一時停戦の取り決めも守らず医療施設にまで攻撃を加えるなど、エスカレートする一方のロシアの蛮行。ますます国際的な孤立を深めるプーチン大統領ですが、もはや戦争終結に至る道は閉ざされてしまったのでしょうか。今回のメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』では著者の大澤先生が、そのカギを握る国としてトルコの存在を指摘。大澤先生はこれまでのアメリカ及びEU諸国とトルコの関係性やこの戦争におけるトルコの重要性について、香港英字紙の記事を引きつつ解説しています。
日本のマスコミが伝えない海外報道の読み解き方とポイントを解説する大学教授・大澤裕さん新創刊メルマガの詳細・ご登録はコチラから
ウクライナ戦争の行方、カギを握るトルコ
ロシアのウクライナ侵攻、原子力発電所への攻撃などありえないことが起こっています。
短期的な戦況の予測は難しいです。
しかしここで一歩引いた視点から、ウクライナ戦争のカギとなる要素を見てみましょう。
それはトルコです。
NATO加盟国でありながらロシアのミサイル導入したりして、アメリカや欧州から不信感を買っていたトルコ。
この国の重要性を強く感じます。
以下、3月4日香港サウスチャイナモーニングポストからの抜粋、編集したものです。
トルコは2017年、アメリカのミサイル防衛システム「パトリオット」の導入を拒否し、ロシアの地対空ミサイルシステムを採用した。
報復として、米国は2019年にトルコをF-35戦闘機の共同生産計画から追い出し、その1年後にはトルコの防衛産業に制裁を課した。
しかしトルコはその空軍基地に米国の核弾頭を保管し続けている。
解説
上記は侵攻以前のトルコの状況です。NATOに加入しており米国の核弾頭で武装しながら、ロシア製のミサイルシステムを導入するなどして欧米を怒らせていたのです。
以下は今回のウクライナ侵攻後の状況です。
トルコのエルドアン大統領はプーチン大統領と密接な関係にあり、西側の経済制裁に加わる事は拒否している。ロシアを欧州評議会から追放する動議への投票も棄権した。
しかしエルドアン大統領は、ロシアのウクライナ侵攻自体は非難している。また先週にウクライナ紛争を戦争と宣言し、ボスポラス海峡とダーダネルス海峡を通過するロシア軍艦を阻止するためにモントルー条約の条項に基づく権限を付与した。
またトルコはウクライナと良好な関係をもっている。昨年、欧米がウクライナの要請を断った後にドローン20機を輸出した。この兵器は、ロシアの戦車や防空システムに対して使われている。
トルコはEUへ加盟の手続きを進めてほしいと再要望した。
解説
トルコはロシアと経済的には協力を続けたいが軍事的には一線を引く立場をとっています。しかし過去にロシアのミサイルを導入したことからも分かるように、どう動くか分かりません。
そして、その軍事力、地政学的な位置から見て、ますます重要性をまします。まさに欧州のセキュリティーのカギを握っているのです。トルコもその事を自覚しているからこそ、EUへの加入を再要望しているのでしょう。
トルコはずっとEUへの加盟申請をしていました。しかし認められず、近年はエルドアン氏の権威主義体制への非難もあり交渉は行き詰まっています。トルコはこのウクライナ危機を利用して、それを進めようとしているのです。
筆者は以前に「トルコは欧州連合には絶対に入れない」と聞いた事があります。
EU加盟できない本当の理由は「イスラム教国家だから」。EUは、あくまでキリスト教を母体とする組織だというのです。軍事同盟であるNATOには入れても、EUへの加入許可は無理だと。
EU加盟は欧州がトルコに使えるカードです。それをどう使うのか?
