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“コロナ鎖国”で稼いだ時間も水の泡。岸田政権が犯した3つの大失敗

先日掲載の「ヤフコメごときに踊らされる日本。『コロナ鎖国』が母国を滅びへと導く」等の記事で、日本政府の水際対策が我が国へもたらすマイナス要因を指摘し続けてきた、米国在住作家の冷泉彰彦さんですが、その危惧は現実のものとなりつつあるようです。冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で今回、もはや無意味とも言える水際対策が、諸外国との人材交流に深刻な影響を与えている事実を紹介。さらにワクチン行政の失敗などにより、水際対策で稼いだ時間をムダにした岸田政権を批判的に記しています。

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※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年2月15日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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水際対策の解除について

再三このメルマガでも申し上げてきましたが、12月末の時点ではオミクロン株の流入に制限をかけるための、いわゆる「水際対策」については一定程度の合理性はあると考えていました。

具体的には、感染力が強く強毒性である可能性が排除できなかったこと、また感染力が非常に強いのであればワクチンの3回目を繰り上げるなどの対策のため、また第5波で問題になった病床と医療従事者の確保に「時間を稼ぐ」ことが必要という説明にも一理あると考えたからです。

ですが、現時点では、まず日本の市中感染は欧州各国や米国よりも、厳しい状態になっています。例えば、私の住むアメリカのニュージャージーでは確かに1月上旬の状況は非常に厳しかったですが、現在では2月14日の新規陽性者が908名まで沈静化しています。最悪期の、例えば1月7日には3万3,000だった数字がです。ちなみに、人口は900万人で東京よりやや少ない程度です。

ですから、今日現在でニュージャージー州のビジネスパーソンが商談などのために、東京に出張するとすると「市中感染の確率が20倍、いや検査数の問題を考慮すると40倍とか50倍」危険である場所に行くことになります。日本の皆さまには失礼な言い方になりますが数字としてはそうです。

ですが、今でも日本への入国に関しては、

1)ビザなし渡航は禁止、短期滞在ビザもほぼ禁止

2)原則は日本パスポートのみ入国可能

3)PCR陰性を要求、ただし日本様式のフォームに医師のサインを要求

4)到着空港でPCR

5)ニュージャージーの場合は3日間公費強制隔離、1月のある時点でもっと数字が多かったという理由でニューヨーク州の場合は今でも6日間公費強制隔離

6)その後、入国後7日間まで自主隔離

7)自主隔離中は公的交通機関禁止、従って国際空港と陸続きでない北海道と沖縄への帰省は帰宅禁止

という縛りが続いています。

この行き来ができないという問題は、例えばですが次のような弊害を生じています。

a)せっかく日本で採用した外国人の人材も帰省したら再入国できない

b)日本での国際会議、見本市は実施不可能

c)婚約者ビザ制度がないので、婚約者の来日不可能

d)外国人社員を海外出張させると再入国が難しい

e)留学生は合格しても入国できない。また一度帰省すると入国できない

まだまだあると思います。そうした規制の結果として、例えばですが

「EV化が加速する中で、日本の部品産業などは最もクリティカルな時期であるのに、商談ができない」

「留学生は日本の大学生なのに日本に入国できない」

という状況が生まれています。商談はまだオンライン等で何とかなると思いますが、問題は留学生です。日本の大学に入った留学生は、その多くが入国できないのでオンライン授業を受けています。ですが、交換留学制度については現時点では停止したままです。

そこで、多くの国や大学から「日本はこのように外国人を国籍で差別して留学生を入国させないというカントリーリスクがある」として、「相互主義に基づいて交換留学制度についてはキャンセルしたい」という意向が来ているようです。

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仮に本当にキャンセルに発展するということになれば、これは大変な問題です。既にUCシステム(カリフォルニア大)、つまりUCLAとかUCバークレーなどを含むカリフォルニア大学の全体が、日本との交換留学制度を停止しようとしているという報道もありましたが、仮にこれが事実であれば、日本の中長期の人材育成にとって大きなダメージになると思います。

