めた。当時、三星アフリカ販売網は万年赤字から脱して初めて利益を出しながら、「自分たちにもできる」という自信を芽生えさせていた。

南アフリカ共和国を発つ日。ホテルまで訪ねてきた従業員が涙を流し、「あなたが心から愛したアフリカを、私たちもやり遂げられるという事実を、本に書いてほしい」と言ってきた。お酒を飲みながら「私が言ったエピソードを必ず入れてほしい」というアドバイスもあった。

1年間、彼の日常は朝起きてご飯を炊いてコーヒーを淹れて奥さんを起こすことから始まる。妻が学校に出勤すると、ボクシングジムまでの1.6キロを走る。ジムについて1時間半、縄跳びやシャドーボクシング、スパーリングをしながら、汗を流して帰ってきて、簡単に昼食を取った後本を書くことに夢中だった。

「本を書いたのはとても素晴らしいことだと思います。これまでの記憶をすべて吐き出して、それを人々が理解しやすいようにつづる方法を悩み、読みやすいように文章を整え…。やってみたら時間が解決してくれることがたくさんあります。心が整理されるのです。そうしながら未来の輪郭もつかめました。最初は500ページほどの分量を書き、5回も書き直しました。最初の原稿と比べると、文章の書き方も上手になりましたね」

「先輩たちは『お前は筆力がすごい。いつこんなものを準備したんだ』と言ってくれました。私をただ引退した会社員としか思っていなかったボクシングジムの方々からも、挨拶をたくさんいただきました」

「三星に対するイメージが180度変わった。三星といったら『甲』のイメージしかなかったけど、こんなに一生懸命に『乙』のように働いたのかと。」

フェイスブックに、ハングルと英語で本が発売されるというニュースを掲載したところ、米国や南アフリカ共和国のかつての仲間らが、計200件あまりの書き込みを残してくれた。

特に南アフリカ共和国からは英語に翻訳してほしいという要請が殺到した。印税収入は全額、ネルソン・マンデラ財団に寄付することにした。

「これまで妻と2人で時間を過ごしたことはありません。とても幸せです。20年間海外生活で疎遠だった友達とも会うようになりました。ぎこちなくても20、30年ぶりに友人に連絡してみると、各界各層で重要な仕事をした友人がとても多いんです」 原子力発電や水素発電、投資資産を運用する友人までいる。これらの点を結びつけると、何かになるかもしれない…」

今後は、これまで4年間の情熱を注ぎ込んだ南アフリカ共和国に貢献する方法を考えている。「韓国には南アフリカ共和国について知っている人がほとんどいません。

特にアフリカにネットワークを持った人は珍しいです」政府高官や実務家らと親交を深めていく考えだと語った。

「南アフリカの深刻な電力難を解決しようと考えています。韓国には原子力発電の技術があります。小型モジュール原発(SMR)も可能かと思われます。南ア共で働きながら身につけたノウハウですが、私にはそこの政府を説得して、仕事ができるようにする道が見えます。さらに南ア共はクリーン水素を作る天恵の環境を備えています。韓国が必要とする新再生可能エネルギーを安く得ることができます。南アフリカの環境的競争力と韓国の原子力、水素技術力を組み合わせて、両国が『ウィン・ウィン』する道を模索しようという構想です。私の残りの人生をかけるだけの価値あることだと思います」

「2018年、マンデラ氏生誕100周年を記念してキリマンジャロ登山をしたことを思い出します。高山病のため、多くの仲間が途中であきらめたのですが、最後まで残った人たちもいました。最高峰に登るためには、大勢が一緒に行かなければならないこと、登るのが大変でも下山は早いことを実感しました」

誰もが頂上に登ればいつかは下らなければならないということも。

「ウフルピーク(5,895m)に登った時、『俺たちはやり遂げた』という喜びでいっぱいでした。時が来て下りました。降りてくる足取りは軽く、やってみる価値のある戦いに勝って家に帰る将軍のような感じでした。私は今また別の山を眺めています。構想したばかりなのに、考えただけでも胸がわくわくします」

「まだアイデア段階」としながらも、一日も早く南アフリカに帰って事業を推進する日を夢見ている。南アフリカを背景に繰り広げられる「尹聖赫」の人生第二幕、その心臓の鼓動音が伝わってきそうだ(東亜日報の載った記事を参照させていただいた)。

image by: Valeriya Zankovych / Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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