MAG2 NEWS MENU

中ロ共同声明に書かれた日本への強い「警告」。中国は“五輪閉幕後”どう動くか?

もはやロシアによる軍事侵攻が避けられないかのように伝えられているウクライナ情勢ですが、その展開を強く望んでいるのはアメリカのみと見て間違いないようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を上梓している拓殖大学教授の富坂聰さんが、ウクライナ問題を巡る各国の思惑を解説。さらに当問題の大本を分析した上で、中ロ首脳会談の内容と終了後に出された共同声明から読み取れる習近平政権の「覚悟」と、今後の東アジアの動きを考察しています。

中国問題を中心に精力的な取材活動を行う富坂聰さんのメルマガ詳細はコチラ

 

中国は北京五輪「閉幕後」にどう動くか?日本、韓国、北朝鮮、ロシア、そしてアメリカに見せる態度と行動

北京冬季オリンピックの閉幕後の国際情勢はどうなるのか。最初に触れなければならないのはウクライナ危機の行方だろう。焦点は、2014年のロシアによるウクライナ侵攻が再現されるのか否か、だ。

興味深いのは2014年当時と比べ、今回、ウクライナ問題に対する中国の態度が大きく変化している点だ。

前回の危機では、その翌年の1月21日、李克強総理がスイスのダボスでウクライナのポロシェンコ大統領と会見し、「中国は常にウクライナの国家主権、独立、領土保全を尊重する」と明確に打ち出している。自国と関係の薄い問題からは距離を置こうとする中国にしては珍しく、対米協調の顕著なサインとも考えられた。

しかし今回は、習近平国家主席がウクライナのゼレンスキー大統領と国交樹立30周年を祝う電報を交換(1月4日)をしたものの、中身はそっけなかった。

具体的には「国交樹立から30年、中国とウクライナの関係は常に健全で安定した発展の基調を保ってきた。双方は政治的相互信頼を深め、各分野の協力で実り豊かな成果を挙げ、人的・文化的交流を日増しに緊密化し、両国民の幸福を増進してきた。新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以降、中国とウクライナは互いに助け合い、手を携えて対策を講じて、両国民の厚い友情をはっきりと示した」と、ありきたりのメッセージを贈っただけで「国家主権、独立、領土保全の尊重」の文字もなかった。

単純な比較は避けるべきだが、オバマ大統領の不満を受けて踏み込んだ李克強・ポロシェンコ会談から明らかにトーンダウンだ。

米中関係の冷え込みと中ロ接近を如実に表した変化だが、極めつけは北京冬季オリンピック開会式に参加しプーチン大統領との間で交わされた契約の数々だ。中国は今後10年間でおよそ1億トンの原油をロシアから輸入し、中ロの貿易額を2024年までに2,000億ドルに拡大(2021年は1,400億ドル)するための「ロードマップ」までを互いに承認し合ったという。

ウクライナ問題ではいまロシアに侵攻を踏みとどまらせるためにアメリカ・EUは厳しい経済制裁をちらつかせている。その最大のターゲットは独ロを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」だとされる。バイデン大統領は2月、ワシントンを訪問したショルツ独首相との会談のなかで「ロシアがウクライナに侵攻すれば、『ノルドストリーム2』を稼働させない」とまで語っている。

つまり中ロの今回の合意は、その制裁でロシアが受ける痛みを和らげる役割を果たすというメッセージとなっているのだ。

しかし、この見方にも注釈が必要だ。中国はロシアのウクライナ侵攻を望んでもいないし、支持もしていないからだ。

中ロ首脳会談後の共同声明を受け、多くのメディアは「中ロはNATO(北大西洋条約機構)のさらなる拡大に反対」という一文に注目し、ウクライナ情勢をにらんだ「中ロの結束」を書き立てた。しかし声明の内容はロシアとウクライナの対立が中心ではなく、明らかにアメリカの対外政策への反発に置かれている。思い切って要約すれば「国際秩序はアメリカが決めるのではなく国連だ」という考え方を中ロが共有したという内容だ。

そのため中国メディアの報道は概して低調で、何とかウクライナ問題に引き付けようとする西側メディアとは対照的だった。透けて見えるのは中ロ間のウクライナを巡る思惑の違いだ。繰り返しなるが、ロシアのウクライナ侵攻を中国は望んでいない。

 

中国問題を中心に精力的な取材活動を行う富坂聰さんのメルマガ詳細はコチラ

 

では、思惑の違いがありながらもなぜ共同声明が発せられたのか。それはロシアにとっても侵攻はそれほど望ましい選択ではないという見極めが中国側にあったからだ。

ロシアはNATOの東方拡大に強く反発しているものの、その矛先はEU主要国には向けられていない。ロシアの苛立ちは主に、内政の事情からNATO加盟を強引に進めようとするゼレンスキー大統領とウクライナの背後でそれを煽っている──とロシアが考えている──アメリに向けられている。

ゼレンスキーは何らかの方法で懲らしめたいというのがロシアの本音であろう。実際に力に訴えれば火力の差は歴然でウクライナを版図に加えることも難しくはないはずだ。しかしロシアの武力行使は、それこそアメリカが望む理想のシナリオである。

ロシアがウクライナに侵攻すれば、アメリカは経済制裁の大義を得て、ロシアを孤立させ経済的に弱らせることができる。念願の「ノルドストリーム2」を葬り去り、自国産のエネルギーをドイツへと輸出する道も開けるかもしれない。またロシアの関心を西方に縛り付け、中ロ二大国と向き合うというリスクを避けながら、問題を長期化させながらロシアの力をじわじわと削ぐこともできる環境が整うからだ。