とにかく、1月中旬以降の水際対策というのは、実は水際対策ではなく、国内における「コロナ禍で疲弊した心理が排外感情に転じている」という国内の社会心理学的な問題に転じているわけです。つまり、何の根拠もない話です。

百歩譲って、商談や帰省はまだいいとしても、留学生については一旦来日したら数年は日本に根を下ろして勉強する決意をしている人々です。また、7日の隔離が必要ならそれは大学側が責任を持って対処すればできるはずのグループです。

2月末などという呑気なことを言っていないで、「即刻(effective immediately)」規制を解除して、4月の新学期からしっかり留学生を迎えるべきと思います。入国数の上限がどうという議論も含めて、全て見直す勇気を政権は持っていただきたいと考えます。

もう一つは「水際対策」で稼いだ「時間」をどうして使えなかったのかという問題です。2点議論したいと思います。

1つはどうして病床や医療従事者の準備ができなかったのかという問題です。この点については、今度こそ厚労省と医師会が率直に説明すべきと思います。私は彼らを全面的に非難はできないと思います。

「日本の医療従事者の多くは被雇用者であり契約上の兼業は難しい」

「コロナ死は社会的に許容できるがコロナ以外の死亡については医療過誤を指摘されると医師や病院が破滅する」

「免許業務の拡張も、万が一の死亡例等を突いて世論とマスコミが攻撃する可能性を考えると規制緩和はできない。何も自分達の経済的既得権を守りたいからではない」

という事情があるのだと思います。そうした問題を、心を開いてしっかりと世論に説明し、その上で政治が責任を持って現実的な対策をしてゆくようにしなくてはなりません。

問題の所在について知っているはずの共産党までがダンマリというのは、恐らく医療現場の「労働者の権利擁護」を官僚的な杓子定規でやっているからだと思いますが、こちらも反省してしっかり改革に参加してほしいと思います。

2つ目は、ワクチン行政です。ここへ来てかなり厳しい失敗という状況になっています。

「副反応が嫌だから、あるいは副反応が出ても休めないから3回目は躊躇」

「特にモデルナはイメージが気になるし、交差接種も怖いので躊躇」

という反応が出る、しかもオミクロンの感染力への恐怖や後遺症への恐怖を上回るような格好で「躊躇」が出てしまうというのは、完全に失敗です。

勿論、日本の世論の心理の「あや」というのは複雑で、本当に難しいのは分かります。ですが、8月から9月にあれだけ成功したのに、今回は失敗したということについては、厳格な反省と立て直しが必要ではないかと思うのです。

海外から見ていますと、実に多くの商談や留学がストップし、更に結婚できないカップル、家族の死に目に会えないケース、いや家族が死んでも今でも墓参にも法事にも参加できないケースなど、多くの「我慢」が目につきます。

そうした我慢の結果として、岸田政権は「水際対策」で時間を稼ぐことによって、「オミクロンの危険度を見極め」「医療体制を準備し」「必要に応じてワクチン接種の繰上げをする」はずでした。ですが、ほぼこの3つには完全に失敗しているわけです。これでは何のために国際交流や、在外邦人を我慢してきたのかということになります。

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とにかくコロナ政策の立て直しは必須です。少なくとも、厚労官僚や官邸では「ヤフコメ」を見るのを禁止して、世論の揺れ動く感情論に振り回されるのを止める、そこから始める必要がありそうです。

ちなみに、立憲民主党の幹事長である西村智奈美氏は、岸田総理が水際対策の緩和を表明したことに関して、「留学生の入国などについて状況が改善されるということであればいい面はある」と述べたそうです。同党としては正常な神経に属するコメントですが、同党が共産党などと一緒に「完全鎖国でゼロコロナ」などという暴論を掲げていたことへの反省がありません。路線変更をするには、まずは自分達の非を認めてからやらないと説得力はないと思います。

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image by: Khun Ta / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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