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廃れたドヤ街にある“けんちん汁専門店”になぜ行列ができるのか?

以前は「ドヤ街」と呼ばれ、一般人にとっては近寄りにくい雰囲気を放っていた東京・山谷。賑わいを失いつつあるこの街で、今日も行列を作るとあるお店があります。今回、繁盛戦略コンサルタントの佐藤きよあきさんが、自身のメルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』の中で紹介するのは、 朝早くから営業するけんちん汁の専門店。ドヤ街を支え続けたこのお店は、今後どうなっていくのでしょうか。

ドヤ街を支え続けた、けんちん汁専門店。 街とともに終焉となるのか?

東京・山谷(さんや)と聞いて、そこがどんな街かを知る人は少なくなってきました。

ドヤ街と呼ばれ、日雇い労働者やホームレスが集まっている、一般人には少し危険な地域だと言えます。

いや、かつてはそうだったと言うべきでしょうか。

現在は、新しい簡易宿泊所や小さなホテルができ、その安さ故に、外国人旅行者や国内の若者が利用したりしています。

古い建造物などを撮影するアマチュアカメラマンも増えています。

もう、危険な場所というイメージは払拭されつつあるようです。

かつてこの地域には、1万5,000人の日雇い労働者がいました。

手配師と呼ばれる、仕事の斡旋業者がいて、数人から数十人が一度に建設現場に運ばれて行きました。

もっとも賑わっていたのは、東京タワーや前回東京オリムピックの競技場を建築していた頃。

この時期がピークでしたが、そこから40年ほどは、賑わいを保ったままの街でした。

しかし、時代とともに日雇い仕事は減り、労働者も高齢化してきたため、活気のない寂れた街へと変貌していきました。

この地に豆腐屋さんとして創業し、後にけんちん汁専門店に変わり、営業を続けるお店があります。

85歳と84歳の高齢夫婦が営んでいます。

体力仕事の豆腐屋さんと子育ての両立が難しいとなった頃、奥さんの郷土の味を再現した、けんちん汁専門店を始め、これが当たったのです。

それが30数年前。

お腹を空かせた日雇い労働者がたくさん集まって来るようになり、行列ができるほど賑わっていました。

「ふる里けんちん汁 270円」
「お餅1個 80円」

けんちん汁は、白味噌を味のベースに、白菜、大根、人参、ごぼう、里芋、ねぎ、小松菜、豆腐、油揚げ、こんにゃくという10種類の具材が入っています。

お金の無い日雇い労働者にとって、野菜たっぷりの汁物は、ふる里を思い出し、心を温めてくれたに違いありません。

労働者はさまざまな過去を背負っています。

会社をクビになった人、人に騙された人、家族に見捨てられた人、故郷に帰れない人……。

そんな人たちばかりが集まっている、この場所で営業していると、お客さまである労働者の人生を知ることもたくさんあります。

過去を話したがらない人もいますが、身の上話を聞いて欲しい人もいます。

このお店のふたりは、けんちん汁を売るだけではなく、話を聞くことで、しばし温かい時間を提供しているのです。

このお店の営業時間は、朝5時から朝10時まで。

豆腐屋さんの名残りで朝早くから開けていますが、開店早々、やって来る人もいます。

近くに住む人の朝ご飯となっているのです。

しかし、その客層は、腰の曲がった人、杖をつく人など、高齢者ばかり。

この地域の日雇い労働者は、現在3,500人ほどだと言われますが、その9割は生活保護受給者です。

つまり、実際は労働者ではなく、もう働けなくなり、生活保護で暮らしている人なのです。

また、日雇い仕事も無くなってきた上、2020東京オリムピックをきっかけに、街が様変わりしたのです。

古い建物を取り壊し、街の整備を始めました。

古い簡易宿泊所や商店が、次々と消えていきました。

「ドヤ街の解体」です。

これにより、どんどん人が減り、街の灯も消えようとしています。

けんちん汁専門店も運命をともにするのかもしれません。

店主も「体力的にいつまでやれるかわからない」「仕入れのために乗っている自転車もいつまで乗れるか」と言います。

時代の流れで、仕方のないことかもしれませんが、長年人びとに愛されたお店が無くなるのは寂しいことです。

そして、街全体がまったく新しいものに生まれ変わることで、このお店のことも人びとの記憶から消え去るのです。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 佐藤きよあき(繁盛戦略コンサルタント) 【発行周期】 週刊

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