日本のマスコミが伝えない海外報道の読み解き方とポイントを解説する大学教授・大澤裕さん新創刊メルマガの詳細・ご登録はコチラから
さらに同記事は米国の状況を以下のように記しています。
ウクライナ戦争がきっかけで、ワシントンの外交界では、放蕩者のようなトルコとの防衛関係を再構築するよう求める声が上がっている。
元駐トルコ・イラク米国大使のジェームズ・F・ジェフリー氏は、「トルコはロシアと対峙するNATO前線6カ国の中で圧倒的に強く、ウクライナという緩衝材を失った後は、地政学上の大きな利益をリスクにさらしている」と指摘した。
また「トルコの外交的支援なしに、この危機におけるNATOの成功を想像するのは難しい」とも述べた。
しかし両者の相違を解消する努力はあまり進んでいない。
バイデン政権は、エルドアン大統領の人権問題を厳しく批判し、トルコへの最新鋭のF16戦闘機の売却を拒否している。
バイデン氏はまた、12月に米国が主催した民主主義サミットからトルコの指導者を省いた。米国が同盟国やパートナーを集めてロシアを非難するよう努める中、エルドアン氏との電話会談を行わなかった。
ジェフリー元外交官は、“トルコと密接かつ創造的に調整することは、米国の責任である”と述べている。
解説
今まで、米国とトルコの関係が悪かったのは、ロシアのミサイルの導入を考えれば当然です。しかし、ウクライナ侵攻を見た今、関係修復は、双方にとっての利益です。
ウクライナという緩衝地帯をなくしたトルコにとってもロシアの軍事力に備えたいからです。
欧州がトルコのEUへの加盟を進めるか否か、米国が今まであまりよくないトルコ関係を修復して、完全に西側に組み込めるか否か、バイデン大統領をはじめとする西側諸国の政治家の力量がためされます。
いずれにしてもウクライナ戦争における妥協点のカギを遠くから握っているのはトルコの姿勢です。(この記事はメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』3月6日号の一部抜粋です。この続きをお読みになりたい方はご登録ください。初月無料です)
社会の分断化を推し進める「バランスを欠いた報道」を見極めるために
メルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』 では、在米14年の経験と起業家としての視線、そして大学教授という立場から、世界で起きているさまざまなニュースを多角的な視点で分析。そして各種マスコミによる「印象操作」に惑わされないためのポイントを解説しています。1月中であれば、1月配信分のメルマガ全てが「初月無料」でお読みいただけます。この機会にぜひご登録ください。
月額:¥330(税込)/月
発行日:毎週 日曜日(年末年始を除く)
形式:PC・携帯向け/テキスト・HTML形式
日本のマスコミが伝えない海外報道の読み解き方とポイントを解説する大学教授・大澤裕さん新創刊メルマガの詳細・ご登録はコチラから
人気メルマガ「在米14年&起業家兼大学教
過去に配信されたバックナンバーのご紹介と、まぐまぐスタッフがオススメポイントをいくつかご紹介いたします。バックナンバーは月単位で購入できます。
▼2022年2月
・プーチン大統領の目的は何か(2/27)
・スパイ防止法 中国と日本(2/20)
・武器輸出を増大させる韓国(レッテルの怖さ)(2/13)
・ウクライナ危機の本質、ブタペスト覚書(2/6)
2/22号のテーマは、主要国の中で日本だけが未制定かつ現実を見据えた議論すらなされない「スパイ防止法」。我が国においてはいくらスパイを逮捕しても無駄となる現実や、スパイ容疑で拘束した邦人を獄中死させている中国が、日本国内で常識を超えた情報収集活動を行なっている事実を紹介しています。2/6号では、ウクライナ危機の本質をニューヨークタイムズの記事を引きながら詳細に解説。さらに危機に至った歴史的経緯を報道しない報道機関を批判的に記しています。
▼2022年1月
・自作自演の罠にはまったプーチン(1/30)
・日本に入る中国の電気自動車(1/23)
・カンボジアのインターネットゲートウエイ法(1/16)
・中国からのメッセージ(1/9)
・如何にして海外報道に疑問をもったか?(1/2)
このままでは近い将来、日本の電気自動車市場を中国が席巻するこ
▼2021年12月
・原子力潜水艦を渇望する韓国(12/26)
・「中国式民主主義」に対する各国報道(12/19)
・ビッグデータの覇権を狙う中国(12/12)
・中国政府とオリンピックを揺るがすテニス選手の行方不明(12
日本はおろか米国をもはるかにしのぐ、中国の「ビッグデータ収集
▼2021年11月
・軍事的な結びつきが強まる日本とベトナム(11/28)
・中国政府を揺るがすテニス選手の性的暴行告発・消息不明(11
・「日本は信頼できない」韓国大統領候補(11/14)
・日本の戦略を高く評価するシンガポール新聞(11/7)
11/28号では、日本とベトナムの安全保障協力を詳しく解説。
11/7号では「最近、日本は目立たないながらも主導的な役割を
▼2021年10月
・世界EV電気自動車バッテリー覇権戦争(10/31)
・今もNYタイムズで追悼される従軍慰安婦(10/24)
・海外からの日本への投資、北朝鮮に次ぐ最下位(10/17)
・日本が核武装を決断する日(10/10)
・中国の情報操作に対抗するシンガポール(10/3)
▼2021年9月
・オーカス(AUKUS)の各国反応(9/26)
・米国の国境に殺到するハイチ人の悲劇(9/19)
・鳩山由紀夫氏に問う(9/12)
・中国で日本テーマパークが閉鎖(9/5)
▼2021年8月
・韓国 従軍慰安婦記念式典(8/29)
・アフガンに入り込む中国の戦略(8/22)
・仮想通貨 恐ろしい騙しの手口(8/15)
・暗号通貨の未来~シンガポールの取り組み~(8/8)
・忍び寄るインフレ、バイデンフレーションの恐怖(8/1)
▼2021年7月
・オリンピック開会式、NYタイムズ厳しい報道(7/25)
・グーグルが国有化される日(7/18)
・無観客オリンピックの報道(7/11)
・タイトル42が廃止される時(7/4)
▼2021年6月
・海外のオリンピック報道は?(6/27)
・テキサス州がトランプの壁を独自建設へ(6/20)
・今、香港に報道の自由はあるか?(6/13)
・中国の台湾侵攻に関する広報・情報戦(6/6)
▼2021年5月
・カマラ・ハリス副大統領の沈黙(5/30)
・海外は従軍慰安婦問題をどう報道しているのか?(5/23)
image by: Orlok / Shutterstock.com