だが、このアメリカの思惑は、現状では思うように動いていない。ヨーロッパ伝統国が反発していて、NATO内部でも齟齬が起きているからだ。

そもそもウクライナ問題が火を噴けば、戦場となる欧州大陸の被るダメージは計り知れない。対岸の火事のアメリカとは深刻さが歴然と違っているのだ。

もし東欧が戦場と化せば、EU各国は戦争そのものの負担に加え、数十万人規模の難民の問題とも向き合わざるを得なくなる。ヨーロッパ経済が強い下振れ圧力にさらされ、各国トップは厳しい逆風のなかでの政権運営を余儀なくされる。こんな結果を誰が望むのだろうか。

逆に平和的手段でウクライナ問題が着地すれば、エネルギー供給を巡るロシアとのウインウイン関係は継続され、EU各国はロシアとの貿易で得られるメリットを享受し続けることができる。どちらが賢い選択かは火を見るよりも明らかだ。

だからこそヨーロッパ伝統国はウクライナ支援の姿勢を示しながらも、その実、本気でウクライナためにロシアと戦争するつもりもなければ、その準備をしているとは言い難い状況なのだ。

問題はコメディアン出身のゼレンスキーの政治生命に黄色信号が灯っていて、唯一の突破口として対ロ危機を演出し続けなければならないウクライナの内政と、それを利用しようとするアメリカの思惑だ。

不思議なことだが、これは台湾の蔡英文政権の状況とピタリと重なる。つまりアジアと欧州という違いこそあれ、「尻尾が犬を振り回す」危機がどちらにも存在しているのだ。

話を欧州に戻せば、当然、ゼレンスキーの保身のために利用されるヨーロッパ伝統国は面白くない。象徴的な動きが見えたのは2月8日、同大統領と会談したフランスのマクロン大統領が「ミンスク合意の履行が平和と政治的解決につながる唯一の道だ」と強調したことだ。

ミンスク合意については先週の原稿でも触れた。2015年にロシア、ウクライナと独仏の4カ国で行った停戦合意だ。つまりゼレンスキーにこの合意に「戻れ」と促しているのだが、これも台湾の状況と重なる。

中台の問題がここ数年激化した背景には蔡英文による「九二コンセンサス」(一つの中国を確認したとされる)の一方的な破棄があるからだ。ただし残念なことにアジアでは、マクロン大統領のように平和のために役割を果たそうとする人物はいないことだ。それどころか逆に煽って目先の人気に拘泥する政治家ばかりが目立つ。これはアジアの後進性のためだろうか。

中国問題を中心に精力的な取材活動を行う富坂聰さんのメルマガ詳細はコチラ

 

ソ連崩壊から自分たちの勢力圏がどんどん浸食されてきたと不満を募らせるロシアは、ウクライナのNATO加盟の動きに対し、「これ以上入ってくるのであれば力に訴える」とレッドラインを引いて警告した。

ただし、これはEUへの警告というよりアメリカに向けられたメッセージだった。ロシアの真意は、レットラインと同時にキューバやベネズエラに軍事施設を設けるとアメリカを牽制したことからも明らかだ。ロシアは、ウクライナがNATOに加盟し、そこにアメリカのミサイルを配備することは、我々がキューバやベネズエラからアメリカを狙うのと同じなのだと伝えたのである。

中国が支持するロシアの動きは、まさにこうした点にある。

ロシアがウクライナに侵攻すればEUは厳しい制裁を発動せざるを得ない。そうなればEUとロシアの対立は激化し、中国は踏みたくもない踏み絵を踏まされる。そんなことになるくらいならばいっそのことアメリカと直接対決し、その覚悟を問うロシアの立場を支援することが自国にとってメリットだと判断したのだろう。

つまりオリンピックの閉幕を待つまでもなく中国は、アメリカの従来的なやり方──民主や人権を使いライバル国の周辺の国で親米政権を打ち立ててプレッシャーをかける──に徹底的に抵抗する緩やかな連帯をつくる方向に動い始めているということだ。中ロの共同声明からはそのことが読み取れる。

では、こうした流れのなかで東アジアはどうなってゆくのか。

実は、これも共同声明のなかにヒントがある。注目すべきは「四」に記された「第二次世界大戦勝利による成果と戦後の国際秩序を断固として守り、国際連合の権威と国際的な公正と正義を断固として維持することを双方は決定した」という一文である。これに続いて「第二次世界大戦の悲劇が再現されないために、双方はファシズムや軍国主義、そしてその責任を逃れようとしたり歴史を塗り潰し戦勝国を侮辱する行為を断固非難する」という記述も見つかる。

これが日本を念頭に書かれていることは言を俟たない。そしてこの流れに北朝鮮や韓国が加わる可能性は極めて高いのである。

ヨーロッパのウクライナ問題とアジアの台湾問題は相似形ではあるが、台湾問題に日本が絡めば、台湾海峡問題は歴史問題と切り離せなくなる。その点において両者は大きく違う性格を帯びているのかもしれない。

中国問題を中心に精力的な取材活動を行う富坂聰さんのメルマガ詳細はコチラ

 

image by: Seneline / Shutterstock.com

富坂聰この著者の記事一覧

1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 富坂聰の「目からうろこの中国解説」 』

【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け