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橋下徹氏も鈴木宗男氏も。なぜ彼らは露のウクライナ侵略を擁護するのか?

ロシア側の総司令官にシリアでの残虐行為が疑われる将軍が任命されるなど、さらなる市民の犠牲が心配されるウクライナ紛争。ニュース番組やワイドショーでも連日取り上げられていますが、ウクライナ側の非を指摘するかのようなコメンテーターも散見されます。そんな人々を批判するのは、金沢大学法学類教授の仲正昌樹さん。仲正さんは今回、このタイミングでロシアを擁護するかのようなコメントを並べる人々を「プロ失格」とし、その理由を論理的に述べています。

プロフィール仲正昌樹なかまさまさき
金沢大学法学類教授。1963年広島県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了(学術博士)。専門は政治・法思想史、ドイツ思想史、ドイツ文学。著者に『今こそアーレントを読み直す』(講談社)『集中講義!日本の現代思想』(NHK出版)『カール・シュミット入門講義』(作品社)など。

ウクライナ問題でロシア側を擁護したがる人たちの思考の無原則性

ウクライナ危機が勃発してから既に1カ月半が経とうとしている。当初は、軍事力で圧倒するロシアが数日で首都「キーウ」を制圧し、傀儡政権を樹立して、ウクライナをかつてのように事実上の属国にしてしまうと予想されていたが、ウクライナ側が予想外の頑張りを見せ、ロシア側の被害も拡大するなか、西側諸国の多くは、積極的に軍事介入することは避けながらも、「ウクライナへの(軍事物資を含む)支援―ロシアへの経済制裁」でまとまっている。これまでアメリカやEUの対ロシア制裁に距離を置いていたインドも、日本の世論も、国連安保理でロシアによる民間人虐殺を非難するに至った。

同じ東アジアで起こっているウィグルやチベット、香港の問題以上に強い関心を見せ、「一方的な軍事侵略は許されるべきではない」、という方向でまとまっている。しかし、一部には、ウクライナ側にも問題があったとか、アメリカや西側メディアの宣伝に騙されてはいけない、と言いたがる知識人も少なからずいる。彼らは何を考えているのだろうか。

鳩山元首相、橋下元大阪市長、鈴木宗男参議院議員(日本維新の会)などは、コメディアン出身で政治の素人であるゼレンスキー大統領が、NATO加盟問題でいたずらにロシアを刺激したことが問題であることを示唆している。ウクライナ問題でのマスコミの動向に批判的な人たちのほとんどは、そこを強調する。しかし、これを今言うのは、おかしな発想であり、プロの政治家や法律家とは思えない。

喧嘩が起こった時に、やられている側にも問題があるというのはよくあることだ。しかし、先にはっきりした「暴力」行為に及んだのがどちらかはっきりしており、なおかつ、攻撃を開始した方が相手を一方的に攻撃し続け、相手は防戦一方の状態になっているのに、殴らせてしまった責任に言及し、攻撃側を間接的に擁護するのは不公平である。少なくとも、戦闘が完全に終結し、賠償や原状回復が問題になってくる段階になってから議論すればよい。鳩山氏たちのやっていることは、喧嘩のまっ最中に、敗けている方に向かって、「君にも問題があったんじゃないの」、と言っているようなものである。

また、鳩山氏のように、ロシア側の主張をなぞって、ウクライナ東部で、ウクライナ政府がロシア系の住民を虐殺したことを指摘する人や、テレビ朝日のモーニングショーのコメンテーターの玉川徹氏のように、東ウクライナでの紛争をめぐるミンスク合意に違反する軍事行動をウクライナ政府が取ったことが、ロシアの侵攻の原因になったと主張する人もいる。確かにウクライナ東部で実際に何が起こっているかは定かではないが、あくまで「ウクライナ」国内の問題である。仮に、ロシアやロシア系住民の武装勢力が主張することが正しかったとしても、「他の国」で起こっている紛争に、問答無用でいきなり軍事介入し、当該地域だけでなく、首都まで占拠し、国家を解体に追いこんでいい理由にはならない。ウクライナ側がロシアの安全保障を脅かしたわけではない。

ロシア帝国―ソ連時代の“偉大なロシア”を念頭に置いているプーチン大統領にとっては、ウクライナの問題は、“ロシアの国内問題”かもしれない。しかし、そうした、現在の主権国家同士の関係を無視した勝手な世界観を認めれば、大変なことになる。全ての主権国家も、いつ、「お前は本来わが国の一部だ」と言いがかりをつけられて、攻められる危険にさらされる。

左派や親米保守の人々はアメリカが地域紛争に介入するたびに、アメリカの帝国主義だと言って非難するが、アメリカは自分の安全保障が直接脅かされない限り、他の国の紛争にいきなり介入したりしないし、介入する場合でも、大義名分が立つよう、相手に何度も呼びかけるし、単独行動にならないよう、他の西側諸国と連携行動を取ろうとする。今回のロシアはそうした、正当化のための外交的準備さえやっていない。

橋下氏は再三、戦闘を続ければ一般住民が犠牲になるので、ウクライナ側は多少無理な要求でも飲んで早期停戦にもっていくべきだと主張している。しかし、ロシアがいつ首都を制圧して、ウクライナを占領するか分からない状態のまま停戦すれば、その時は一般市民の命が救われても、ロシア支配のもとでどういう目に遭うか分からない。闘い続けるのと、ロシアの実効支配を受けるのとで、どちらが危ないか、どちらがより人間らしいあり方か選択するのはウクライナ人である。仮に、ウクライナ政府が勝手に戦争をしているのであれば、市民の協力が得られず、すぐに崩壊してしまうだろう。

更に言えば、橋下氏のような、国政にも関与している有力な政治コメンテーターが、市民の犠牲を避けるために、不当な要求でも飲むべき、というようなコメントを出し続ければ、それが日本の政治家の発想か、と取られかねない。ただでさえ、戦後七十数年間にわたって、戦争を体験してこなかった日本は、アメリカ軍が守ってくれなかったら、何もできない、と他国から思われがちだし、私たちの多くもそう思っている。他の国が自分の主権を守るために必死に戦い、そのおかげで、国際正義の基本原則が辛うじて守られている時に、有力な保守系の政治家が、〈red better than dead〉的な発言をすべきではない。

橋下氏は、国際政治には裏がある、ということを強調したいのだろうが、先に強調したように、ロシア側の戦闘行為をやめさせ、日本に火の粉が飛んでこないようにするには、日本は今何ができるかを論じるべき時に、“裏”の憶測ばかりしても仕方ない。拘ると、単なる目立つための逆張りになってしまう。こういう時こそ、普段リアリストとして売っている評論家の真価が問われるのではないか。

image by: Drop of Light / Shutterstock.com

仲正昌樹

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